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第107話 月と太陽の拮抗

 なんと、ガラスが割れるような音ともに、カサプロテクトの防御障壁が破壊されました。

 そのままの勢いで巨大な手のひらは私を押しつぶします。


「あ、が、ぁあ!?」

『カサプロテクトといえど、一点集中の無限攻撃は防ぎきれなかったか』


 太陽の魔神は私を掴み、自身の顔の前まで近づけます。


『ちっぽけだなぁカサブレードの使い手よ。ここまでちっぽけなら、生まれてきたことすら恥ずかしいだろう』

「……生まれてきたことすら、恥ずかしい?」

『そうだ。お前はカサブレードに選ばれたが故に、我と戦うことになり、そして死ぬのだ。恥ずかしいのでなければ、ただ空虚な人生だったなァ』


 私の中で何かグツグツと沸騰していきます。


「私は、そんなこと思いません」

『思わぬ訳がない! そうして現実から目を逸らしているのだろう!? 分かる分かる! 我もカサブレードごときに封じられたという現実から目を逸らしたくなったのだからなぁ!』



 ブチリ、と私の中で何かが切れました。



「だから! そんっなわけないんですってば!」



 掴まれている痛みなど忘れ、私は叫びます。


「私は生まれてから今この瞬間まで! 何も恥ずかしくなければ、空虚でもありません! むしろ逆です!」


 握力はまだあります。まだまだ私は、カサブレードを握ることが出来る。


「貴方は私の何を知っているんですか!? 私の魂の職業であるメイド業務のことをなんにも知らないでしょう!? 誰かのために何かを出来ることの喜びを知らないんですか!? もしそうなら、貴方の言葉、そっくりそのままお返ししますよ」


 鼻から思い切り酸素を取り込み、私はありったけを叫びます。



「貴方の生涯はとても恥ずかしくて、そして空虚ですよーだ!!」



『よくぞ吠えた! ならば焼却する!』


 太陽の魔神の手から炎が生まれました。炎は一瞬で私を包み込みました。ですが、怒りが爆発したからでしょうか? 今の私にとって、それは攻撃でもなんでもありませんでした。


『何故だ!? 戯れではない、本気の炎だぞ!? 何故奴は燃えぬ!?』

「――だからです」


 炎だけでは無意味だと悟り、本格的に私を握りつぶそうとしてきました。

 ですが、私は潰されないように抵抗することができました。今の私はそれくらいなんということはありません。


『奴はおかしい! 我は太陽の魔神だぞ!? 何故奴を燃やせぬ潰しきれぬ殺しきれぬ!! 何故だ!』


 太陽の魔神はおかしいことを言います。こんな簡単な答えも分からないなんて。

 だったら、私が教えてあげましょう!



「メ イ ド だ か ら で す ! ! !」



 私は全身に力を込め、太陽の魔神の手から解放されました。

 カサブレードの輝きは今まで見たことがないほど大きくなっています。私の身にも変化は起きています。

 全身に力が行き渡っており、今なら何でも出来てしまいそうです。

 カサブレードの力の余剰分は私の足元に集中し、足場になっています。今の私はまるで、何も無い宙空に立っているように見えるでしょう。


「すごい、カサブレードの力がこんなに溢れて……!」

『認めぬ認めぬ認めぬ! こんな矮小な存在にこの我がちょっぴり恐れを抱いただと!? 認めぬ!』

「矮小な存在? いいえ、私にはちゃんとした名前があります」


 カサブレードを太陽の魔神へ突きつけ、私は高らかに名乗りを上げました。


「私はアメリア・クライハーツ――カサブレードのアメリアです!」

『我は太陽の魔神!! カサブレードは滅ぶべきなのだ!』


 互いに名乗りを上げ、本当の最終決戦が始まりました。


「行きます!」

『おう、逝くが良い!!』


 太陽の魔神が両手を掲げると、それぞれの手に竜巻のような炎と稲妻を思わせる炎が生まれました。

 胸の辺りで異なる炎を組み合わせると、それが爆発しました。私は大きく吹き飛ばされます。それと同時、周囲に蜘蛛の糸を思わせる細い炎が無数に飛び散ります。


 見た目は細いですが、その一本一本は炎を極限まで凝縮したものになります。並の存在なら、炎が飛び散った瞬間に身体がバラバラになっていたことでしょう。

 斬れる炎はカサブレードで切り裂き、私は太陽の魔神の元へ向かいます。


『小癪が過ぎる!』


 太陽の魔神は再び息を吐くような仕草をしたあと、そこから追尾する火炎弾が生み出されました。その数は……数えたくありませんね。

 カサプロテクトが駄目なことはさっきのでよく分かりました。なら、違うことをするしかないです。


「マルファさん、力を貸してください」


 カサバスターを放つときのようにカサブレードを火炎弾へ向けました。先端にエネルギーが集中します。

 大きくバラけた瞬間を見図り、カサブレードのエネルギーを解放しました。


「カサブレードの流星雨りゅうせいう!」


 カサブレードの先端から放たれたエネルギーは少し進むと、まるでほうきのようにエネルギーが拡散しました。

 それはマルファさんが使っていた箒星ほうきぼしの魔法とそっくりなものでした。

 拡散されたエネルギーはいずれも正確に火炎弾の中心を捉え、全て撃ち落としました。

 マルファさんの魔法を信頼していた私は結果も見ず、走っていました。どんどん前に進むだけです。今の私はもう、それしか出来ません。


『矮小な人間がチョコチョコチョコチョコチョコチョコと小細工をォ!』


 太陽の魔神の手には炎の斧が握られていました。単純にサイズが大きいので、これも避けるのは難しそうです。

 カサプロテクトを使ってもいいですが、防御ごと真っ二つに斬られても嫌ですね。

 それなら、迎えて討つのみです!


「今度はエイリスさんの力! 借ります!」


 カサブレードの刀身に光の粒子が集まってきます。

 これは月の力。精神世界だからそんなものはない? いいえ、あります。

 私とカサブレードの同調率は最高の更に上を突き抜けています。カサブレードの力を扱えている以上、その力の中身・・・・も私と一体になっている。

 つまり、精神世界にも月の力を持ってくることが出来る!


 月の力が巨大な刃を形成します。

 エイリスさんが作り上げたカサミテーションを見ていなかったら、一生思いつくことのできなかった攻撃です。

 その思いつけなかった攻撃で、私は太陽の魔神へ反抗しましょう。


「カサザンバー!!!」


 胸の内に浮かぶ名を叫び、私は月の刃を振り下ろしました。

 同時に、太陽の魔神も炎の斧を振るいました。


 月と太陽が拮抗します。

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