周囲に衝突エネルギーが撒き散らされ、破壊を生みます。退けません。ここで退いたら、私は誰にも顔向けが出来ません。
カサブレードを握る手に、力が込められます。考えるのは一つのことのみ。
この目の前の壁をぶち壊して!
「やぁぁ!」
カサブレードからの力が増幅していくのが分かります。月の刃は炎の斧を両断し、そのまま太陽の魔神本体へ届きました。
『ぬ、お、お、おおおお……! 我に流れてくるこの不愉快な月の光はぁぁぁ!』
「これが私達の力です!」
手応えあり。月の刃が太陽の魔神へ深く食い込んだのを感じます。そのまま私はカサブレードの柄をひねり、別角度からも斬りつけました。
『ハハハハハハ! なぁにを勝った雰囲気になっているんだァ!?』
太陽の魔神の両腕が伸びてきました。両手は月の刃をしっかりと掴み、へし折ってしまいました。
まだこれほどの力があったとは!
『お前は燃やす! 太陽の光に焼かれて大地の養分となれィ!』
太陽の魔神が崩壊しつつある両腕を交差させます。
周囲に強烈な熱。私は気づくのが一歩遅れました。
「これは……!」
『太陽を食らわせてやろう!』
前後左右上下から近づいてくる火球。その全てが、まるで城のような大きさでした。
こんな攻撃がもし現実世界でされていたのなら、王国はとっくの昔に滅んでいるでしょう。
「どうする……どうする……!」
どうやっても避けられません。カサプロテクトを使っても、太陽の魔神はまた破壊してくるかもしれない。そうなれば、私は本当に攻撃を防ぐ手段がなくなってしまいます。
ここで終わり? いいえ、そんな訳がありません。私はこれからもずっと……!
「――あ」
避けられないのなら、
私は上方から来る火球へカサブレードを構えます。先端にエネルギーが集まります。
「カサバスター!!」
カサブレードのエネルギーが一気に解き放たれました。極大光線は火球を貫き、完全に破壊しました。これで上への道は開きました。
足場を生み出し、私は上方へ移動しました。ですが、まだ五つの火球が迫っています。
絶体絶命の時――いいえ、そんなことありません。
私に言わせれば、この状況は
「お願いカサブレード!」
カサブレードに私があげられるエネルギーを注ぎ込みます。
すると、カサブレードは形を変えていきます。
きっとこれが、私が使えるカサブレードの最後の形態……!
それ以上もない、これ以下もない、私だけの形態……!
「カサホウキ!!」
私の命、
カサホウキは私の意思で自由に大きさを変えられます。あっという間に火球と同じようなサイズへと変わりました。
「お掃除ー!!」
ゴミを集めるように、私はカサホウキを動かし、火球をまとめていきます。
ゴミを集めたら、次はどうする? そうですね、ちりとりかゴミを集めている場所に持って行きますよね!
「お返しします!」
『カサブレードが我の火球を支配しただと!! だが不足している! 我が生み出した炎だ! 何も起こらぬよ!』
もはや体の一部といって差し支えない
『これは……! 我の炎に月の力が散りばめられている!』
「カサホウキで集めたものにはカサブレードの力が付与されます! 月の力という不純物が太陽の魔神! 貴方を脅かします!」
五つの火球は太陽の魔神を飲み込みます。
一か八かの賭けはどうやら私の勝ちのようです。太陽の魔神自身が生み出した炎に加え、月の力を付与する。一世一代のカウンター。これでどうにもならないのなら打つ手は……。
『なんという……なんという、ことか。ここまでしてやられるか』
永遠にも似た燃焼の時間。やがて五つの火球が全て消えた時、その中心にはまだ太陽の魔神がいました。
しかし、無傷というわけではなく、頭部だけになっていました。
「ここまで、来ても……!」
『誇れよ。貴様はここまで来たのだ。この太陽の魔神をこの姿になるまで追い詰めることが出来たのだ』
頭部が燃えていきます。
『この状態にまでされたのなら、状況が変わった』
「……どういうことですか?」
『この一戦で我の力は極限まで削り取られてしまった。封印より厄介な状況だ。ここから力を取り戻し、自身を再構築するとなれば、途方もない時間を費やすだろう』
「それでも、再構築はされる……またいつの日か、この世界が危険に晒されるんですね」
『そ の よ う な 無 様 を 晒 し て た ま る か !』
太陽の魔神の頭部は小さな火の球へと姿を変えました。小型の太陽を思わせます。
『カサブレードのアメリアよ。我は貴様の世界を欠片も残さずに燃やし尽くしてやる』
「自爆するつもりですか!?」
『自爆だと? 口には気をつけるのだな。これが我の最後の攻撃だ。勘違いするなよ。貴様はいまだ、対応せざるを得ない側にいる!』
小型の太陽が発光し、膨張していきます。
「ど、どうしたら……!?」
逃げるという選択肢はありません。ですが、何もしなかったらこの世界が燃やされてしまう。
そうなるとどうなるのでしょう……? ここは精神世界、つまり私の心。それ無くなるということはつまり――死。
「そうだ、カサバスターで!」
カサバスターを放とうと意識を集中させますが、エネルギーが集まりません。
きっと私自身が消耗し始めているから、撃つのに時間が掛かっているんだ。
カサフックは? 拘束するだけで何も起きません。
カサプロテクトは? 私は良くても、この精神世界が滅ぶことに変わりはありません。
カサザンバーは? 試してみましたが、カサバスターと同じ理由で上手く刃が作れません。
カサホウキは? これも今の状況では役に立たない。
「どうしたら……どうしたら!」
――タダシキモノヨ。
聞こえてきたのは、聞き覚えのある声でした。