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第86話 夢の導き

 とりあえず私達はちょうどいい寝床を求め、墓地を歩いていました。

 結論から言えば、どこでも良さそうというのが全てです。何せ、手入れが完璧なので、野営をするだけなら文句の一つもありません。

 むしろ、どこがより皆さんの眠りを妨げないか悩むほどです。

 とりあえず広い場所を探していた私達はとうとう、ちょうどいい場所にたどり着きます。


「って、真ん中じゃねーか!」

「マルファ、叫ばない。でも、良いんじゃないかな? 火を起こしてもここなら周りに迷惑をかけないと思うし、都合よく近くに水も湧いているしね」


 この言葉が正しいのか分かりませんが、この墓地は野営に適しています。

 近くには墓地の洗浄用なのか、湧き水があります。周りには塀があるので、多少の風は防ぎます。食糧さえしっかり用意していれば、ここは理想のキャンプ地と言えるでしょう。


「二人はこのあとの方針について、何か考えているかな?」

「あん? そりゃ当然だろ。わたしはギリギリまで〈日食の神殿〉を探したい」

「私もです。ただ、ちゃんとここに戻ってこれるように色々と準備したほうが良いなとは思いますが」

「そうか……二人は行動派だね。ボクは違うな。まずはここでしっかり身体を休めた方が良いと思う」


 珍しく、エイリスさんの意見が少数派でした。


「ご先祖様と話したくなったのか?」

「近くも遠からずってところかな。もちろんスピード感は大事だ。でも、休める時にしっかり休むべきだと思う。ボク達は今、あてもなく闇雲に探している状態だしね」

「それもそうだけどな」


 その日は移動日ということで、一旦休みを取ることにしました。

 ここは拠点としては最適で、魔物も来ないし、水もあります。こんなこともあろうかと持ってきていた食糧もあるので、しばらくは滞在できます。

 火を囲み、夕食に口をつけたマルファさんが空を見上げます。


「〈日食の神殿〉、どこにあんだろうな。少なくとも、ここまでの道のりにそれっぽい建物はなかったよな」

「そうだね。となれば、もっと奥の方にあると考えるのが自然だね。明日は攻めてみよう」

「早く見つけたいですね……!」


 万が一、魔物が入ってきたときのために、エイリスさんが防犯用の魔具を持ってきていました。

 円の中に誰かが入ってきたら、音が鳴るという簡単な仕組みの魔具です。


 森の中を歩くというのは、案外と体力を消耗するようで、私はすぐ眠りに落ちてしまいました。


(あれ?)


 だというのに、私の意識ははっきりとしています。

 夢、だと理解したのはすぐでした。なんせ、身体が少し浮いているような状態だったので、すぐに察することが出来ました。

 辺りを見ると、場所は変わっていませんが、エイリスさんたちがいません。それはそれで少し不安になっていると、私の視界の端で、何か横切りました。


(何、今の?)


 小さな光の玉がふよふよと浮いています。光の玉はゆっくりと進み、時々止まります。私が少し動くと、それに合わせるように光の玉も動きました。


(ついてこいってことなのかな?)


 明らかに何かを伝えたい様子の光の玉。私はそれについていくことにしました。

 色々なお墓を横切り、到着した先は、より大きく立派なお墓でした。

 光の玉はそのお墓の裏側に回ります。私もそれについていくと、光の玉は地面スレスレをくるくると回ったあと、地面の中に吸い込まれていきました。


(待ってください。私に何を伝えたいんですか!? 待って。ねぇ待ってください!)


 そこで私は目を覚ましました。


「待って……!」


 持ってきていた時計を見ると、まだ早朝でした。エイリスさんとマルファさんは近くで眠っています。

 メイド時代は毎日早く起きていたが故に、目を覚ましてしまったのでしょう。前の職場なら、あと二時間は早く起きていましたね。


「……」


 私は軽く身支度を整え、散歩がてら、夢の出来事を確かめてみようと思いました。

 幸い、進んだ道は複雑じゃないので、ひたすら墓地内を進むだけです。

 元々お化けを信じるタイプではないので、怖さはありません。むしろ、ここは王族の皆さまが眠る場所。なるべく騒がずに行動をしたいものです。


「あった……」


 夢で見た立派なお墓の元までやってきました。少し後ろには塀があったので、ここが墓地の終点とも言えるでしょう。


「何か書かれている……えっと、『デジス・ノル・サンドゥリス』様……? それにしても立派な装飾。敬意に満ち溢れたお墓ですね」


 私は一度お墓の前で祈りを捧げてから、裏側に回りました。


「あれ?」


 よく見れば、他の地面と光の玉が吸い込まれていった地面では色が違います。

 私はいざというときのため、懐に忍ばせていた折りたたみ式のホウキを展開し、土を掃いてみることにしました。


「これは……!」


 私は一度戻ることにしました。



 ◆ ◆ ◆



 エイリスさん達が目を覚ましたので、私は二人を例の場所へ連れていきました。


「デジス・ノル・サンドゥリス。このサンドゥリス王国の建国者だね」

「そ、想像以上に偉い人でした」


 今更、そんな方のお墓の裏を覗いたことに対して、恐れ多さを感じてしまいました。


「あの、二人共、こちらに来てください」


 私はホウキで再び土を払ってやると、そこには金属製の扉が隠れていました。


「これは……?」

「なんて言えば良いのか分かりませんが、一言で言うなら、夢で見たんです」


 二人に今朝の夢の内容を話しました。私は自分で喋っていて、内容の胡散臭さを感じていました。

 あまりにも都合が良かったからです。しかも、この夢を見たのは私だけで、二人は何も見ていないという事実も、より一層妙な感じでした。


「……まずは入ってみようか。もし、これでお咎めがあっても、ボクが責任を取るよ」


 扉を開くと、そこは地下へ続く階段となっていました。

 松明に火をつけようとしますが、それは必要のないことでした。扉を開いた瞬間、階段に灯りがついたのです。

 エイリスさんいわく、扉の開閉に反応して、灯りがつく仕掛けのようです。


「準備していこう。いつでも武器を抜けるように準備、片手は常にフリーにしておこう」

「誰が先頭になる? わたしがやるか?」

「いや、マルファは真ん中になってもらう。ボクが先頭を務めよう。アメリア、君には後方で奇襲に備えてもらいたい」

「分かりました!」


 すぐにフォーメーションが決まり、私達は階段を下ります。

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