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第80話 落とし物

「城内の環境整備月間?」

「そうなんスよ! 月に一回、城内の環境衛生を点検する日があるんスよ! それで今回は地下倉庫になったんスけど……」


 メイド達の仕事の一つに、環境衛生の維持があります。その月に一回の点検に不合格だからといって、何かペナルティがあるわけではないそうです。

 でも、メイドとしての誇りに関わってくるというので、非常に気を遣っているそうです。私はルミラさんの気持ちがよく分かります。

 掃除の出来ないメイド、あるいは掃除の出来なそうなメイド。なんという不名誉なことでしょう。

 一応の事情を把握した私は改めて、ルミラさんに協力の意思を示します。


「アメリアさんなら快諾してくれると思ったっス! それで続きなんスけど」


 城の地下倉庫は非常時、国民に放出する災害用備蓄庫も兼ねているようで、とても広いそうです。事前に掃除はしているそうですが、ルミラさんの求めているクオリティにはなっていないそうです。

 それだけならまだ良かったらしいのですが、ディートファーレさんからついでに備蓄の総点検も依頼されたそうです。

 王国の軍団長からの依頼となれば、断るわけにもいかず、ルミラさんは腹を決めたそうなのですが……。


「通常業務の他に点検日にも備えているので、人数が足りねー足りねー。ということで、申し訳ないんスけど、アメリアさんにも手伝ってもらえないかなと」

「私で良ければ、何でもやりますので、大丈夫ですよ」

「心強いっス。あ、もちろんバイト代は弾むんで期待しててくださいっス」

「バイト代? メイドの仕事をやらせてもらえるのに、なんでバイト代が出るんですか? やだなールミラさんってば、二重で報酬を渡すことになりますよ」


 もう、ルミラさんってば余裕がないから忘れてしまったのでしょうか。メイドの仕事をするということは、既に報酬をもらっていることと同じなのに。


「あっ……。そういや、アメリアさんってそっち・・・の人っスよね。忘れてたっス」


 何故かルミラさんが遠い目になってしまいました。

 昔、誰かから『アメリアはこのタオコール家のメイドの中で、一番覚悟決まっている奴だな』と言われたことがあります。私は私の出来ることをしているだけだったので、この言葉の意味がとうとう分かりませんでした。


「と、とりあえず。あとでご飯代くらいは出させてほしいので、よろしくお願いするっス」


 あまりにも必死だったので、私はありがたく受け取ることにしました。本当に良いのかなぁとは思いますが、良しとしましょう。


「ここが現場っス」


 重い鉄扉を開け、地下に降りた私がまず目についたのは、その広さでした。

 災害時の備蓄庫も兼ねているということで、覚悟はしていましたが、本当に広いです。

 まず、階段を降りて突き当たりまでやってきます。そこからは左右の分かれ道になっており、張り紙でそれぞれどういう場所なのか表記されています。

 右に行けば城の倉庫、左が災害用の備蓄庫行きとのことです。


「アメリアさんはあたしと備蓄庫の整理と掃除をお願いしたいっス」

「分かりました! 早速行きましょう!」


 道具の場所は前回ヘルプに来たときに教えてもらったので、既にここは勝手知ったる場所です。


「あれ? 他の人は?」

「あぁ、動ける奴らは倉庫を担当してもらっているっス。アメリアさんが来てくれたんなら、あとはあたしがいりゃ、均等な配置になるっスからね」

「そ、その評価は高すぎでは? 良いんですか?」

「もちっス。んじゃ、アメリアさん、勉強させてもらうっス」


 ルミラさんと簡単に打ち合わせをしました。

 二人で同じことをやっても良いのですが、それだと少し効率が悪いように思えたので、二手に分かれることにしました。

 私が備蓄の在庫確認と整理。ルミラさんが掃除をするという布陣です。


「よし、じゃあ早速やりましょう」

「でもアメリアさん、本当に良いんスか? あたしが備蓄の整理しても良かったんスけど」

「良いんですよ。私、こういうの得意なので!」


 ルミラさんはそれ以上は何も言わず、お互い行動を開始しました。

 災害時の備蓄庫は色んな物が揃っていました。配給用の食事や毛布、衣類などなど。帳簿と照らし合わせ、状態や数を確認していきます。

 この手の仕事は好きです。メイドたるもの、相手の顔や仕草を見て、何を求めているか察する力が必要です。


「よし、ここも終わりですね」


 私は視界が広いのか、視界に入っている物は全てしっかり認識できます。おかげで大量の物を数えるのが得意だったりします。状態の良し悪しは都度、気になった物を確認していけばいいです。

 どんどん帳簿にチェックを付け、状態の悪い物は取り除き、補充の必要な物はリストに書き出します。もちろん、物の積み方を変えて、見やすくすることも忘れません。

 私はポンコツメイドなので、こういった仕事こそ全力以上で取り組む必要があります。


「……っぱ、すげぇわアメリアさん」


 遠くでルミラさんが何かを言ったような気がします。ですが、集中力を切らすわけにはいきません。だいぶ作業が進んでいるので、このペースなら、ルミラさんを手伝えるはずです。


「あれ?」


 荷物の整理の途中、棚と棚の間に何か落ちているのが見えました。手を伸ばせば届きそうです。

 このまま無視しても良かったのですが、なんだか妙に気になってしまい、私はつい手を伸ばしました。


「何これ? 三日月のペンダントでしょうか?」


 古ぼけた三日月のペンダント。埃がたっぷり乗っています。ですが、造りはしっかりしていそうです。汚れを取り除けば、立派な装飾品になるでしょう。

 流石にこんな物を見つけてしまえば、ルミラさんへ報告せずにはいられません。


「へー。こんなもんが出てきたんスね」


 ペンダントをまじまじと見つめるルミラさん。そのペンダントを私の方に手渡してきました。


「これはアメリアさんにあげるっス。磨いて使うなり、売り飛ばすなり、自由にしてほしいっス」

「え、ええっ!? そんな! いけませんよ!」

「良いんスよ。ここって災害時かこういう在庫確認のときにしか来ないし、本来はもっと朽ち果ててもおかしくない代物のはずっス」


 けど、とルミラさんは続けます。


「そんな朽ち果てていくものを、何の縁かアメリアさんが拾った。なら、その縁に流されるのもまた、乙なもんじゃないスかね?」

「むー……」

「ほーら、さっさともらってくださいっス。まだまだやることいっぱいなんスから!」


 ルミラさんに流されるように、私はペンダントをポケットにしまいました。

 せめてピカピカに磨いてあげようと思いました。

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