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第31話 魔法が使えないと、もう隠さなくていいの?

 ヴィンセント様の言葉に、震えながら「見える?」と訊ねれば、琥珀色の美しい瞳が優しい輝きをたたえた。

 温かい手が慈しむように髪を撫でる。


「ウーラのいっていた能力を持つ者とは、幻惑の魔女と覚醒の魔女だけの話ではない。世の中には、様々な能力を持った者たちがいる。私は、魔力の色を見ることが出来るんだ」

「魔力の、色?」

「持っている魔力の本質によって、様々な色が見える。人だけではない、森の動物、植物、魔物、様々なものの中にある魔力の善し悪しが見える。それが私の能力だ」


 大きな手のひらが、私の両頬を包み込んだ。


「ヴェルヘルミーナの魔力は、とても強い輝きを持った純白だ」

「私の、魔力……でも……」


 魔法が使えないと出かかった言葉を飲み込んで、ヴィンセント様から視線を逸らした。

 クレア様のように突如、私も魔法が使えるようになるのかしら。そんな奇跡が、起きるというの?


 鼓動が激しくなり、無意識に肩が上下した。


「大丈夫だ。もう、何も隠すことはない」


 まるで、私が魔法を使えないと知っているような口振りに、さらに鼓動が跳ねた。

 もしかして、隠さなくていいのかしら。

 私が無能だと罵られた理由を。貴方に嫁げと言い渡されたのは、無能な子どもを成すためだっていうことを。全部、話していいの?


「ヴェルヘルミーナ……魔法の使えなかった母と、その母から生まれた私は無能だろうか?」

「──!? い、いいえ。そのようなことは決して!」

「何も心配することはない」


 穏やかな微笑みに、肖像画の中にいたクレア様と、ローゼマリア様が重なった。この方は、本当にお優しいのね。

 私を傷つけないよう言葉を選び、私が自ら打ち明けることを待ってくださっている。


 大きな手に、私はそっと手を重ねた。


「私も……魔法が使えますか?」


 声と一緒に震える指が握りしめられ、私は強い力でヴィンセント様に引き寄せられた。

 顔を上げることも出来ず、彼の胸へと頬を押し付ける。とくとくと響く心音が心地よく耳を叩いた。


「必ず使えるようになる。私が、その魔力を解放しよう」


 顔を上げなくても、ヴィンセント様が静かに笑みを浮かべているだろうことが伝わってくる。


 ヴィンセント様は全て知っていて、私を迎えてくれていた。私のことを、ちゃんと分かってくれていた。

 嬉しさに心が満たされていく。


「……ありがとうございます」


 震える声で伝えると、ほんの少し私とヴィンセント様の間に隙間ができた。

 顔をあげれば、綺麗な顔がある。


 私は、この方と結婚するのね。


 ヴィンセント様の指が髪を撫で、首筋に触れる。そのくすぐったさに身をすくませると、彼はくすりと小さく笑った。


「そんなに怯えられると、イケナイコトをしている気になってしまうよ」

「──!? お、怯えてなどいません。た、ただ、その……こういった場面は、慣れておりません、ので」


 尻窄みになって、ごにょごにょと言えば、ヴィンセント様は目を細めて「私もだ」と呟いた。

 二人も奥さまがいた人の言葉とは思えず、目をぱちくりとさせていると、再び身体が彼の腕の中に引き込まれた。


「本当に美しく育った。お父上は、貴女を遺していくのがさぞ心残りだっただろう」

「……お父様が、ですか?」

「意外だと言いたそうな顔だな」

「そ、それは……お父様は、無能な私を疎ましく思っていたので……」


 優しい言葉なんてかけてもらえなかった。ヴィンセント様のように、頭を撫でてもくれなかったし、抱き締めてももらえなかった。いつだって、私に厳しかったお父様……


「お父上は、貴女が強く生きられるようにといっておられた」

「強く?」

「そのため、人一倍厳しくしてしまった。母親にはなれないものだとも」

「そんな……」


 お父様に、お母様の代わりなんて求めていなかったのに。どうして、本心を私に打ち明けてくださらなかったのかしら。

 もやもやとしていると、ヴィンセント様が耳元で「泣かないで」と囁いた。

 熱い吐息に背筋が震えた。


「お父上は、幻惑の魔女から貴女を隠すので必死だったのだから、責めないでほしい」

「えっ……?」

「貴女が目覚めるまで、守らなければ。強く生きられるようにと……最期まで貴女を心配していた。私が会いに行ったときも、後ろ楯を頼むといわれてね」


 砦で亡くなられたお父様は、息をひきとる数日前に、何人かのお客様と会っていたことは聞いていた。最期まで、魔法師団とお家存続を案じて、各方面に協力を頼んでいたのだと。その一人が、まさかヴィンセント様だったなんて。


「私は、亡きレドモンド卿に誓ったんだ。ヴェルヘルミーナを誰よりも幸せな花嫁にすると。そうしたら、難しい顔をして『お前に娘はやらないからな』といった後、笑いながら『ウェディングドレス姿を見たかった。きっと世界一可愛いだろう。よろしく頼む』といってくださった」


 お父様が亡くなられる前、面会一つ許されなかった。

 一目だけでもと願っても叶わず、私はお父様に見捨てられたのだと思っていた。

 だけど、違ったみたい。


 涙が止め処なく溢れた。


「お父様の、口から聞きたかった、です」

「……うん。そうだね」

「お父様、お父様……」


 まるで幼い少女に戻ったように、私は声をあげて泣き出した。それを止めることなどなく、ヴィンセント様は私を抱き締め、髪を撫で、背中をさすって側に居続けてくれた。

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