アルムが魔法を使い、自身の声を騎士たちに接続する。
ソフィアの指揮を引き継ぐのではなく、ソフィアの為の『想い』を届けるために。
「『聞こえるか! まだ誰もその命を散らしていないな!?』」
「『その声は……アルムか!? 生きていたのかお前!』」
「『生きていたならとっとと連絡を入れろってんだ……! こっちはセレネとかいう嬢ちゃんの指揮がなくなって混乱してたんだぞ……! 今そっちはどうなっている……!? アステリア様は無事なのか……!?』」
聞こえてくるのは騎士たちの苦悶の声ばかり。状況はかなり悪いのだろう。
それでも、アルムは言わなければならない。
「『ロード隊長……! 生きていましたか! アステリア様は、ソ——セレネ様のおかげで無事です……! ですが、こっちが相手しているのは帝国の大隊長でして……!」
「『なんだと……!? あの大隊長を相手に……!?』」
「『あのセレネとかいう人は、戦えもするのか!?』」
「『でも、相手は大隊長だぞ……。俺たちが戦っている兵士ですら、これだけの強さだっていうのに……。保つのか……?』」
騎士たちから不穏な雰囲気が伝わるも、アルムはそれを肯定する。
「『残念ながら、それも時間の問題だろう。セレネ様も既にボロボロ。いつ、この均衡が破れてもおかしくない』」
アステリアからの炎の矢を援護に、至近距離で戦い続けるソフィア。一秒ごとに傷がつき、地面の亀裂に血が流れている。
それでも彼女はまだ戦っているのだ。
「『おかしくないけど、それは今のままなら——だ』」
「『何か策があるのかアルム?』」
「『はい、隊長。と言っても、策ではなくお願いですがね。今、オレたちが戦えているのはセレネ様の強化魔法によるものというのは分かっていますよね? あの人はボロボロになりながらもその魔法をかけ続けています。オレたちの命を消させないために』」
「「「「「『——ッ』」」」」」
揃って息を呑む騎士たち。
相対している敵は、『通常状態』で戦っていれば確実に命を落としているような強者ばかり。それを自覚しているからこそ
領民の避難誘導から命を落とさぬ指揮と強化魔法の付与。一人の少女にどれだけ負担を強いれば済むのか、まともな『王国騎士』なら耐え難い恥辱。
自覚はなくとも無意識に感じているであろうその心を、アルムは突く。
「『だからお願いだ……! 今からセレネ様に魔法を解かせて少しでも負担を軽くさせる! 無茶だとは分かっているが、みんなどうにか『素』の力だけで戦ってくれ……!』」
「『そ、そんな……!? 今、この魔法が切れたら——』」
ある一人の騎士が引き攣った声を出す。
情けなくとも、少なからずの恥辱を感じても、等しく降り注ぐ死の恐怖。
先の機獣による襲撃で、かろうじて生き延びたのが今の騎士たちだ。あの時、植え付けられた一方的な暴力の恐怖は簡単に拭い去れない。
だが——
「『弱音を吐くな勇敢なる騎士たちよ……! アルム、命令だ! 今すぐセレネ嬢に魔法を解かせろ!』」
「『ロード隊長!? いいんですか……!?』」
「『当たり前だろう……! いかに才女であろうと、年下の少女に頼りっぱなしで良いのか? 貴様らはステラ『王国』騎士団であろう!! 己がここにいる意味を思い出せ!!』」
『炎』を象徴とした王国に属する騎士らしい『熱』を帯びたその言葉。
死の恐怖に怯え、恥辱で鎮火していた騎士たちの誇りに火が灯る。
「『我ら騎士たちは、護りたいものを護る為に今まで鍛え続けたのだ! だというのに、他国の人間の力を借り続けるなんぞ、騎士の名折れだろう!』」
「そうだ……! 機獣や帝国軍がどれだけ強かろうと戦うのがオレたちの役目! オレたちの領土はオレたちが護る! 決して十年前の二の舞にするな!』」
隊長の言葉を引き継ぎ、アルムが
これが最後の一押し。これで心が動かされないのなら、ソイツは騎士失格だと暗に告げている。
そしてそれに動かない騎士たちではない。彼らにとっても十年前の惨劇は、まだ記憶に新しいのだ。
「「「「『うおおおおおおっ!!』」」」」」
街の各所から鬨の声が二重になって届く。
魔法が無くとも伝わる騎士たちの士気の高さ。これでもう安心だと、アルムは魔法をソフィアに繋げる。
「『ソフィーリア様! 端的に伝えます! 騎士たちに魔法をかける必要はもうありません! ソフィーリア様はご自身の為だけにその力をお使いください!』」
「『——ッ! ありがとう、騎士アルム……! お言葉に甘えるわ!』」
余計な問答はしない。騎士たちの想いを受け取ったソフィアは、思いっきりベラリオの大剣を弾き、距離を取る。
「おいおい。この後に及んで逃げるな——」
追撃しようとするベラリオの足元に、アステリアが炎を飛ばして足止め。
その数刻で、ソフィアは魔法をかけ直す。
「『捧げる祈り。奏でられる調べは癒者の手に。『施しを君に。注ぐ命の雫』——【
自分の魔法が十全に使えるようになり、治癒の速度が加速。傷は塞がり、体力が戻っていく。
そして『回復』の解釈を広げて身体強化が可能となり、枷も外れたソフィアの身体能力はベラリオに勝るとも劣らない——
「これで……! 条件は五分よ!!」
「う、おっ……!」
一瞬で間合いを詰めて上から叩きつけられたその威力に、ベラリオが初めて唸る。
踏みしめた地は砕かれ、衝撃がベラリオの手を痺れさせた。