目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

『幕間 不穏の影② 闇に紛れる者』

 双子月が輝く月夜つくよとき——。



『ノーチェ、首尾はどうなっているのかしら? 鉱山の件は?』


「どうもこうも、ご存知ぞんじでしょ?」



 閑散かんさんとした街中で黒いローブをまとった少女は、腕輪型のリンクベルで高い声色こわいろの、女性と会話をしていた。



『失敗って訳ね。全く使えない事……』



 リンクベル越しに盛大なため息が聞こえてくる。

 少女はローブに隠された髪を、指先でくるくるといじりながらむっとして頬をふくらませた。



「あれもこれもと無茶ぶりされたら、そりゃー結果を出せるわけないじゃない。

 ただでさえいまは、あの方に任されたお使いで忙しいんです」


『誰彼構わず尻尾を振る様は、犬の様ね。みっともない。

 ……まあいいわ。あの方に幻滅されないよう、しっかりとおやりなさい』



 プツリと通話が途切れ、一方的に終わった会話に少女は不満をつのらせた。

 その犬のような役割を命じたのは、貴女でしょうに、と。



「はあ、やんなっちゃう。も、人使いが荒いんだから」



 わざわざ言われなくとも自分の役目はしっかり認識している。

 そのためにいらぬ苦労を強いられ、身を粉にして働いているのだから「少しはいたわって欲しいなぁ……」と、少女は心の中で一人ごちた。



「ともかくは後回しね。

 まずはお使い——宝石の回収をしないと」



 少女は小声で『風よ』と詠唱を口にする。


 すると、小さな竜巻が足元に発生して絡みつき、風をまとった足で地を蹴ると、通常では考えられない様な跳躍力ちょうやくりょくを生み出した。


 ふわり、と羽根の様に建物の屋根へと降り立てば、街を一望とはいかないが、辺りの見通しが良くなった。


 背の高い時計塔や監視塔であれば更に良いのだが、そう言ったところは生憎あいにくと警備の目が厳しく近寄れない。



「さてと」



 少女は左手をひたいに当て、街中の構造を観察した。



「宝石は花の中で輝き、あか獅子ししの守護を得る——か」



 【星】の導きにしたがって、エターク王国首都・オレオールに来たはいいものの。

 少しばかり面倒な事になっていた。


 宝石は別の宝石箱へと、大事に大事にしまい込まれていたのだ。



「んー。どうしようかなぁ。

 手がないわけじゃないけど、悠長ゆうちょうに遊びすぎたかしら?」



 時間制限タイムリミットが近い。

 少女は己の行動をほんのちょぴっとだけ後悔していた。



「あんまり派手にやると怒られちゃうかなぁ。でも出し惜しみも出来ないわよね」



 くすりと笑い、少女は街並みを見下ろした。

 仕掛けるのであれば下調べは重要だ。


 そうしてじっくりと眺め、大体のを把握はあくしたところで、下の方が騒がしい事に気付いた。

 視線を落とすと、慌ただしくる騎士の姿が複数ある。

 彼らの視線はこちらへ向けられていた。


 指差しまでしている。

 どうやら、こちらを見つけたらしい。



「あは! この街の騎士は優秀ね」



 隠蔽いんぺい魔術も使っているのに気付くなんて流石さすがだと、少女は口角を上げ——妖しく微笑んだ。


 少女が指を擦り合わせると「パチン」と弾けるような音がして、その後どこからともなく集まった暗霧が少女を包み込んでゆき——。


 少女の姿は闇夜の中へ溶けてしまった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?