目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第113話 知能ある魔物 2(マルファ視点)

「おい、それっていつの話だ?」

『さぁ……覚えてないな。少し前だったような気もするが……』


 本当に覚えていないようだ。

 太陽、という単語には非常に敏感になっている。もしかして太陽の魔神絡みじゃねえのか?

 これはそう簡単に帰すわけにはいかなくなった。


「なら思い出さなくてもいい。お前と戦う理由が出来たようだ」

『ほう、私と戦うのか。望むところだ、掛かってくるといい』

氷槍ひょうそうの魔法!」


 キラーラビットの足元から氷の槍が飛び出した。不意の一撃。多少のダメージは与えられる。

 まずはこれで小手調べ。そう思っていたわたしは、次の光景に驚きを隠せなかった。


『ふんっ!』


 避けるでもなく、防御するでもなく、キラーラビットはその場から一歩も動かず、氷槍を迎え入れた。

 しかも、筋肉を見せつけるようなポーズをとったままだ。


「は、はぁ!? なんだそりゃ!?」

『いきなりの一撃、驚いたよ。だけどこのマッスルポーズの熱の前では、ご自慢の氷槍も溶けてしまったようだね』


 わたしは間髪入れず、氷槍の魔法を連続して行使した。今度は一本ではなく、五本。しかも出現位置を変え、様々な場所を貫く。

 結果は何も変わらず、だ。キラーラビットは様々なポーズを見せつけていた。肝心の氷槍は先端が僅かに食い込み、出血したくらいだ。

 これじゃあダメージとは呼べない。


『これで終わりかな? もう少し骨のある、いいや筋肉のある少女だと思っていたのだけど……』

「あぁっ!? 馬鹿にすんじゃねーよ! それならこいつはどうだ!」


 わたしが次に使ったのは、岩石の魔法だ。キラーラビットの頭上から岩石を召喚し、そのまま落下させる。シンプルな攻撃だけど、これが一番効くだろう。

 そう思っていたが、キラーラビットはその岩石を受け止め、まるでボールで遊ぶかのように何度も空に打ち上げる。


『良い遊具だ。程よい重さの良い岩石だ』

「ちっ。もっと強い攻撃魔法がいるか」

『ほうら、君に返そう』

「っ!!」


 わたしは咄嗟に防御魔法を行使していた。直後、キラーラビットが投げつけられた岩石が衝突する。

 あと少し遅れていたら、やべー速度の岩石にぶつかっていただろう。


『そして、今度は私の番だろう』

「速っ!? 炎剣えんけんの魔法!」


 わたしとキラーラビットの間に、炎の塊が出現した。炎は剣の形へと変わり、高速でキラーラビットを斬り付ける。

 傷口から出火。炎はあっという間にキラーラビットを包み込んだ。


『おおおおお!』


 その間にわたしは次の攻撃の準備をする。


 ――あぁ、やりづれぇ。


 アメリアやエイリスがいてくれたら、わたしはその状況に合わせたどデカい魔法を準備できたことだろうさ。

 わたしがのびのびと魔法をぶっ放せていたのは、全部あいつらのおかげだ。

 あいつらがいてくれたなら、こんな魔物、もっと早く倒せていただろうな。


『次の、攻撃の準備はさせない!』


 キラーラビットがその辺の土を掴み、わたしに投げつけてきた。それで怪我を負わせられるわけではなかったが、目に土が入ってしまった。

 わたしが目元を拭うと、目の前にキラーラビットが立っていた。


『何をするつもりかは知らないけど、その前に君を倒せば良いのさ!』


 わたしの顎に鈍い痛みが走る。真下から飛んできた拳、いわゆるアッパーカットを受けたわたしの身体が一瞬だけ宙に浮く。胴体に何発かもらい、最後に回し蹴りを食らってしまった。

 わたしの身体は何度も地面を転がる。意識を飛ばさなかっただけ、今までの旅の経験が生きているのだろう。

 つか、なんだよあのウサギ。動きがまじで格闘家のソレなんだよな。


「っか、はっ!」

『咄嗟に身体能力を強化する魔法で身を守ったんだね。防御魔法が間に合わないという判断からか』

「そういう判断は……得意な、もんでね」

『本当にそうらしい。私が戦ってきた冒険者達は皆、防御魔法を選択していたよ。そして、私に防御魔法ごと殴られていたかな』


 大正解、ってことか。くそったれ。どうしてキラーラビットにそんな採点をしてもらわなきゃならねーんだよ。


「ふぅー」


 とはいえ、落ち着けわたし。ここまでくりゃ、もはやこのキラーラビットをキラーラビットと思うな。

 ウサギの覆面を被った妙に強い変態格闘家、という認識でいこう。

 それを踏まえて、わたしは再度、戦闘プランを考える。


 このキラーラビットを分析しろ。

 四足歩行から二足歩行に変わって、四肢を使って攻撃するスタイルに変わっている。

 奴らの本来の攻撃スタイルは跳躍して、噛みつくことだ。今までのやり取りからして、この攻撃パターンは捨てているのだろう。


 ならばそういう奴として、やりようはある。


「ん?」


 違和感を発見した。キラーラビットの胸部が鈍く輝いていた。キラーラビットの身体にそんな発光器官があるなんて聞いたことがない。

 もしもあれがこの不自然な進化の原因なのだとしたら?

 わたしの中で戦闘プランがまとまった。


「よし、やるか。んで、さっさと帰る」

『その意気は良しだが!』


 キラーラビットが迫ってきた。わたしは再び炎剣えんけんの魔法を使い、時間稼ぎを行う。

 その間に攻撃の準備を整えることにした。


『多少のダメージはもらうが、これでやられはしないようだ!』

「だろう、な!」


 キラーラビットの四方の足元から鎖が伸びた。鎖はあっという間にキラーラビットに巻き付き、拘束した。


『く、少し強い! だけどこんなものすぐに破ってみせる!』

「おうさ、だけどあんまり急ぐな。じっくりやってくれや」


 一度きりの攻撃。不利を察すれば、逃げられるかもしれない。そんな中でわたしが選択した魔法は――。

 バキリ、とキラーラビットが鎖を引きちぎって見せた。


『どうだい! 多少は頑丈だったが――』



 キラーラビットの胸に流星が走った。



箒星ほうきぼしの魔法、一点集中版だ」

『な、んだって……』


 キラーラビットの胸から、鈍い輝きが消えた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?