「さて、アメリア。どういうつもりで入ったのかな?」
「それは……」
すると、エイリスさんが口を出しました。
「お父様? よもや国民に対して威圧されるおつもりですか?」
「威圧なんて物騒なことを言わないでおくれ。私はアメリアに質問しているだけなのだから」
ここでもバチバチとしています。どうしましょう……。エイリスさんが私をかばってくれることは分かっています。
ですが、私は自分に正直でいたいです。
私は片手を前に出し、その手の中にカサブレードを出現させました。
「! カサブレード……!」
そして、私は頭を下げます。
「私は、太陽の魔神を倒すためにカサブレードの力を解放させる必要がありました。だから、私がエイリスさ――イーリス様に頼み込んで無理やり入りました」
「アメリア! なんでそんなデタラメを!?」
「微妙に違いまーす。わたしも一緒にイーリス王女サマに頼み込みました。いや、わたしの場合は脅かしたレベルですよ」
「マルファも! 貴方達、黙ってわたくしに任せてください!」
状況が混沌としそうになったその時、国王陛下がパンパンと手を叩きました。
「そこまで。それ以上は見苦しく見えるよ」
少し間を置いた後、国王陛下が口を開きました。
「太陽の魔神、その存在は私も知っている。カサブレードと太陽の魔神は対の存在。そうか、太陽の魔神は復活しようとしているんだね」
「……はい。太陽の化身とは数回戦いました。それに、太陽の魔神に味方する人ととも」
「君達三人は太陽の魔神と戦っている、という訳か。勇者だね、まるで物語に出てくる勇者のようだ」
「あの……イーリス様をそんな危険な戦いに巻き込んでしまって、申し訳ございません。けど――」
「けど?」
私は何を言いかけているのでしょう。申し訳ございません、で終わっておけば良かったのに。
これは完全に余計な一言というやつです。ですが、私にとっては、その
「イーリス様。いいえ、エイリスさんは私達の大切な仲間です。私は、エイリスさんにはこれからも一緒にいてもらいたいと思っています」
「我が国の王女だよ。もしも我が娘になにかあれば、君の首は軽く飛ばせるのだけど、それを覚悟の上なのかな?」
驚くほどあっさりと、私は答えていました。
「覚悟の上です。もしもその時は、太陽の魔神をしっかりと倒したうえで、私は首を飛ばされます」
「……」
気づけば、私は国王陛下と睨み合うような形になっていました。
そんなつもりはなかったのですが、私は私の思ったことを言いたかったので、もはやどうでもよかったです。
永遠にも似た沈黙。
国王陛下が立ち上がりました。
「まぁ、そんなことはしないんだけどね」
すると、先程まで感じた凄みが消え失せていました。
国王陛下がゆっくりと私の方まで歩いてきます。
「あはは。ごめんね、怖がらせちゃって」
「え、と……?」
「イーリスは好きに使ってくれて構わないよ。もし志半ばで果てても、しっかり国葬をするから」
「そっそんな目にはあわせません!」
傍で話を聞いていたエイリスさんが思い切りため息をつきました。
「父上、最初からからかう気でしたね?」
「からかうとは失礼だね。私はイーリスのことが心配だっただけだよ。もっとも、その心配は無用だったみたいだけど」
国王陛下は私のカサブレードを指さしました。
「本物のカサブレードは久しぶりだね。ちょっと触っても良いかい?」
すると返事をする前に、国王陛下がカサブレードへ手を伸ばしました。カサブレードは私以外の人間が触れたら、拒絶反応が起きます。
私が止めようとしたときには、すでに国王陛下はカサブレードへ触れてしまいました。
「っ!」
当然のように起きたカサブレードの拒絶反応。私は謝罪をしようとしましたが、国王陛下は笑っていました。
「はは。やっぱり無理だったね。まだまだ私の番ではないようだ」
「こ、国王陛下はこのことを知っていて、触ったのですか?」
「もちろん。私も古魔具は好きでね。カサブレードはいつか手にしたい夢の一つだよ」
すると、国王陛下は手をポンと打ち合わせました。まるで名案を思いついたような表情です。
「どこかの領地をあげるから、カサブレードを私に譲る気はないかい?」
「へぇ!?」
どうしましょう。頭がクラクラしてきました。領地!? 領主になれるということですか!?
いけません、いけません。私はただのメイド、アメリア・クライハーツです。それ以上でもそれ以下でもありません。
それに、私には太陽の魔神を倒す目的があります。ここでカサブレードを手放して良い訳がありません。
なんと言って断れば良いのでしょうか……。
思考の海に溺れそうになったとき、エイリスさんが私の肩を叩いてくれました。
「父上。あまりアメリアをからかわないでください。混乱していますよ」
「おやおや。王族ジョークなんだけどね、あははは」
な、なんというお茶目さでしょう。すっかり本気にしてしまいました。
というか、冗談を言うんですね。なんだかすっかり印象が変わってしまいました。
「……父上。本当にアメリアが困っているので、その辺にしてください」
「そうだね。そろそろやめておこうか」
再び国王陛下は玉座へ腰を掛けました。
「ともかく、実りがあったようで良かったよ。さて、色々現実から逃げていたけど、いよいよ直視しようか。ねぇイーリス、今のイーリス達を取り巻いている状況を教えてよ」
「分かりました」
エイリスさんは現在の状況を話しました。
国王陛下はエイリスさんの分かりやすい説明を黙って聞いていました。
時折、国王陛下は簡単な質問をして、エイリスさんがそれに答えます。
「……なるほど、事情は良く分かった。だいぶ大変なことになっているようだね」
「それを踏まえて、父上の今の気持ちをお聞かせ頂きたいです。具体的には、支援があるのかどうか、などを」
「……私は今から独り言を呟くよ」
国王陛下は続けます。
「非公式で、それでいて私の個人的な独り言だ。この場には誰もいない。そうだね、イーリス?」
「もちろんです。誰もいません」
「まず、この国はアンバランスな平和の中にいる。こちらがそう思っていなくても、こちらのことを良く思っていない国なんて沢山あるんだよ」
そんな言葉を皮切りに、国王陛下は今の国を取り巻く事情を話してくれました。