それは偶然か、それとも必然か。国王陛下が話すことは全てエイリスさんと同じでした。
事前に聞いておいて良かったと思います。そうでなければ、多少は落胆していたでしょうから。
「――個人として、できる限りのことはするつもりだよ」
国王陛下はそう締めくくりました。
エイリスさんが私達に顔を向けます。
「わたくし達は引き続き、太陽の魔神がどこにいるのか探しましょう」
「あとはあのサンハイルもそろそろ気にならねーか?」
「サンハイルさん……」
サンハイルさんは現在、ガーフィ様が封じ込めています。普通の人間なら、何も気にすることはないはずです。
ですが、サンハイルさんは普通じゃありません。
必ずサンハイルさんは出てくる。そういう確信がありました。
ですが、
「私は負けませんよ」
「へっ、頼もしくなってきたなアメリア」
「太陽の魔神、か」
国王陛下が何かを考えているような素振りをみせました。
「父上、なにか心当たりでも?」
「心当たりのレベルにはないんだけどね」
「珍しいですね。そんなはっきりしない物言いをするなんて」
「最近、魔物の動きが活発化しているんだ。今日も魔物を討伐するために、大部隊が派遣されたくらいだ」
「そういう時期、というわけでもなさそうですね」
「ただ暴れるだけなら、対処は容易なんだけど、問題はここからだ」
段々と国王陛下の顔が困ったようなものに変わっていきました。
「凶暴性の他に、戦闘力も上がっているのではないかという報告が上がっているんだ」
「今まで楽勝だった魔物がそうじゃなくなってきた、ってことですか?」
マルファさんの口調がだんだん崩れてきたような気がしますが、ここは突っ込まないでおきましょう。
「そういうことだね。でも、特に凶暴性や戦闘力が上がったとは思えないという声もある。何なら同じ種類の魔物に対してだ」
「? どういうことでしょうか?」
私は理解出来ずにいました。同じ種類の魔物なのに、変化している個体としていない個体がいるということになります。
素人の意見ならともかく、魔物討伐をするために訓練されたプロの方の意見です。どちらも嘘をついているようには思えません。
それはエイリスさんも同じことを思っていたようで、それについて意見を口にしました。
「父上。その報告をした者らはそれぞれ別の場所にいたのでしょうか? それとも同じ場所でしょうか?」
「やはり気づいたね。イーリスの気づき通りだと思う。変化があったのは、魔物ではなく、生息している
「あー。そういうことか。調べてみれば、面白いことが分かりそーだな」
マルファさんも何かに気づいたようで、うんうんと頷いていました。
わ、私だけ気づけていません。このままだと置いていかれてしまいます!
「つまりね、アメリア」
そんな私を見かねて、エイリスさんが噛み砕いて教えてくれました。
「変化が起きている場所を調べていくと、何か発見があるのではないかということよ。突然の天変地異なのか、それとも
「そんなことが出来る
そんなことが出来そうな存在。それでいて、元々の名前を思い出すと、私は自然とその名を口にしていました。
「恵み……太陽の魔神……?」
「そういうこと。もしも太陽の魔神じゃないなら、その時はその時だ」
「じゃ、じゃあ! 早速調べに行きましょう!」
「あぁ、その心配はないよ」
国王陛下が手で制しました。
「もう調査部隊を結成して、魔物に変化があった場所を徹底的に調査しているところだ」
「それならば、結果が出るのは時間の問題でしょうね」
「そういうことだ。変化が起きたのは二週間前。その時点で部隊を動かしているから、だいぶデータが蓄積されているはずだ」
「父上。その資料を見せていただくことは可能ですか?」
「無論。イーリス達には必要な情報かと思ってね」
そこからの国王陛下の動きは早かったです。
「ディートファーレ、参りました」
すぐにディートファーレさんを呼びつけ、事情を説明し、分析をしている基地に案内するよう命令が出されました。
「ディートファーレ。君へしばらくの間、独自行動権を与える。君の発言は私の発言だ」
「分かりました。私は今この瞬間から、独自行動権を発動します」
「お願いするよ、ディートファーレ。色々とね」
「心得ております」
謁見の間を出た私達はディートファーレさんの後をついていきました。
「さーて国王陛下の命令も頂いたことだし、これで大手を振って貴方達に協力できるわね」
「あ、あのディートファーレさん。さっきのやり取りってどういうことなんですか?」
「あぁ、あれ? 国王陛下のあの言葉を翻訳すると、『私は大っぴらに動けないから、お前が全面的に助けろ。娘を頼む』で、私の言葉を翻訳すると『オッケー』って感じね」
ぜんっぜん分かりませんでした。まさか、そんな意味が含まれているなんて……。
「父上は回りくどいんだよ。いつもね」
エイリスさんはどうやら全て分かっていたようです。
「まぁ、それも親心よ。そうじゃなきゃ、ディートファーレという人間を動かさないわ」
「それもそうなんだけどね」
いつの間にか私達は馬車の前まで来ていました。
どうやら、ここからは馬車を使っての移動になるようです。
「これから調査基地に案内するわ。そこで、貴方達に分かる限りの情報を渡すわ」
「本当に大盤振る舞いだね。普通はこんなことありえないだろうに」
「貴方が娘だからこんなありえないことが起きてんのよ。自覚しなさい愛され娘」
「認めたくないものだけどね」
馬車が動き出しました。その中でディートファーレさんは簡単に説明をしてくれました。
「どうやら変化が起きた地方にマーキングをしていくと、円のような形になるようなの」
「そうか、ならこの騒動の原因を絞るのも時間の問題か」
「? どういうことですか?」
エイリスさんではなく、マルファさんが私の質問に答えてくれました。
「魔物に変化が起きた範囲は円形。つまり、その中心から何らかの力が行き渡っているってことさ」
「だから同じ種類の魔物でも、力に変化が起きている個体とそうじゃない個体がいるんですね」
「そういうことだ。多分これから、その地図かなにかを見せてもらえんだろ。それで、その中心こそがわたし達の目的地ってわけさ」
「なるほど……マルファさんの説明、分かりやすかったです。ありがとうございます!」
私がそう言うと、マルファさんは少し顔が赤くなったように見えました。
「……面と向かって言われると照れるな」
「おやおや? マルファ、君にも照れるという感情があったんだね」
「うっせーぞエイリス! 王様の前じゃねーからもう黙ってねーぞわたしは」
マルファさんとエイリスさんのいつもの煽り合いが始まりました。
相変わらず見ているだけで微笑ましいです。
そんなやり取りを見ている間に、私達はようやく目的地にたどり着きました。