人間を『機械』と呼ばれるモノで人工的に創り出したこと。
それが、人類が犯した最大の罪だった——
「『捧げる祈り。奏でられる調べは癒者の手に。『施しを君に、注ぐ命の雫。——【
南の森の中。樹木が乱暴に薙ぎ倒され荒れた平地の様に開けたその場所で、ソフィアたちは機獣と戦っていた。
ソフィアからの支援魔法を受け、パフォーマンスが最大に上がったクルルとハーベの動きは非常に軽やかだ。
四足歩行の小型の機獣——ガルムは鋭い爪と牙が特徴。紅い単眼が細くなると、四足に力が入り、大地をしっかりと踏み締めたエネルギーと共に風を切り裂きながら突進。それをクルルが辛うじて躱すと、背後にあった巨木がガルムの牙によって噛み砕かれた。
動きが止まったところで、クルルの長剣がガルムの横っ腹を打つ。金属がぶつかる鈍い音共に弾かれたガルムの空間が開くと、そこに上からもう一体のガルムがクルルに襲い掛かる。
その少し離れた場所では、ハーベが二足歩行の機獣——コボルト四体を二本の短剣片手に相手取っていた。
「クルルはそのままガルムを引き付けておいて、まとまったところを一気に押し潰して! ハーベはコボルトに認識阻害をかけて行動を誘導! クルルのところまで持っていって!」
「了解」
「はい! っとと……!」
ガルムと同じく、コボルトの紅い単眼がハーベを射抜くと鋭いその爪が空気と共に地面に裂傷を生んだ。
ガルムにしろコボルトにしろ、どちらも同じ小型の機獣だがその体格と破壊力は人並み以上。この場にあるモノを簡単に破壊せしめ、刻々とその様相が変わっていく。
戦いの余波で飛んできた木の破片が、アイリスの肌を叩いた。
「あれが機獣……ね」
戦っている臣下二人を、ソフィアの隣で見ながらアイリスは道中に聞いた
——かつて、ある一人の天才が願ってしまったのだ。なぜ私たち人類には苦しいことばかり訪れるのかと。自らの人生を豊かにしてくれて、楽にもしてくれる存在はいないのか……と。
歴史的に見ても、衝突してばかりで分かり合うことをしない同類には期待出来ない。だからこそ、彼は思い付いたのだ。
己の感情を理解してくれた上で、思うがままに動いてくれる『人工人間』の創造を。
そうして名付けられたのが機械の人——
ところが——
「ッ……!」
何物も砕かんとするガルムの破壊の牙がクルルに襲い掛かる。この場にいるガルムは合計四体。縦横無尽、多角的に降り注いでくるその脅威を、それでもクルルは持ち前の技術力で捌いていく。
下手にガルムが連携を取ってくるおかげで、必ずそこに生まれる空間。その隙を狙い、回避と同時に攻撃を入れていく。刹那の見切りがなければ命を失いかねない状況下でも、彼は決して怯みはしない。
鋼の体毛の下の皮膚が切り裂かれ、草と同じ緑色の血が地面へと溶け込んでいった。
その様子を見ながら、アイリスは己の掌を見つめる。機獣と同じく、破壊しか齎さないその手を。
——ある日、人類に優しくされていた筈の
全ては壊れきった新しい世界で、自分達が頂点に立つために。
そうして勃発した【
けれど、人類を超える圧倒的な力を持つ
そんな時に、奇跡が起きたのだ——
「クルル様!」
「任されよ!」
ハーベの合図によって、認識阻害にかけられた四体のコボルトがクルルの方へと向かってくる。
それに合わせて、クルルが己の魔法を発動。
「『我が仇敵を阻め! 【
正面から突進してくるガルムの左腕を長剣で逸らすと同時に、右側に張った障壁で右のガルムの攻撃を防御。動きが止まったその個体に向かって、長剣で逸らした勢いのまま思いっきりガルムを蹴飛ばした。
その方向には二体のコボルトがいて、合計四体の小型機獣が一斉に揃う形となる。
「今ッ!」
「はっ!!」
長剣の切っ先を四体の機獣に向けると、機獣たちの上に障壁が再展開。そのまま振り下ろし、盾の役割を持つ障壁を攻撃に転換。あらゆる攻撃を防ぐ絶対の護りは、最硬の鈍器同然となり機獣を真上から圧し潰していく。
「【
ドゴンッと、這い上がることを一切許さない圧力は地面を砕き、機獣の硬い身体を破損させていく。
——これこそ、人類が奇跡的に獲得した『魔法』の力。
魔法の力を手に入れて
人類と
けれど、最優先で魔王を倒したことで配下は逃げ延び、いずれ主たる魔王の野望を叶えようと虎視眈々と数を増やしながら人類を攻撃していったという。
そこで人類は改めて誓った。
人よ立ち上がれ、決して機械に屈してはならず、人の力を示すのだ。そしてなお、同じ過ちを繰り返さぬ様にと、戒めとしてシエンシア平和協定に唯一、ここに禁忌の一文を刻む。
【機械の創造を禁ずる】——と。