「貴方達があそこに行ったということは、太陽の魔神絡みなのかしら? それともアメリアのカサブレード関係?」
「そのどちらもさ」
エイリスさんがディートファーレさんに今までの経緯を話しました。
太陽の魔神を倒すにはカサブレードの力を解放する必要があること。そのためには王城の図書室を借りていたこと。ブレネンとのこと。余さず伝えたところ、ディートファーレさんは目を閉じ、情報を整理し始めます。
「んー」
「説明不足だったかな?」
「いいや、エイリスの説明は分かりやすかったわ。分かりやすいだけに、どこまで先に陛下へ伝えようか悩んでいたところなの」
そういえば、とマルファさんが質問を投げかけます。
「そもそも太陽の魔神なんてモンがいるなら、国を挙げて対処出来ないんですかー?」
「私個人の意見としては、協力して
ディートファーレさんは即答しました。
「ですよねー」
マルファさんがあっさりと退いたのは意外でした。マルファさんのことなら、もっと食い下がると思っていたのに。
「ボクもディートファーレ側の意見だから分かるかな」
私の疑問符を読み取ったのか、エイリスさんが補足説明をしてくれました。
「太陽の魔神という存在は確かに強大だ。国のバックアップがあるなら、それはとても頼もしいことだと思う。けどね」
「何かがあるんですね」
「そう。ボク達は知っている。けど、国は知らない。そして、国は国民全体の幸福を実現するために存在している。そういう、本当にいるか分からない存在に国のリソースを割くわけにはいかないんだ」
「これはあくまでボクの考えすぎの意見だ」と前置きをして、エイリスさんは続けます。
「もしもいるかどうかもわからない太陽の魔神に対応していると他国に知られたら、それは戦争の引き金になるかもしれない。好戦的な国は少なくないからね」
思わず息を飲みました。
そんなことになるかもしれない、というのは全く考えつきませんでした。
それなら、ディートファーレさんがああ言ったのにも納得です。国というのは難しいですね……。
「ディートファーレ、父上とはどういう話になると思う?」
「ぜんっぜんわからない。まぁ陛下の性格なら、こっぴどく怒られることはないんでしょうけどね」
「その分、言い回しが回りくどいのさ」
話している内に、私達はとうとう王城の中へ入りました。
ディートファーレさんの先導により、どんどん城の中へ進んでいきます。
いつの間にか、大きな扉の前までやってきました。
エイリスさんいわく、ここが陛下との謁見の間とのことです。
……謁見!? 私が!? 王様と!? 何となく他人事のように考えていましたが、思いっきり自分事でした!
急に緊張してきました。一メイドの私が掃除以外で謁見の間に入るなんて、夢にも思いませんでした。
うぅ……逃げ帰りたい気持ちでいっぱいです。
「大丈夫だよ、アメリア。ボクがついているからね」
「わたしもいるんだが。わたしも心配しろ」
「マルファはその図太さ……もとい、度胸があるから良いだろう」
「言ってくれるじゃねーかこのやろー」
そうこう言っている内に、エイリスさんが扉を開きました。
「イーリスです」
「お帰り、イーリス」
国王陛下はいつも優しい表情を浮かべる方でした。きっと全てに対して、あのお顔と同じくらいの優しさを向けていらっしゃるのでしょうね。
「お父様におかれましてはご機嫌麗しゅう」
「うん、うん、だいぶ外面も良くなったね」
「うふふ。お父様の背中を追いかけるのは大変でございます」
……ん? 何だか様子がおかしいような。
なんというかこう、エイリスさんと国王陛下の間に火花が散っているような、そんな気がしているのですが。
「君たちが、イーリスのお友達だね。名前を教えてくれるかな?」
「アメリア・クライハーツです」
「マルファ・マックンリーと申します」
マルファさんは
「アメリア、マルファだね。いつもイーリスがお世話になっているようだね。この国の王としてではなく、父として礼を言わせてほしい。ありがとう」
「勿体なきお言葉です」
よし、ひとまず冷静に応対が出来ています。ここを職場だと心得ることで、私はこの場を乗り切ることにしました。
「さて、イーリス」
国王陛下はずっと優しい表情でした。さっきは妙な言葉遣いになっていたような気もしますが、私の気のせいでしょう。
表情と言葉が伴っていない人なんて、そうそういるわけがありませんからね。
「ネズミが入ったかと思えば、イーリスだったから驚いたよ。古魔具を漁りに、わざわざ王家の墓まで行ったのかな?」
「まさか。そのような場所で古魔具を漁ったら、偉大な先帝の皆様からお叱りを受けますわ」
「そうかい。怒られるのが怖い、という感情がまだあったんだね」
「もちろんでございます。もしも先帝の皆様からお叱りを受けるようなことがあったときには、お父様から受けた素晴らしい教育の賜物と褒め称えておきますね」
バッチバチでした。
お互い優しい表情でバチバチに言葉の鍔迫り合いをしていました。
というか、国王陛下がめちゃくちゃ怖いのですが!
「娘とはいえ、あそこはそう簡単に立ち入ってはいけないんだ」
「心得ておりますわ。なので、迷惑にならないようにお邪魔しました」
「入ったことは認めるんだね?」
「もちろんです。お父様に対して嘘をつくなどあってはなりませんからね」
「あそこに入ってしまった者は厳重注意。悪質な案件では投獄もする。イーリスはどういうつもりで入ったのかな?」
「先ほども申し上げた通り、迷惑にならないようにお邪魔しました」
「ふーん」
国王陛下の視線が私へ向きました。