連れてこられたのは、王族専用の応接室でした。
部屋に入ると、既にマルファさんがいました。
「ふぅ……やっぱり、この格好は疲れるね」
エイリスさんがティアラを外し、どこから取り出したのか、いつもの帽子を被りました。
「うん、ようやくボクにも安らぎが訪れたよ」
「お前のこんな姿、他の奴らが見たら幻滅するだろうな」
「だーいじょうぶ。見られなければ良いだけだよ。あれ、もしかしてマルファ、ボクのことを心配してくれたのかな?」
「ち、ちっげーし! 勘違いすんな!」
二人のやり取りを聞くと、安心感すら覚えます。
エイリスさんはだいぶリラックスできたようですが、まだ表情がぎこちないです。
「あの、エイリスさん。大丈夫ですか? なんだか顔色が悪いようですが……」
「うーん……やっぱりアメリアには気づかれちゃうね。それじゃあ、早速本題に入るとしようか。例の〈日食の神殿〉のことさ」
エイリスさんから出た言葉は、いきなり衝撃的なことでした。
「〈日食の神殿〉へ入ることは大変そうだということが分かった」
「え、何でですか!?」
「少し話が長くなるんだけどね」
〈日食の神殿〉という建物は確かに存在するとのことです。ですが、その建物は限られた者しか存在を知らないとのことで、エイリスさんがお父様――つまり国王陛下にその名前を出したら、驚かれたようです。
「ボクにはもうしばらく後にその存在が明かされる予定だったようだね」
「んで? 何で限られた奴にしか入れねーんだよ」
「一つは入ろうとしても、結界のようなものがあって、たどり着けないこと。そして、二つ目が最大の理由なんだけど」
エイリスさんは苦笑しました。
「どうやらその敷地、王家の墓がある土地の中にあるようなんだ」
後から明かされる予定だったというのは、主に王家の墓絡みが理由のようです。王家の方々は一定の年齢に達し、王族としての心構えが身についた段階で、墓参りも兼ねて連れて行かれるそうです。
それなら、分からないのも無理はないし、国王陛下が驚かれるのも当然と言えるでしょう。
「一応、入れないか聞いてみたんだけど、やっぱり王族でない者をそう簡単に入れる訳にはいかないってさ」
「一人娘であるお前の頼みでも無理なのか」
「うん……ごめんね。何とか説得はしてみたんだけどね」
「どうしましょう……。なら、〈日食の神殿〉に行くことは出来ないんですね」
すると、エイリスさんはきょとんとした表情で首を傾げました。何故か頭の上に疑問符が浮かんでいるのが見えます。
「? どうして行けないんだい?」
「え? だって、王族でない者が入れない場所なんですよね? だから――」
「――だから、忍び込むんだろ? 言ったろ、
「何となく予想はしていたが、お前ほんっとお転婆もいいとこだな」
そう言いながらも、マルファさんはどこか楽しそうでした。
「え、ええ!? 良いんですか!? そんなことして!?」
「駄目に決まってるよ。そんなところに無断で入るなんて、怒られるどころじゃ済まないかもしれない」
「要はバレないように動けってことだろ?」
マルファさんの要約に、エイリスさんはウィンクで答えました。
「そういうこと。とは言え、問題点もある」
「あぁ、その結界ってやつか」
「そう。王家の墓がある土地へは入れる。ただ、〈日食の神殿〉に入るためには結界をどうにかしないとならない」
「じゃあ、まずはその結界を突破する方法を探さなきゃならないんですね」
「うん……そして、それについては少し悩んでいる」
そう言いながら、エイリスさんは一本指を立てました。
「一つは、向かいながら案を考えること。太陽の魔神の手先がいつ〈日食の神殿〉に勘づくか分からないからね。行動は早いほうが良いだろう。それに早く行けば行くだけ、結界破りの方法も試行錯誤出来るだろうし」
言い終わると、二つ目の指を立てました。
「二つ目は、一度立ち止まって何か情報がないか探ること。情報がないまま、闇雲に向かうのは良くないからね。しっかり情報収集してから望むのもいいだろう。ただし、目当ての情報が見つかるか保証はないけどね」
マルファさんが即答します。
「わたしは前者だな。万が一その〈日食の神殿〉とやらがぶっ壊されでもしたら終わりだろうしな。ぶっつけ本番くらいのスピード感が良いのかもしれねぇ」
「なるほどね。それもその通りだ。ボク達にはあと、どれくらい時間が残されているか分からないしね。アメリアは?」
確かに早さは大事だと思います。あとどれくらい時間が残されているのかも分かりません。マルファさんの言うことは間違っていません。
だからこそ、私はその案に賛成しきれませんでした。
「それも良いかもしれません。けど、一度調べてみませんか? もしかしたらヒントくらいは見つかるかもしれませんし」
「もしそれで手遅れになったら笑えねーぞ」
「でも、無策で行って、手立てはありませんでした。というパターンが一番怖いと思うんです」
「……まぁ、アメリアの言うことも分からねーって訳じゃねえんだよな」
マルファさんがちらりとエイリスさんを見ます。
「あと一人だ。お前はどう思うんだよ、エイリス」
「無論、先を急ぎたい」
「ふーん。じゃあ多数決で――」
「――とは言え、アメリアの言う通りでもある」
「あん? 何が言いてぇんだ?」
「三日間調査をしよう。そこで何も見つからなかったら、見切りをつけて、〈日食の神殿〉に向かう。後は出たとこ勝負といこう」
「お前それ、最初からそのつもりだったろ?」
「あっはっはっは。何のことかな? ボクは二人の意見の妥協点を提示しただけだが?」
マルファさんがエイリスさんへじとーっとした目を向けます。ですが、エイリスさんは涼しげに受け止めます。
「とはいえ、二人の意見はどちらもその通りで、じゃあどちらも尊重しようと思っただけだよ。それ以上でも、それ以下でもない」
「ほんっと、この国の未来は明るいことで」
「はは、褒め言葉と受け取っておくよ」
エイリスさんは私達に向き直ります。
「ということで、時間がないのは本当だ。今日から三日だ。それで手立てがなさそうなら、すぐに発つ」
「分かりました! 何とか結界を破る手段を見つけます!」
私達は早速、城の書庫へ向かうことにしました。