「――で、ガーフィ殿は眠りについたんだね」
「まぁ、そういう訳だ。魔力を使いすぎて、消耗してしまった」
救護室のベッドの上で、ガーフィ殿はあくびを漏らします。
「ほんっとうにびっくりしたんですからね!?」
「すまんなアメリア。本当に眠かったのだ」
結論から言うと、ガーフィ様は無事でした。
あのあと、すぐに救護班が来たのです。エイリスさんは私達が落ち込んでいるのを確認したあと、すぐにガーフィ様の鼻をつまみます。
そうするとなんと、ガーフィ様が苦しみだしたではありませんか。
あれが演技だったと明らかになった瞬間でした。
とは言え、消耗していることには変わりなかったので、すぐにガーフィ様は救護室へ直行。しばらく無理をしないように伝えられていました。
「ガーフィ殿。ボク達を救ってくれたことには感謝する。けど、これは少しやり過ぎだったんじゃないかい?」
「イーリス嬢、目が怖いぞ」
「そりゃあね。貴方の死んだふりなんて何度も見ていますが、アメリア達は初めて見たんだ。あの反応は当然ですよ」
「愉快だったから良いではないか。ほんの冗談だ」
「周りが愉快な気持ちになることが冗談です。貴方のは悪ふざけと言うんです」
「ふむ……この〈月の賢者〉を相手に論で打ち勝つとは中々やるではないか」
「こんな真似、金輪際しないでいただきたい」
「分かった分かった。そう睨むな」
話が一段落した辺りで、マルファさんがサンハイルさんのその後を聞きました。
「あぁ、あいつワシの作った空間に閉じ込めてきた。そう簡単に脱出は出来ないだろうな」
「空間魔法ってのはあんなことも出来るんだな」
「そういうことだ。ま、そう長くは保たないだろうがな」
「保たないんですか!?」
思わず聞き返してしまいました。あれだけすごい魔法を使ってもなお、駄目なのでしょうか。
「もちろん理想は死ぬまであの空間に幽閉されていることだ。だが、太陽の魔神の力がそれを許さぬだろうさ」
「そうか。じゃあこれは時間稼ぎ、ってところかな?」
エイリスさんの問いに、ガーフィ様は頷きました。
どうしましょう。エイリスさんの言っている意味が全然分かりません。マルファさんの方を見ると、どうやら理解しているようでした。
「太陽の魔神を倒す。そのためにはカサブレードの潜在能力を解放させる必要があるだろう」
「そっそんなことが出来るんですか!?」
「これはワシも成功した試しがないので、確証はないがな」
「私は何をすれば良いのでしょうか!?」
ガーフィ様が地図を持ってくるように言いました。
地図が到着すると、ガーフィ様はとある場所を指さします。ですが、そこがどこなのか全く分かりません。エイリスさんやマルファさんも首を傾げていました。
「ここはどこなんですか?」
「〈日食の神殿〉――この国の領土の中心点だ」
「待ってくれガーフィ殿。そんなところあったのかい? 王族のボクでも良く分からない場所なんだけど」
「あるのだ。そして、カサブレードはそこで生まれたとされる」
カサブレード生誕の地。
私は何故か緊張してしまいました。
そことカサブレードの潜在能力を解放させることと、どんな関係があるのでしょうか。
「ワシが調べたところ、カサブレードの力を正しく引き出せた者はいないとされる。それは使い手のせいではなく、場所も関係するとされている」
「そこがここってことか」
「そこへ行くことによって、カサブレードの力が解放されるらしい。本当かどうかはさておいてな」
「私、行ってみたいです。いつサンハイルさんが襲ってきても良いように、やれることはやっておきたいです」
「んじゃ、決まりだな」
「ボクのほうでこの〈日食の神殿〉を事前に調べさせてほいい。この国のことは把握しているつもりだったけど、ここは全く知らない場所だったからね」
方針が決まりました。
エイリスさんが調べている間、私とマルファさんは待機ということになりました。少しもどかしい気持ちもあります。だからこそ、事前の情報収集はしっかりするべきだと思います。
なんせカサブレード生誕の地とされる場所なのですから、何があっても不思議ではありません。
一時の休息が始まりました。
◆ ◆ ◆
私は一人で宿屋にいました。マルファさんは魔法関係の書籍を買うため、途中で別れました。
「とはいえ、何をしたら良いのか、悩んでしまいます」
とりあえず部屋の掃除は終わらせ、ベッドの上に寝転がっています。
天井をぼーっと見つめ、なるべく何も考えないようにしています。ですが、本来じっとしているのが駄目な私は、結局色々と考え込んでしまうのでした。
「カサブレード、かぁ。少しは使えるようになったと思ったんだけどな」
カサブレードの潜在能力。私はまだまだカサブレードのカの字も知らなかったのかもしれません。
それでよく太陽の魔神やサンハイルさんを倒そうと思えたなぁ。ちゃんと解放出来るのかなぁ。
気づけば私は起き上がり、部屋を飛び出していました。
ある人物へ会うため、私は走ります。
「……それで、俺のところに来たという訳か」
サンドゥリス王国軍軍団長補佐室で、私は頭をブンブンと縦に振りました。
会いたい人物とは、フレデリックさんのことでした。
突然の訪問にも関わらず、フレデリックさんは快く迎え入れてくれました。……無表情なので、快くなのか自信はありませんが。
「はい! カサブレードのことだったので、フレデリックさんにも話を聞いてもらいたくて」
「……一応、言っておくが、俺が使ったカサブレードは紛い物だ。話を聞くのは良いが、 何の役にも立たないぞ」
「それでもフレデリックさんには聞いて欲しいんです」
「物好きな奴だな」
改めて私は今の状況を説明しました。
ライテムでの出来事、サンハイルさんのこと、ガーフィ様の倉庫での一件、そして〈日食の神殿〉のこと。
あまり説明が得意ではないので、勢いのまま喋りましたが、フレデリックさんは黙って聞いてくれていました。
「相変わらずお前たちの周りは話題に事欠かないな」
一通り話し終えると、フレデリックさんは小さくため息をつきました。