城の書庫で情報収集を開始して、二日が経ちました。
「だー! 見つかんねぇ!」
本の山の中で、マルファさんが叫びます。
それもそのはず、この書庫にはそれはもう沢山の本が保管されており、選ぶのだけでも体力を使います。
私達は気になるタイトルがあれば、すぐに引っ張り出し、机に広げていきます。
「叫ばない。ボク達が掃除していないってことがバレるかもしれないだろ?」
エイリスさんはエイリスさんの格好で本の捜索をしていました。
現在、この書庫は貸切状態となっています。書庫の大規模整理という建前です。
限られた時間の中で、私達は今、〈日食の神殿〉に関する情報をかき集めていたのです。
「そうそう。図書館ではお静かに。いや、失礼。ここは書庫だったね」
白髪の男性がにこやかに近づいてきました。歩くたびに着ている白衣がふわりと揺れます。
この方は今回、私達の情報収集に協力してくれる方です。
「ブレネンさん、色々と資料を持ってきてくださり、ありがとうございます!」
「いやいや! お礼を言われるほどじゃないよ。なんせ、カサブレードや太陽の魔神について調べたいという人なんて、そうはいないからね」
「それにしても、ブレネンさんが持ってきてくれる資料はすごく参考になるものばかりです」
「そう言っていただけると光栄だよ。伊達に司書を名乗っているわけじゃないからね。と言っても、複数人いる中の……だけど」
ブレネンさんはここの書庫を管理している司書組の一人です。
ここの書庫にある蔵書は膨大で、複数人で連携して管理しているそうです。
今回、エイリスさんが王女権限を使い、司書組の中から一人助っ人として出してもらったようです。
もちろん整理というのは建前で、ここを占有して調べ物をしたいということは伝わっています。
ただし、〈日食の神殿〉のことは秘密にしています。あくまで、カサブレードや太陽の魔神について、王女から調査依頼を受けた、ということになっています。
「ブレネン殿、今日を入れたらあと二日、よろしくお願いします」
「もちろんです。王女から司書組に動員依頼があった際、僕は心躍りましたよ。なんせ、あのカサブレードや太陽の魔神ですからね!」
エイリスさんとブレネンさんが和やかに会話しています。しかし、ブレネンさんはエイリスさんがその王女だということを知りません。
エイリスさんがイーリス王女だということはごく限られた者しか知らない秘密。それは司書組に対しても適用されます。
「ブレネンさんはどうしてカサブレードや太陽の魔神のことを知っているんですか?」
「どうしてもこうしても、皆さんはカサブレードの勇者の物語を聞いたことがありませんか? 僕はそれを聞いたときから、物語を構成する存在全てにトキメキを感じているのですよ」
「なるほどねー。エイリスみたいな奴だな」
「マルファ? それはどういう意味かな? ねぇ?」
「なーんでもございませーん」
口を動かしつつ、皆、本をめくっていました。
ですが、目新しい情報は拾えていません。そりゃあこれだけ膨大な本の中から、すぐに見つかるなんて、都合の良いことは考えていません。
ですが、成果が見えてこないと、少しばかり不安になってしまうのも事実です。
この時点で、私はぶっつけ本番のプランのことが頭をよぎっていました。
「あぁ……カサブレード……伝説の存在。カサブレードだけはまだ本物を見ていないんだよなぁ……いいなぁ……みたいなぁ」
ブレネンさんは幸せそうな顔で、ぶつぶつと呟いていました。
ちなみに私達は『私がカサブレードを持っている』という事実は伏せるつもりでした。
これまで出会い、戦ってきた人たちは皆、大なり小なりカサブレードに対して、何かしらの思いがある人たちでした。
今までの経験から、闇雲にカサブレードを晒すものではないという、ある意味当たり前の事実を再認識させられました。
(ブレネンさん、なんだかカサブレード関係になるとアブなそうですね……)
私達はブレネンさんと少し喋った辺りから、絶対に私がカサブレードを持っていると知られないようにしなくては、と気を引き締めました。
とはいえ、それを差し引けば、非常に協力的な良い人です。
「おっと。その本はもう読み終わりそうだね。待っててくれ。今、新しい資料を持ってくるから」
そう言って、ブレネンさんは書庫の奥に消えていきました。
「ふぅ……疲れました。マルファさんの方はどうですか?」
「どうもこうも、さっぱりだ。よく聞いた話や思わせぶりな話しか拾えねー」
「そうですか……。エイリスさんも同じような感じですか?」
「恥ずかしながらね。とは言え、驚いているよ」
「? 何にですか?」
「意外と調べてみたら、カサブレードと太陽の魔神は様々な書物に出ていることをさ」
エイリスさんは膨大な蔵書を見渡します。
「ボクは少し希望が湧いてきたよ。これだけ触れられている書物があるのなら、もしかしたら、この中に答えはあるかもしれないってね」
「そうですね。改めて頑張りましょ!」
「どんな些細なものでも良い。気になった情報はどんどん共有していこう」
「……気になった情報、ねぇ」
「ん? どうしたんだい、マルファ? 何か見つけたのかい?」
エイリスさんの返事には答えず、マルファさんは側に積んでいた本の上から一冊掴み上げ、ページをめくりました。
「この一文は、わたしがいま言った『思わせぶりな話』なんだけどな」
――世界には時に、対になる絶対存在がある。太陽の魔神とカサブレードも対となる関係だ。片方の力が強いのなら、もう片方の力を強くする。そうすることによって、拮抗、それ以上の結果を生むこともある。
「確かに、太陽の魔神はカサブレードを警戒していますよね」
「そう。これについてはわたしも知っていたし、何も思わなかったんだけどな。けど、エイリスに言われて、改めてこれについて考えてみたんだよな」
だんだんとマルファさんの表情が真剣なものになっていきます。
「わたし、気になってたんだよな。太陽の魔神とカサブレードの対って、何なんだろうって」
「もう少し詳しく聞いても良いかな?」
「例えば、炎の魔法には水の魔法をぶつけるのが基本だ。相殺、もしくは打ち勝てるからな。これもある意味、対の関係だ。なら――」
マルファさんは続けます。
「――なら、これをカサブレードと太陽の魔神に置き換えるとするなら、何だ? カサブレードは伝説とは言え、魔具だろ? どんな要素を持っているから、太陽の魔神と対になれてるんだ?」