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第81話 再度のスカウト

「っはぁー。すげぇ、こんな短時間にだいたい終わっちまった。流石アメリアさんっス!」

「いえいえ。ルミラさんの手際が良かったんですよ」

「へへっ。あのアメリアさんに褒められると照れるっスね」


 私は前から気になっていたことを聞いてみることにしました。


「あの、どうしてルミラさんは私のことをそんなに慕ってくれるんですか? そりゃ、すごく嬉しいですけど」

「……答えるのは難しいっスねぇ」

「え!? そうなんですか? それなのにどうして?」

「いや、何て言えば良いんだろう。アメリアさんはー……そう、背中で語る人っス」

「背中、ですか?」


 私の背中はそんなに語っているのでしょうか?

 全く訳が分かりません。


「タオコール家のメイドたちって、色々いるじゃないっスか。仕事の出来るメイド、指示がわかりやすいメイド、細かな作業が得意なメイドとか」

「そうですね。みんなすごかったです」

「その中でもアメリアさんは決して自分を曲げないメイドだと思うんスよ」

「自分を曲げないですか?」

「特にあたしがそう思ったのは、あのつまんねー派閥争いの時スかね。アメリアさん、覚えてますか?」


 派閥争い。よく覚えています。

 タオコール家のメイドは、どこかエリートメイド養成機関のようなところもあります。当然、持っているプライドもそれなりに高い人は多く、それは自然と誰かをライバル視する要因にもなります。

 総メイド長と副メイド長はその最たる例です。一時期、総メイド長と副メイド長がいがみ合っていた時期がありました。

 自然とメイドたちは二分されました。総メイド長派か副メイド長派か。


「あたしは総メイド長の方についていたっス。どちらかを選ばなければ、仕事もまともに出来なかったスからね。でも、アメリアさんは違った」

「私はメイドの仕事が出来れば良かったですからね。正直どっちが良いとかはなかったというわけです」

「なんでもないように言うけど、あたしを始めとする他のメイド達はそう出来なかったんス。だからあたしはアメリアさんのことをかっけーと思ってるんスよ」


 まさかルミラさんがそんな風に思っていてくれたことに、驚きを禁じえません。だって、私は私のやりたいことをやっていただけでした。

 ある意味ただのわがまま。けど、そんな私をかっこいいと思ってくれていたのなら。こんなに嬉しいことはありません。


「そっか……。私、かっこよかったんですね」

「そんなん当たり前っスよ! アメリアさんはいつまでもかっけー先輩っス!」


 一通り仕事も終わったので、私はルミラさんに連れて行かれます。

 そこは総メイド長の部屋でした。


「ささっ、座ってくださいっス。小休憩するっスよ」

「そんな、大丈夫ですよ。私はこのまま他のメイドの手伝いに行けます」

「だーめっス。そんなんあたしが許しません。むしろ、アメリアさんはほんの少し休んで、そこから更に本気出してくれるくらいがちょうどいいんスよ」

「そ、そういうものなのでしょうか?」

「そういうもんなんス」


 強引に紅茶を押し付けられた私は、言われるがままに身体を休めることにしました。

 私が紅茶を啜ったのを見計らったように、ルミラさんが話しかけてきます。


「あのあのっ。アメリアさんは今、冒険者やってるんスよね? 冒険者ってどんな感じなんスか?」

「そうですね……。魔物とか人間相手に戦っているので、いつも死にそうになってます」

「……冒険者になるから、そこは予想してたんスけど、あのアメリアさんが戦いをねぇ……」

「ほんと、どうしてこうなったんでしょうね」


 あはは、と私は笑いました。


「あの」


 いつの間にか、ルミラさんが真剣な表情に変わっていました。


「やっぱり、冒険者辞めて、ウチで働きませんか? アメリアさんなら即戦力だし、あたしも助かるし、これからもアメリアさんから指導してもらえるしで、一石何鳥にもなるんスよ」


 ルミラさんは相変わらず真っ向勝負です。

 それだけに、ルミラさんが本当に私のことを必要としてくれているのが分かってしまいます。

 私だって、メイドの仕事だけをやっていたいです。


 ――でも、もう決めたから。



「はは、もーアメリアさん、なんつー顔してんスか」



 ルミラさんがお腹を抱えて笑っていました。先程の真剣な雰囲気はどこにいったのでしょうか。


「大丈夫っスよアメリアさん。アメリアさんが一度やり切ると決めたことは、最後までやり切ることなんて知ってるっスよ」


 「後輩舐めないでくださいよ」と両手を腰に当てて、どこか得意そうに胸を逸らします。


「もしもアメリアさんが全部やりきって、その後にやることなければ、いつでもウチに来てくださいっス。アメリアさんならどんなタイミングで来ても、即採用するんスから」

「ありがとうございます。私もルミラさんと働くのは楽しいので、またいつでも声をかけてください。お手伝いくらいなら、いついかなるタイミングでもオーケーです」


 私は幸せです。

 エイリスさんやマルファさん、そしてルミラさん。居場所があるというのはこんなに嬉しいものなんですね。


 小休憩も終え、備蓄庫で気になった場所の再掃除を終わらせた辺りで、城の倉庫側が少し騒がしくなりました。

 すぐに静かになり、足音がこちらに向かってきます。


「アメリア、ここにいたのね」


 イーリス王女の格好をしたエイリスさんが現れました。

 ……ん? この場合、本来の姿に戻っている、という表現が正しいのでしょうか。


「探しましたわよ。お話したいことがあるので、わたくしについて来てください」


 エイリスさんはどこか浮かない表情でした。

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