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6-3 「咆哮」

 【機械仕掛けの恢戦エクスハード】で見た人の復讐心やソフィアが抱く復讐心とはまた違った感覚。

 人によって生み出され、人によってあり方を捻じ曲げられ、最終的に復讐機と化したアイリスとアルゴス《機獣》だ。

 同族意識が芽生えないわけがない。

 アルゴスの感情を受け入れるかのように、アイリスは瞳を閉じる。


「だったらやっぱりコレを止めるのはオレの役目だよな……」


 瞼を開き、蒼い双眸が光を放つ。


「お前の復讐は受け取ったよ。——だから、お前を殺す。悪く思え、ここからはオレのターンだ」


 ——全機能解放。殺戮モード『ヴァニタス』起動。

 ドォォォンと、下から突き上げられた一際大きな衝撃と共にアルゴスが宙に浮く。


「は……?」


 それを見ていたサルードがその目を見開く。

 あれだけ一方的に暴力をぶつけていたアルゴスが逆さまになって、無防備を晒しているのだ。

 重々しい音を立てて地面に墜落。土煙と衝撃がサルードを吹き飛ばした。


「な、な、な、何が起こったのだ……!? なぜ、アルゴスがあのような無様な姿を……!」

「お前ごときがアイツを無様なんて言うんじゃないよ。アルゴスに失礼だろうが」


 吹き飛ばされたサルードを受け止めたのは、地上に降り立ったアイリス。

 逆さまの状態で顔を見上げると、突きつけられた憎悪の瞳にサルードは失禁しかけていた。

 そんなサルードを汚らしい物と言わんばかりに自身の後ろに投げ捨てろ。


「お前に死なれちゃマスターが困るからな。お前はそこで見てろ。一歩でも動いたらお前のその太った四肢を吹き飛ばすからな」

「ひっっっ……!」

 そう言ってアイリスは起き上がったアルゴスに向き直る。その姿を見たサルードはまた別の意味で目を見開いた。

 今、アイリスには左腕と右足が存在していなかった。


「どうやら、今のオレじゃお前を殺すのに力が足りないらしいからな。小細工させてもらうよ」


 ドンッと左足で地面を蹴ると、アイリスの姿がかき消える。

 それを即座に感知したアルゴスが近寄らせまいと、無数の体毛を伸ばすがアイリスはそれに向かって一蹴り。

 風圧で左足を消滅させたその超威力の真空の刃は、そのことごとくを斬り裂いて道を開ける。


 残されたアイリスは四肢は右腕だけ。全出力を右腕に回すため、形作っていた義肢はもう戻さない。

 バラバラに襲い掛かる体毛では意味がないと、それらを纏めて破城槌のように突き出すアルゴス。

 圧死させんと空気をも潰しながら迫る槌。それに怯むことなくアイリスは槌の側面に右手を引っ掛け、槌そのものの勢いを利用して超加速。

 アルゴスの背中に乗り移り、右手を錨の役目にして体を固定する。


 「全力を出せなくて悪いが、コレが今のオレの本気だ。——受け取れ。【咆哮ルドラ】」


 ハーベに偽装として教えられた『魔法らしい』言葉と共に、蒼い右眼から一条の光線がアルゴスの硬い体を容易く穿つ。


「「GガァァァァァッッAhH!!」 


 痛みを感じアルゴスが体を大きく捻るが、固定化されたアイリスの体は動かない。

 アイリスの視線の先は再生が始まっている肉の穴で、一瞬アルゴスが止まった隙に右腕を穴に突っ込んだ。


 ——右腕攻殻振動爪【バラモン】全機能解放。


 肉の中で五指が開かれ、指の腹が裂けていくつもの細かな砲門が飛び出してくる。続けて前腕部からも無数の砲門が展開され、開いた肩部の吸引孔は辺り一体の酸素を全て吸い尽くした。

 砲門一つ一つが、熱を帯びていく。


「もう苦しまなくていいからな。——【絶死灰燼の咆哮ルドラ・アグニース】!!」


 灼熱の業火が右腕から放たれ、再生の余地すら許さぬ炎の濁流がアルゴスを跡形もなく消滅させた。


「眠れ——」


 簡単な義足を作り、地に降り立ったアイリス。服は焼け落ち、その身を晒しているが気にも留めない。

 アイリスの視線は空に。アルゴスの生きた証は空気となり、上空へと溶けて消えていった。

 それを最後まで見届け、アイリスは気絶していたサルードへと近づいていく。


「あぁそうか、酸素全部吸い尽くしたんだっけ。まぁ、生きてるなら良いか」


 低酸素と熱波による火傷で意識を失っているが、命に別状はない。

 アイリスは残っていたサルードの襟を掴み、引き摺っていく。


「さて、土産は出来た。マスターは生きているかね——」


 爆発音が聞こえてきた方へと歩いていく。ソフィアマスターはまだ戦っているのだろう。

 わずかに残った力を足に込め、アイリスはソフィアの元へと跳んでいった。

 残されたのは、ガラスと化した地面に刻まれた巨大な爪痕だけだった——


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