「――それじゃあ、今回の会合はこれにて終了じゃの。この同盟関係が長く続くことを願っておるぞ、レストアーデの女王よ」
「感謝いたします、トルルの王。必ずやトルルを裏切らないとここに誓います」
「うむ。――アカリ、ユウマ。お主らはソフィーリア達を部屋に連れて行けぃ。明日はこのシンラを案内し、盛大にもてなすのじゃ」
「「御意ッ」」
これにて秘密の会談が終結。
フリューゲル兄妹に連れられ、大広間から出たソフィア一向は音の鳴る木造の廊下を歩いていく。
「ふぅ、それにしてもまさかアンタらがレストアーデの王女サマとその一向だなんてな。あの時、声をかけたアタシの勘は間違ってなかったってわけだ」
「それに……機械の魔王までいるとは、な。流石に、これは予想……出来なかったぞ……」
「あ、もしかして口調変えた方がいいか?」
そう笑みを浮かべながら言うフリューゲル兄妹に、ソフィアは首を傾げる。
「口調は今まで通りで構わないけれど……、貴方たちは、その、なんとも思わないの? レストアーデ王国の復興だとか、機械の魔王が一緒にいるとか、それこそ象徴のことだって……」
「思わないよ。殿が許して決めたことだしな。象徴にしてもそう。スジそのものはアイリスの方にあることは間違いない」
「それに……殿だけじゃない、カイリ様も……何も言わなかったからな。おれ達がどうこう言う必要は一つもない」
本当になんの意にも介していないのだろう。フリューゲル兄妹にとって、全幅の信頼を置いているライハの言葉は絶対。
だが、そこで違和感を一つ覚えたハーベが尋ねる。
「カイリ様って、ライハ様の隣にいてほとんど喋らなかった方ですよね? 何も言っていないのに、なぜあの人が判断材料になるんですか?」
「そりゃ、あの人は特別だからな」
「カイリ様は……、『敵意』や『殺意』といったものが、眼に見えるんだ……」
「害意を見抜く眼、だと?」
「そ。生まれつき持ってたらしくてな。カイリ様がいたから、この国は今も存在してるといっても過言じゃない。そんなカイリ様が、お前達に対して何も言わなかったってことは、お前達がトルルに害を成すつもりは一切ないってことだ。だったらアタシたちはソレ十分だ」
「殿も、最終的にはそれを信じて……同盟を結んだだろう、からな――」
☆
「――さて、カイリよ。本当にあの者らは問題ないのだな?」
「えぇ、ライハ様。彼女達が告げた言葉の数々に、偽りも敵意もありません。あるのは帝国への害意だけ。トルルに何かしようというつもりは一切ないでしょう」
言葉に揺らぎはなく、自信を持って報告するカイリにライハは大きく深呼吸する。
「ふぅぅぅぅ。お主がそういうのであれば問題はないのであろうな。海賊の件といい、今回も助かったぞい」
「いえ、それが私の役目ですので。それに、夫を支えるのも妻の務めでしょう?」
「ふっ、本当によく出来た妻じゃのカイリは。――それにしても、対帝国を志す王女に蘇った機械の魔王か。これはまた随分と難儀な因果というべきかの」
「そうですね……。あんな子供に世界の行く末を背負わせていることに、いささか思うところはあります……」
ソフィアのことを心の底から心配しながら、不甲斐ない自分を覚え、震える体を抑えるカイリ。
そんな愛する妻を支える様に、ライハはその逞しい胸にカイリを抱き込んだ。
「じゃからこそ、困難な壁に立ち向かう少女にワシらは大人として支えてやらねばならぬ。それがたとえ他国の人間じゃとしてもな。これから厳しい戦いが待っておるじゃろうが、力を貸してくれるかの?」
「勿論でございますライハ様。この身、この心は貴方様の為にありますゆえ――」
激動の時代を迎えたことを察知している二人は、見つめ合ってお互いの存在を改めて心に刻み込む。
「それにしても、ここで帝国を相手にすることになるとはの」
「心配ですか?」
「そんなわけあるものか。むしろ血が激ってしょうがないわい。ソフィーリア達には感謝せねばならんな。覇権国家の出現を抑えられるかもしれんこの機会を与えてくれたことと、帝国に有利を取れる
そこで襖の奥からレイネの声が聞こえてくる。その声色にはどこか喜びが混ざっていた。
「ライハ様。航り燕が届きました。北のタイカイから航り燕が届きました。明日には、帝国の特使――へべレスタが到着するとのことです」
「やっと来おったか。待たせおってからに。わざわざ『清祓祭』に合わせんでも良かろうて」
「それが向こうの策なのでは? 祭りの気分に乗じて――というような」
「まぁそれはあるじゃろうな。祭りを台無しにしたくないワシらの気分を読み取って、曖昧にする可能性はなきにしもあらずじゃ。じゃが――」
楽しそうに、それでいて凄みのある笑みを携えてライハは窓から海を見る。
「そんなことには絶対にさせん。まずは先制攻撃じゃ。そのへべレスタとやらから、どのような言葉が聞けるか楽しみじゃの――」