「ガーフィ殿、ボクの仲間を紹介させてもらえないかな？」

　その言葉を聞いたガーフィ様は大声をあげて笑いました。

「あのお転婆イーリス嬢に仲間ときたか！　ハッハッハッハッ！　さぞ頭のネジが外れた集団なのだろうな！」

「ガーフィ殿！　お転婆イーリスと呼ぶのは止めていただきたい！」

「そうかそうか。しかし謝りはしない。そら、早くお前の仲間を紹介しろ」

　二人のやり取りを聞いていると、マルファさんが私の耳元に顔を寄せてきました。

「すげー爺さんだな。普通なら不敬罪で首飛んでるんじゃね？」

「しっ！　聞こえますよ」

「聞こえているぞ」

　私は全身が凍りついたような感覚を覚えました。

　すぐに謝罪しようとすると、ガーフィ様がそれを止めます。

「そこの金髪、このワシを誰か知っていての言葉かな？」

「は、はぁい！　あの〈月の賢者〉様ですよねぇ！」

　マルファさんが久しぶりによそ行きの声を使いました。よほど怖かったのでしょうね。

　ですが、ガーフィ様にはすぐにバレていました。

「そんな喋り方はいらん。それで騙されるのは猫だけだ」

「ちっ。調子狂うなぁ」

「ほう。そっちのほうが良いじゃないか。金髪、名前は？」

「マルファだ」

「マルファか。そしてそちらのメイドさんは？」

「アメリア・クライハーツです！　よろしくお願いします！」

「結局自分で聞いているじゃないか」

「さて、何のことかな？」

　紹介する気だったエイリスさんが複雑そうな表情を浮かべていました。一国の王女だと分かりきっているのにこの対応の仕方。

　それが許される方なのだと、嫌でも伝わってきます。

「それで、ワシに何の用かな？　ここ最近の魔物の襲撃地点は教えたはずだが？」

　私は思わずそんなことが可能なのか聞くと、ガーフィ様は大したことでもないように言いました。

「可能さな。ワシは少し先の未来を視る事が出来るからな」

「みっ未来を！？　一体どうやって！？」

「マルファとやら、お前は分かるか？」

「なんとなく想像はついた。けど、これが当たっていたら、だいぶ『マジか？』ってなっている」

「言ってみるといい」

　ガーフィ様に促され、マルファさんはその想像・・を話しました。

　結論から言うと、ガーフィ様は空間魔法の応用で未来を視ているとのことです。空間魔法はまだまだ解明されていない未知の魔法です。

　その中には例えば、時間の壁を捻じ曲げて、未来を覗くことが出来るものがあるのではないか。これだけ大規模な空間魔法を行使、維持できるくらいの力量があるのなら、そういうことも出来るのではないか。

　傍で聞いていた私はあまりにも話の規模が大きくて、想像するのさえ難しかったです。

　空間魔法とは本当にそのようなことが可能なのでしょうか？

「ほぼほぼ正解だ。正確には時間を空間に置き換えて、連結している。捻じ曲げることも不可能ではないが、色々と影響が大きいのでやろうとは思わんな」

「マジだった。……やっぱり魔法ってすげぇな。わたしも絶対習得する」

　その言葉を聞いたガーフィ様は何やら楽しそうに笑いました。

「これを聞いた奴はだいたい二通りの反応をする。一つ目は『すごい。そんな魔法を使えるなんて尊敬です』、二つ目は『私なんて一生かかっても使えないでしょうね』だ」

「へー。それが何だよ？」

「三通り目の反応は初めてだ、という話さ。全く、中々に根性の座った嬢ちゃんだ」

　ガーフィ様は私の方を見ました。

「さて、君だ。カサブレードに選ばれたアメリアよ」

　ガーフィ様が手を差し出して、こう言いました。

「そのカサブレードをワシに渡してもらおうか」

　全身が凍りつくような感覚でした。

　突然の発現にエイリスさんも、そしてマルファさんも口を開けずにいました。

「カサブレードは人が持つには過ぎた力だ。ワシなら人類のため、有効活用が出来る」

「い、嫌です」

　周囲の空間が歪んだと思ったら、様々な方向から剣が伸びてきました。少しでも動けば、全身串刺しにされそうです。

　ガーフィ様は無表情で私に近づいてきます。

「何故だ？　カサブレードを寄越せば、お前は元の生活に戻れる。平穏な日常を取り戻せるのだよ」

　私は目を閉じました。

　カサブレードを手放したときのことは何度も想像したことがあります。いつもどおりの日常、誰かに仕えて、奉仕をし、穏やかに過ごしていく。

　そうですね、私はその日常を何よりも夢見ています、今でも。

「それは私がしっかり太陽の魔神を倒してからにしたいです。どういう訳か分かりませんが、私は選ばれたんです。だから、私でも何か出来るなら、それをしっかりやりたいんです」

「うん、合格」

　剣がどこかに消えていきました。あれだけ恐ろしい気配を放っていたのに、それも一緒に消えてしまいました。

「試して悪かったな。許せ」

「ガーフィ殿、説明してもらうよ。流石にボクの仲間へ剣を向けたことは見過ごせない」

「まぁ、そうだろうさな。けどワシとしてもカサブレードに選ばれたものが中途半端な奴だったら、許せんしな」

　ガーフィ様からカサブレードを出すように言われ、私は指示に従いました。

「うむ、本物のカサブレードだな。内包された力で分かる」

「爺さん、見たことあったのか？」

　すると、ガーフィ様は首を横に振りました。

「見たことあるどころか、ワシもかつて、カサブレードに選ばれ、太陽の魔神と戦っていたのだよ」

「えぇっ！？　ガーフィ様が！？」

「ガーフィ殿、それは初めて聞くよ……」

「初めて言ったからな」

　ガーフィ様がカサブレードの使い手だった！？　だ、大先輩がこんな間近にいたなんて。なら、色々と聞きたいことがあります。

　どれから聞こうか迷っていると、ガーフィ様もそれを察してくれたようです。

「まぁ、座れ。これも運命だ。そしてワシの知っていることを全て話そう。今度こそ太陽の魔神を葬り去るためにな」