気合が乗った裂帛の宣言が、重苦しかった空気を完全に晴らす。
ソフィアの猛々しい想いを受け取ったライハはその口元を大きく吊り上げて、彼もまた宣言する。
「良く言ったレストアーデの王よ! 其方の信念・野望はしかとこのワシが受け取った! よかろう! 第十七代目当主の名において宣言する! トルルはここに、レストアーデとの友誼を交わし、同盟を結ぼうぞ!」
「ッ……! 本当、ですかライハ殿!?」
思いの丈を吐き出したことで冷静さを取り戻したソフィアの頭にまた熱が籠る。
ハーベとクルルも喜び、顔を見合わせていた。
「民を想う誠実な王ならワシも味方をしてやれるからの。少なくとも、あの帝国に組みするよりかは遥かにマシじゃ」
「でもよ、同盟までして本当に良いのかよ? 他国からすれば、王国は機械を作った国なんだろ?」
「まぁそうなんじゃがの。そもそもの話をすれば、ワシはレストアーデが機械を作ったなんぞ思っておらんよ。それでレストアーデを敵とみなせと言うのものぉ……」
「えっ!?」
あっけらかんと言われたその言葉に
「だってそうじゃろ。禁忌の一文があるとはいえ、ワシらは機械が何かを知らんのじゃ。作るなと言われても、どう作ればいいかも分からんのに、なぜレストアーデを『そう』と断罪出来るんじゃ。流石に無理があろうて。帝国は何を以って機械を作ったと思ったんじゃろうな?」
「と、ということは……ライハ殿はアレが帝国の陰謀だと?」
「そこまでは分からんが、きな臭いところがあるのは確かじゃ。世界の承認もロクに得ず、一方的に攻め込んだ帝国の行動は明らかにおかしいじゃろ」
「で、では……その時に何か言ってくれても良かったのでは……?」
ハーベが思わず口を挟んで尋ねてしまうが、無理もない。トルルの当主がそう思っていることは、他の国のトップもそう思っていること間違いないだろう。
そこで帝国を責めれば、王国が残っていた可能性も微かにあったかもしれないのだ。
「まぁワシとしてはそれをしたかったんじゃがの。なんじゃったら、帝国が攻め込んだ時点でワシはレストアーデ側に付くつもりでもおったわ。あんな義理もへったくれもない行動、ワシは許せんからの。トルルに大海嘯が起きておらんかったら、証拠が集まるまで対帝国の立場で参戦しておったわ」
歯を砕かんばかりにライハは噛み締める。よっぽど、十年前の帝国の行動に怒りを覚えているのだろう。
一瞬だけ空気が張り詰めた。
「まぁそういう訳じゃから、今度こそワシはレストアーデに手を貸すと決めたんじゃ。ソフィーリアからは帝国にはない誠実さを感じたからの。おまけに、お主のおかげでワシらは生きていられる様じゃし、その恩返し分もある」
ふっとアイリスとソフィアをライハは交互に見る。
二人の関係性は置いておいたとして、機械の魔王が率先して人類の敵に回らないのはソフィアのおかげ。今を生きる人間として、その義理を無視することはライハにとって絶対に出来ない行為だった。
「というわけで、ワシからの同盟の証じゃ。ソフィーリアをワシと同格と認め、アイリスにはトルルの象徴を返還しよう」
「ちょっ! 殿、それは流石にマズいって……!!」
「市民や老中たちが…、黙っていないんじゃ……」
主人の豪快な決定に慌てるフリューゲル兄妹。国を預かる立場の人間として無理もないだろう。
それでも、ライハはその意志を曲げない。
「まぁ大丈夫じゃろ。幸いここは島国。上陸してくる様な機獣はおらんし、漁の度に護衛をつけたら問題ないはずじゃ。極論、ワシが出ればいいしの。それに――」
「それに?」
「アイリスがソフィーリアとの契約を破り、暴虐を尽くすのであればまた破壊して、また要石にするだけじゃ。それこそ、かつての当主の様にの。それならば問題なかろう? ワシの臣下ならそれも出来るじゃろ」
軽々しく言ってのけるライハに、もうフリューゲル兄妹は力を抜いて笑うことしか出来ない。これが自分達の主人だと改めて認識し、開き直って受け入れた。
それで了承の意を得たライハだが、兄妹の考えも理解出来ることからここで一度肩をすくめて慮る。
「まぁ、とはいえ流石に老中を黙らせる『
「条件?」
「いくら返還が筋とはいえ、象徴を渡すことになるんじゃ。それなりの大義名分っちゅーもんは必要じゃろ」
「大義名分ねぇ。んで、それはなんだ?」
「簡単じゃよ。少なくとも、お主らがやろうとしていることを考えればの」
言葉を切ったライハが、鋭い笑みを浮かべながらソフィアとアイリスを見て指差す。
「悪辣たる帝国の手から主要領地を奪い返し、名乗りを上げて名実ともに帝国と『戦える』ようになること。それが条件じゃ」
「名乗りを上げる……?」
「難しいことではなかろ。お主らが野望のまま進めば、そうなるのは必然なんじゃからの。んで、そうしたら同盟関係を明かし、信頼を置くために象徴を預けるという形で、自然に渡すことが出来る。これならば、混乱も少なく済むじゃろ」
「確かに……。今、返還したら余計な騒動を招きそうね……。機械の魔王が復活した、なんて大々的に言えるわけもないし」
「そういうことじゃ」
「アイリスはどう? それでも問題ない?」
二人の王にじっと見つめられ、アイリスはため息ひとつ吐く。
「まぁ、良いよそれで。これ以上あれこれ問答するのも面倒だし、返ってくるならそれで。けど、あくまでその条件は言い訳であってオレへの返還が大前提だ。その約定を破棄した時は――」
「分かっておるよ。このワシの命に賭けて、お主に身体を返すと約束しよう。あぁじゃがの、先も言ったように仮にお主が見境なく暴れる様ならワシがお主を断罪してやるから覚悟せぇよ」
大胆不敵なその宣言に、アイリスが返す言葉は一言だけ。
尊大で、魔王らしい凄惨な笑みを携えて言う。
「やってみろ人間――」