今日の私達は冒険者ギルドにいました。もはや定位置となった片隅で、あの後の話をしていました。
「ブレネンさんが消えた!?」
私は少しだけ声を大きくしてしまい、近くにいた人たちから視線を向けられてしまいました。あまりにも恥ずかしかったです。
ペコペコと頭を下げた後、少し声量を落とし、改めて聞きました。
「え、どういうことですか?」
「言葉通りの意味だよ。治安維持部隊に引き渡した後、彼はいつのまにか姿を消してしまったらしい」
「やべーじゃねーか」
「マルファの言う通りだ。あのブレネンという男は相当な厄介者らしい」
そもそもあのブレネンさんは、ブレネンさん
本物のブレネンさんは既に殺されており、あのブレネンさんはなりすましていたようです。
殺人、なりすまし、古魔具無許可使用、王城無断侵入などなど……ブレネンさんの罪は挙げても挙げてもキリがないそうです。
サンドゥリス王国はすぐさま、ブレネンさんを指名手配としました。懸賞金も出るようです。しかも生死は問わないという指名手配としては、最上級の扱いです。
「ナニモンなんだよ、あのブレネンもどきは……」
「ちょっとあの男の言動について、思い当たることがあってね。色々と調べてみたんだ。そうしたら出てきたんだよ。それらしい人間が」
そう言って、エイリスさんはテーブルの上に、人相書きを置きました。身につけているものや髪型こそ違いますが、私達が見たブレネンさんでした。
「彼は、魔具を使った危険な研究をする人間のようでね。名前は不明。魔具狂い、という通称があるようだ。彼は魔具の研究のためなら、どんなに危険なことでも実行してしまうらしい。必要とあらば、大規模な破壊活動や殺人も容易く行える精神を持っている」
「ぶっ飛んだやろーかと思っていたら、大正解だったとは驚きだ」
「今、どこにいるんでしょうね……?」
「もし気絶していた事自体が演技だったとしても、〈
見つかるのは時間の問題だろう、というのがエイリスさんの見解です。
話題は変わり、今の目的を整理することにしました。
「アメリアはカサブレードの力を解放出来た。これは大きな一歩だと思う。あとは太陽の魔神がどう出てくるかだと思うんだけど……」
「あれから、あいつの
「このまま本当に平和になってくれたら良いんですけどね……」
私達がそんな話をしていると、冒険者ギルドの扉が開かれました。
なんとサンドゥリス王国軍の軍人さんがたくさんいました。その先頭にいるのは、ディートファーレさんです。
「あれ、ディートファーレさん。お久しぶりですね。どうしたんですか?」
「……囲んで」
私の呼びかけに反応せず、ディートファーレさんが手で指示を出すと、軍人さんが私達を囲んでしまいました、
「アメリア。マルファ。……エイリス。私達と一緒に来てもらうわ」
「え、どういうことですか!? ディートファーレさん、どうして――」
エイリスさんが手で制します。
「ボク達が何かしてしまったようだね。ここで騒ぐのは相当印象が悪い。指示に従うとしよう」
「素直に従っていただき、感謝するわ。皆、下がりなさい。私が自ら、危険物を持っていないかチェックするから」
そう言って、ディートファーレさんがエイリスさんに近づいていきます。手早くチェックした後、マルファさんにも近づき、効率よくチェックをします。
最後に私の方へやってきました。
「……何も反応せずに聞いてちょうだい」
ディートファーレさんが小声でささやきます。
「貴方達、王家の墓へ入ったらしいわね。それについて、陛下が直接話を聞きたいとのことよ。とりあえず詳しい話は馬車の中で」
私のチェックを済ませた後、ディートファーレさんは部下に言いました。
「馬車を用意してちょうだい。私が責任を持って連行するから、貴方達は元の業務に戻りなさい」
軍人さん達はすぐに姿を消しました。ほぼ同時に消えていたのがすごかったです。統率が取れているのでしょうね……。
ディートファーレさんに連れられ、馬車に乗り込みます。ゆっくりと動き出したのを確認した後、ディートファーレさんが大きなため息をつきます。
「っはぁ~……! 貴方達、もう少し上手く動くことは出来ないの?」
もうすっかり元のディートファーレさんでした。
流石に部下の前だったので、仕事モードで接したとのことです。
「す、すいませんでした……」
「ディートファーレ、どうしてバレたのかな?」
「陛下の情報網よ。緊急で呼び出されたから何かと思ったら、貴方達のことと、あの場所がどういうところかを聞いたのよ」
「どうして父上にバレたのかなぁ。上手く潜入出来たと思ったのに」
「王家の墓なら少なからず隠れて見張っている者がいるはず――いつものエイリスなら、その可能性は考えていると思ったんだけどね」
「……焦っていたのは事実だね。またの機会があるのなら、もっと上手くやるよ」
エイリスさんは涼しい顔で言い切りました。
隣で聞いていた私はガクブルでした。これはもしかして大変重い罰を言い渡されるのでは? とか、国外追放とかありえるのかな? とか、様々な考えが巡っています。
「ところでブレネン司書、いや偽ブレネン? まぁ、良いわ。今更、言い直すのも面倒だから、ブレネンでいくわ。まさかそんな危険人物もあそこに入っていたとはね」
「……ボク達のせいだ。ブレネンはあるものに魔力的なマーキングをしていて、それを辿られたんだ」
あるもの――それを聞いて、私はピンと来ました。
〈日食の神殿〉へ入るために必要だったもの。そう、三日月のペンダントです。ブレネンさんが仕込んだ? もののようなので、ほぼ間違いないでしょう。
「それなら、私のせいですっ。私があのとき拾わなければ……」
すると、マルファさんが目を細めました。
「アメリアが拾わなかったら、わたしらは目的を達成できなかった。そしてブレネンはお前がぶっ飛ばした。自分が悪いって言うなら、もうケジメはつけてるから大丈夫だ」
「ありがとうございます、マルファさん」
エイリスさんがクスクスと笑っています。
「随分アメリアに優しいじゃないか。てっきり責めて責めて責め立てるものだと思っていたのに」
「も し も! しくじっていたら、そうするに決まってんだろうが! おいアメリア、あんまり調子に乗るんじゃねーぞ」
「ふふ! 分かっていますよ!」
「ぜってー分かってねー!」
ディートファーレさんが止めに入るまで、エイリスさんと私はマルファさんをからかっていました。
笑い疲れたところで、ディートファーレさんが本題を切り出しました。