「かつての……?」
「初代……ってことは……!」
「そうだ人間。醜いゴミ処理場から舞い戻ってきてやったぞ」
そこでフリューゲル兄妹も気付き、思わず戦闘態勢に入りかける。人から外れた体に、機獣にも似た右腕と先の言葉。導き出される答えは一つだけだった。
ただ、ピッとキセルを差し出しその行為を咎めると、ライハは胡座をかく膝に手を置いて頭を下げる。
「悪かったの機械の魔王よ。ワシの臣下が無礼をした。じゃが、理解もして欲しいの。かつて人類を滅ぼしかけ、暴虐の限りを尽くした魔王が生きて目の前に現れたんじゃからの」
「別に、気にしてないよ。そういう反応には慣れてるからな」
「そう言って貰えると助かる。して、一つ聞いても良いかの?」
「あぁ」
礼節を持ちながらライハは君主として、そして『人類代表』として尋ねる。
「なんで生きているのかは聞かん。やはり、戻ってきたのは人類を滅ぼす為かの?」
「当たり前だろ。オレ達、
「「「「ッ……!!」」」」
空気が痛々しく張り詰める。
揺れも起きていないのに、襖や木の床が軋み始め、空気に重みが増したがごとく
見る者が見れば、今この瞬間、この場が決戦場に思えることだろう。
「――けど、今は違う」
「えっ?」
肩をすくめたアイリスの軽い口調に、張り裂けそうなほどに詰まった『圧』が抜ける。
あまりにも予想外すぎるその言葉にライハが問いただした。
「それは……人類を滅ぼさないということかの?」
「あぁ。と言っても、全人類を滅ぼさないだけだ。『味方』以外は全員、壊すつもりだよ」
「味方以外……?」
「パスが繋がったマスターとの契約でね。マスターの命と引き換えに『味方』は生かすってことにしたのさ」
「んなっ……!」
その言葉に驚くのは当然、臣下の二人。
契約が交わされたのは、『魔王を仲間にした時』で間違いない。どうやって仲間に引き入れたのかという疑問には蓋をしていたのだが、まさか主の命がかかっているとは思わなかったのだ。
「ソ、ソフィア様……! ソフィア様の命と引き換えとはどういうことですか!? 王国が取り戻せたとしてもそこにソフィア様がいないと……!」
「王国とは、王あってのモノでございます。いくら民がいたとしても、象徴が不在の国はその瞬間から『在り方』を失います。どうか、そのような無茶な条件は跳ね除けてくださいませ…!!」
必死な懇願を二人の臣下はソフィアの背にぶつける。たくさんの使命と命を背負わせたその背中だ。
王国を想う気持ちと同時に、自身の命を犠牲にしてまでそれを果たさんとする未来なき女王に臣下として恥ずかしい気持ちも抱いていた。
「……大丈夫よ二人とも。私がいなくなったとしても、あの強大な帝国を打ち破り居場所を取り戻した民の強い心ならその先も生きていけるわ。『味方限定』とはいえ、アイリスもいてくれるしね」
「まぁ、マスターの命の代わりにってのが契約の条件だからな。言っておくけど、この契約を持ち出したのはマスターの方だぞ。マスターがオレに言った最も『殺したい』相手はレストアーデだ――ってことで復讐の優先順位を定めてやったのさ。オレ達にとってマスターとの
「そんなっ……!」
ソフィアの覚悟はもう変わらない。それが分かってしまったからこそ、ハーベは悲痛の声を出し、クルルは歯を砕かんばかりに噛み締める。
すると、そんなレストアーデ側の事情は置いておいたライハが話を切り替えた。
「……そこら辺の契約とやらはさておき、お主の言う通りであれば今人類が滅ぼされていないのはそこの嬢ちゃんのおかげだと?」
「まぁ、そうなるかもな」
「じゃあ何故、お主は嬢ちゃんを殺さないんじゃ? その条件ならば、今すぐ嬢ちゃんを殺しても問題なかろう」
「諸事情で今のオレじゃあマスターを殺せないんだよ。だから、マスターの野望についていって『力』が全て戻った暁に殺すつもりだ」
「力……?」
「お前達が奪ったオレの身体だよ。象徴と呼ばれてるんだったか? それが戻らない限り、オレは『全力』を震えないんだよ。だからここでオレの要求を突きつけてやる――」
アイリスは左腕の袖を捲り、人工皮膚に包まれた義肢を晒す。
「――オレの身体を返せ」