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第30話 私にも魔力の輝きがあるの?

 横を見ると、優しい眼差しを向ける綺麗なお顔がある。きっと、いくら見つめても飽きることがないだろう。

 昨日、亡きお父様を重ねて緊張していたのが嘘みたいに、今は彼の表情を追ってしまう。何をお考えなのかしら。私を見つめて、何を思っているのかしら。


 グラスから仄かな香りが漂ってきた。


「……正直、今でも混乱しています」

「そうだろう」

「社交界に出ることのなかった私は、貴族の相関関係も書面上のことしか知りません。他のご令嬢より、噂にも疎いです」

「ああ、事情は分かっている」

「ですが、どのご令嬢よりも多くの本を読んでいると自負しております」


 魔法が使えないからこそ、人より多くの知識を求めた。魔法に代わるものを探し、算術、歴史、薬学、経営学、数えきれない学術書も読み漁った。

 お金を数えるのも、交渉の場で銭ゲバ商人に負けじと喋るのも、全部、令嬢らしからぬ姿だろう。


 ヴィンセント様から視線を逸らし、グラスをぎゅっと握りしめ、地味なドレス姿をした私の姿を思い浮かべた。


 社交界に立てるわけもない、地味な女。こんな私が、真っ当な婚姻を結べるなんて思ってもいなかった。だから、ヴィンセント様との婚姻だけでも、青天の霹靂だったのよ。なのに──


「アーリック族のことも、多少は存じていました。しかし、魔女の話は見たことがなく……さらに、その片方が私で、私の前はヴィンセント様の実母様だった……言葉にするのは簡単ですが、まだ、信じられません」 

「そうか」

「私に、大層な力はございません。幻惑の魔女を封じる力なんて……」

「私の母も、そうだった」


 俯きかけた私に、ヴィンセント様はそっと語りかけた。

 空のグラスが取り上げられ、ナイトテーブルに戻される。

 グラスで冷えた私の手を、ヴィンセント様の大きな手が包み込んだ。


「私の亡き母は、魔法が使えなかった」

「えっ!?」


 ヴィンセント様のお母様も!?──思わず声に出しそうになり、私はグッとこらえた。だけど、驚きを隠すことなどできず、瞳を見開いて彼を振り返った。

 嘘をつく人じゃないだろうけど、でも、私を安心させるために作り話をしているのかもしれない。


 何が真実なのか探るように、ヴィンセント様をじっと見つめた。


「魔力はその体内にあった。だけど、どういうわけか、火を点すことすら出来なかったそうだ」

「……それは、お辛かったですね」

「いいや、そうでもない。魔法が使えなくても死ぬことはないと、両親──私の祖父母は笑い飛ばして、母を外に連れ出したそうだ。魔法に代わるものを学ばせようとしたのだろう」


 その言葉に、幼い私の姿が重なった。

 魔法がなくても、お姉様の力になりたい。セドリックのために家を守れる知識が欲しい。

 私は必死だった。


「そうして、父と出会い、魔法のことを一から学んだそうだ。その時に、義母上とも親しくなったと聞いている。むしろ、義母上との交流が深かったそうだ」

「……複雑なご関係ですよね」

「そうだな。私にも両親たちの関係性はよく分からない。だけど、亡き母のことを語る義母上はとても幸せそうな顔をされるよ」


 目を細めて笑うヴィンセント様に、私も頷いた。亡きクレア様のことを話してくださっていたローゼマリア様の瞳には、憎しみや嫉妬のような感情は欠片もなかったもの。


「魔力がなくても、大切な人を助けたい。それが亡き母の口癖だった」

「大切な人を……」

「私を身籠ったのも、義母上を助けたい一心だったそうだ。幼い頃から、耳にタコが出来るほど聞かされたよ」

「えっ!? あ、あの、そんなに幼いときから?」

「ああ。物心ついた頃から、包み隠さず話された。そうして、母は義母上を母として敬うようにと、常日頃いわれていた。ローゼマリア様がいなければ、貴方は生まれなかった。私たちはローゼマリア様のお優しさに救われたのです、とね」


 ヴィンセント様の二人のお母様は、なんてお優しいのだろうか。

 複雑なご関係だというのに、お互いに思いやり、ご子息をこんなにもお優しい方へと育てられた。


 私の頬を、熱い涙が伝い落ちた。


「魔力がなくても、お幸せだったのですね」

「それだけではない。母の内側にあった魔力は、ある時、突如として解放されたのだよ」


 意外な告白に、私の涙は引っ込んだ。

 魔法が、解放された?

 言葉の意味が分からずに目を白黒させていると、ヴィンセント様は私の頬を濡らしていた涙を拭った。


「ヴェルヘルミーナ、心配することはない。貴女の胸の奥に輝く魔力は確かにある。私には

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