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第108話 最後の攻撃

 周囲に衝突エネルギーが撒き散らされ、破壊を生みます。退けません。ここで退いたら、私は誰にも顔向けが出来ません。

 カサブレードを握る手に、力が込められます。考えるのは一つのことのみ。

 この目の前の壁をぶち壊して!


「やぁぁ!」


 カサブレードからの力が増幅していくのが分かります。月の刃は炎の斧を両断し、そのまま太陽の魔神本体へ届きました。


『ぬ、お、お、おおおお……! 我に流れてくるこの不愉快な月の光はぁぁぁ!』

「これが私達の力です!」


 手応えあり。月の刃が太陽の魔神へ深く食い込んだのを感じます。そのまま私はカサブレードの柄をひねり、別角度からも斬りつけました。


『ハハハハハハ! なぁにを勝った雰囲気になっているんだァ!?』


 太陽の魔神の両腕が伸びてきました。両手は月の刃をしっかりと掴み、へし折ってしまいました。

 まだこれほどの力があったとは!


『お前は燃やす! 太陽の光に焼かれて大地の養分となれィ!』


 太陽の魔神が崩壊しつつある両腕を交差させます。

 周囲に強烈な熱。私は気づくのが一歩遅れました。


「これは……!」

『太陽を食らわせてやろう!』


 前後左右上下から近づいてくる火球。その全てが、まるで城のような大きさでした。

 こんな攻撃がもし現実世界でされていたのなら、王国はとっくの昔に滅んでいるでしょう。


「どうする……どうする……!」


 どうやっても避けられません。カサプロテクトを使っても、太陽の魔神はまた破壊してくるかもしれない。そうなれば、私は本当に攻撃を防ぐ手段がなくなってしまいます。

 ここで終わり? いいえ、そんな訳がありません。私はこれからもずっと……!


「――あ」


 避けられないのなら、取り除けば・・・・・良いんですよね。

 私は上方から来る火球へカサブレードを構えます。先端にエネルギーが集まります。


「カサバスター!!」


 カサブレードのエネルギーが一気に解き放たれました。極大光線は火球を貫き、完全に破壊しました。これで上への道は開きました。

 足場を生み出し、私は上方へ移動しました。ですが、まだ五つの火球が迫っています。

 絶体絶命の時――いいえ、そんなことありません。


 私に言わせれば、この状況はいつも・・・のことじゃないですか。


「お願いカサブレード!」


 カサブレードに私があげられるエネルギーを注ぎ込みます。

 すると、カサブレードは形を変えていきます。


 きっとこれが、私が使えるカサブレードの最後の形態……!

 それ以上もない、これ以下もない、私だけの形態……!



「カサホウキ!!」



 私の命、長箒ながほうきの形をしたカサブレード。

 カサホウキは私の意思で自由に大きさを変えられます。あっという間に火球と同じようなサイズへと変わりました。


「お掃除ー!!」


 ゴミを集めるように、私はカサホウキを動かし、火球をまとめていきます。

 ゴミを集めたら、次はどうする? そうですね、ちりとりかゴミを集めている場所に持って行きますよね!


「お返しします!」

『カサブレードが我の火球を支配しただと!! だが不足している! 我が生み出した炎だ! 何も起こらぬよ!』


 もはや体の一部といって差し支えない長箒ながほうき。サイズが大きくても、操るのに何ら支障はありません。まとめた五つの火球を太陽の魔神の顔面へと返しました。


『これは……! 我の炎に月の力が散りばめられている!』

「カサホウキで集めたものにはカサブレードの力が付与されます! 月の力という不純物が太陽の魔神! 貴方を脅かします!」


 五つの火球は太陽の魔神を飲み込みます。

 一か八かの賭けはどうやら私の勝ちのようです。太陽の魔神自身が生み出した炎に加え、月の力を付与する。一世一代のカウンター。これでどうにもならないのなら打つ手は……。


『なんという……なんという、ことか。ここまでしてやられるか』


 永遠にも似た燃焼の時間。やがて五つの火球が全て消えた時、その中心にはまだ太陽の魔神がいました。

 しかし、無傷というわけではなく、頭部だけになっていました。


「ここまで、来ても……!」

『誇れよ。貴様はここまで来たのだ。この太陽の魔神をこの姿になるまで追い詰めることが出来たのだ』


 頭部が燃えていきます。


『この状態にまでされたのなら、状況が変わった』

「……どういうことですか?」

『この一戦で我の力は極限まで削り取られてしまった。封印より厄介な状況だ。ここから力を取り戻し、自身を再構築するとなれば、途方もない時間を費やすだろう』

「それでも、再構築はされる……またいつの日か、この世界が危険に晒されるんですね」



『そ の よ う な 無 様 を 晒 し て た ま る か !』



 太陽の魔神の頭部は小さな火の球へと姿を変えました。小型の太陽を思わせます。


『カサブレードのアメリアよ。我は貴様の世界を欠片も残さずに燃やし尽くしてやる』

「自爆するつもりですか!?」

『自爆だと? 口には気をつけるのだな。これが我の最後の攻撃だ。勘違いするなよ。貴様はいまだ、対応せざるを得ない側にいる!』


 小型の太陽が発光し、膨張していきます。


「ど、どうしたら……!?」


 逃げるという選択肢はありません。ですが、何もしなかったらこの世界が燃やされてしまう。

 そうなるとどうなるのでしょう……? ここは精神世界、つまり私の心。それ無くなるということはつまり――死。


「そうだ、カサバスターで!」


 カサバスターを放とうと意識を集中させますが、エネルギーが集まりません。

 きっと私自身が消耗し始めているから、撃つのに時間が掛かっているんだ。

 カサフックは? 拘束するだけで何も起きません。

 カサプロテクトは? 私は良くても、この精神世界が滅ぶことに変わりはありません。

 カサザンバーは? 試してみましたが、カサバスターと同じ理由で上手く刃が作れません。

 カサホウキは? これも今の状況では役に立たない。


「どうしたら……どうしたら!」



 ――タダシキモノヨ。



 聞こえてきたのは、聞き覚えのある声でした。


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