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第76話 恵みの神、ルーラー・オブ・ソル

「そもそも太陽の魔神とはどういう存在か。そして、何故カサブレードが唯一太陽の魔神への対抗策となるのか。それを話していこう」


 ガーフィ様の話が始まります。


「太陽の魔神、本来の名前はルーラー・オブ・ソル。奴は元々この世界を守護する神々の一柱だと言われている。それがある時、歪んでしまったのだ」


 太陽の魔神とは後から人々が付けた名前であり、本当の名前は恵みの神、ルーラー・オブ・ソル。その名の通り、生命力に満ち溢れた日光で世界を照らし、人々に豊かさをもたらす善に満ち溢れた神様だったそうです。

 ですが、ある日、ルーラー・オブ・ソルは歪んでしまった。

 全てに恵みをもたらしていた神が、その性質を歪め、数百年前、人類を滅ぼすために行動を開始しました。


 太陽の魔神と人類の戦いは七日間続いたそうです。そして、最終日、ついに現れたのです。聖剣カサブレードを手にした勇者様が!


 勇者様は太陽の魔神を滅ぼせはしなかったものの、封印することに成功。人類に平和が訪れたのです。


「だが、太陽の魔神は狡猾だった。肉体はあっさりと放棄し、魂を半分に分割し、その魂の片割れを封印させたのだ」

「そんなことが……。それなら、太陽の化身というのはどういう存在なんだい? 彼らは自分のことを太陽の魔神の欠片とでもいうようなニュアンスだったけど」

「その理解で良いだろう。太陽の化身はいわば、太陽の魔神の指先にあたる存在だ。力は持っているし、太陽の魔神の意思も介在しているだろうしな」

「なぁ……それなら、あいつが手に入れたブレスレットって……」


 その時、ガーフィ様の目が鋭くなりました。


「ブレスレットだと? 何のことだ?」


 そう言えば、私達はサンハイルさんのこととライテムのことを話していなかったことに気づきました。

 代表してエイリスさんが説明をしてくれました。要点がまとまっており、非常に分かりやすい説明でした。

 その分かりやすさが故に、ガーフィ様はよりリアルに事情を受け止めたのか、顔を険しくさせます。


「いつかは現れるかとは思ったが、まさか本当に太陽の魔神と波長の合う人間が現れるとはな……。しかも太陽の魔神の分体まで手に入れたときたか」

「爺さん、それってどれくらいヤバいんだ?」

「そうさな。そのサンハイルという奴がどれくらい熱心に太陽の魔神の復活を目指しているか知らんが、今日明日にでも太陽の魔神が完全復活したとしてもおかしくはない」

「ガーフィ殿、何か手はあるのかい?」

「太陽の魔神は今、力を物理的に失っている状態だ。それでも意識だけは何とか自由に動かせるらしい。となると、奴に必要なのは何だと思う?」


 力を物理的に失っている状態、意識だけは自由に動かせる。そこまで来ると、私は何となく察しがついてしまいました。


「まずは力と、そして身体……もしくは身体に似たもの、ですか?」

「その通り。既に条件は揃っているということだな」

「これを防ぐにはどうしたらいいんだい?」


 方法は一つしかないと思いました。単純で、だけど途方もなく難しい。

 私のようなポンコツメイドが思いつくのだから、エイリスさんとマルファさんも察しているのでしょう。二人とも、微妙な表情を浮かべていました。

 ガーフィ様の口から出た案は、まさにその通りの内容でした。


「太陽の魔神に近いサンハイルを捕らえる、あるいは殺す。そしてブレスレットは可能ならば破壊だ。これならば、太陽の魔神の完全復活は阻止できるはずだ」


 言うはやすく行うはかたし――何かの書物で読んだ言葉が、私の脳裏をよぎりました。

 どうあってもサンハイルさんとの戦いは避けられないようです。そうなれば、鍵を握るのは当然カサブレードを持つこの私となります。


「あの、ガーフィ様。カサブレードの力をもっと引き出すにはどうしたら良いのでしょうか?」


 今の私はずっと前の私よりは成長できたはずです。

 ですが、全然足りません。サンハイルさんと戦うには、土台が違い過ぎるのです。

 もっとカサブレードの力を引き出さなければ、勝ち目なんて……!


「答えられん」

「!」

「何でだよ爺さん、世界の危機なんだろ? 勿体つけんなよ」

「別にワシは勿体つけているわけでも、意地悪をしているわけでもない」


 ただ、とガーフィ様は言いました。


「カサブレードは心だ。故に、カサブレードの力を引き出すのに正解はない。出来るか、出来ないかだけだ」

「心……」


 私は今までの出来事を思い返しました。

 確かにカサブレードの力を引き出すことに、何の技術も必要ありませんでした。その時、その瞬間必要な力をカサブレードは与えてくれます。


「ありがとうございますガーフィ様。私、もう少し頑張ってみたいと思います」



「いい心がけじゃねーか。せいぜい頑張るこったな」



 突如、サンハイルさんが入室してきました。


光鎖こうさ魔法」


 なにもないところから、光の鎖が複数伸び、サンハイルさんを拘束しました。行使者はガーフィ様です。


「おいおい、まだ何もしてねーだろうが」

「その気配、よく分かる。お前が太陽の魔神とツルんでいる奴だな。なら、何かする前にどうにかするのが筋だろうさ」

「はっ、まぁ話は聞いているだろう、なっ!」


 サンハイルさんが力を込めると、光の鎖にどんどんヒビが入ります。壊されるのも時間の問題。

 ですが、ガーフィ様は既に手を打っていました。


「十連光鎖魔法」


 再び光の鎖が伸び、サンハイルさんに絡みつきます。その本数、先程の十倍。


「ちっ! んだ、これ! さっきの鎖と違うのか!?」

「当たり前だ。これは太陽の魔神を拘束するために鎖の魔力構成を変えている。力業で破るにしても、二分はかかるだろう」


 サンハイルさんの前後左右に巨大な刃が出現します。刃をよく見ると、振動しているように見えます。


「だが、その二分でお前を滅殺する」


 サンハイルさんへ引き寄せられるように、刃が高速で衝突します。


「人間相手に使う魔法ではないが、お前は特別だ。ワシの超振動肉切り包丁の魔法でズタズタになるがいい」

「――ぐぅぉおおおおお!」


 まるでひき肉でも作るかのように、サンハイルさんの身体が切り裂かされていきます。全身の骨や筋肉を全て砕くように、刃は振動を続けます。

 刃の振動があまりにも強く、ガーフィ様が作ったこの空間でなかったら、少し大事になっていたことでしょう。


「す、すげぇ。あのサンハイルがやべーことになってる」


 刃が消滅しました。

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