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31「解決」

「どっちが怖いですか? 今の状況と、父親と。どちらのほうが、より怖いですか?」


 私の問いに――、





「今の状況のほうだ!」





 泣き叫びながら、ゾルゲが答えた。


「その言葉が聞きたかった」私はニヤリと微笑む。「カナリア君!」


 次の瞬間、空が太陽の明かりで照らされた。

 いや、太陽と言うのはさすがに大げさかもしれない。

 照明弾だ。

 陸戦鉄神M4に搭載されている照明弾が、空を、地面を照らしたのだ。


 突然の光に驚いた魔物たちが、一斉に飛び退く。


 続いて、


 ――ヒュゥゥゥゥウウウ……ドシーンッ!


 轟音とともに、鉄神M4が降ってきた!

 これこそが、『仕込み』。

 あらかじめ、カナリア君が操るM4を森に潜ませておいたのだ。


 鮮やかに着地したM4が、巨大アサルトライフルで周囲の魔物を薙ぎ払っていく。

 オオカミ系の魔物が、

 木の上にいたサル系の魔物が、

 ゴブリンが、

 オークが、

 オーガが、

 そして巨体を有するトロールまでもが。

 ありとあらゆる魔物が、アサルトライフルのひと薙ぎで屠られていく。


 あっという間だった。

 ほんの十数秒のことだった。

 危機は去ったのだ。


「このとおり」照明弾の明かりの下で、私はゾルゲにニッコリと微笑みかけた。「もう、怖くない」


「あぁ、あぁぁ……」


 ゾルゲが泣いている。

 魔物に食われるという恐怖から解放されたことに対する涙なのか、それとも。


「前辺境伯よりも怖かったはずの魔物たちは、このとおり私の軍が殲滅しちゃいました。私やアナタを殺すことすら可能だった魔物が、このとおり瞬殺。翻って、アナタに指一本触れることもできないお父上の幻影は、本当に怖いのでしょうか?」


 ゾルゲが――劇作家ゾルゲ氏が、顔を上げた。


「どうですか? まだ怖い?」


 ゾルゲ氏は憑き物が落ちたような、すっきりとした顔をしていた。


「怖くない……あ、いえ、怖くありません。私はどうして今まで、父上の幻影に縛られていたのでしょうな?」


「まぁ、それがあのクーソクソクソ前辺境伯の特技ですからね」


「くーそくそ?」


「ええ。ほんとにクソでしょ、あの男。妻は奴隷扱いするわ、子供たちは見捨てて逃げるわ」


「ふ、ふふ……あーっはっはっはっ。確かにそうですな。クソだ。クソ親父だ」


「さて」私は居住まいを正した。「ゾルゲ。フォン持ちではない、平民ゾルゲよ。アナタに沙汰を下します」


「!」


 ゾルゲ氏が背筋を伸ばした。


「アナタは領法どおり、鉱山奴隷落ちとします。勤務地は――」


 ヴァルキリエさんが、ゾルゲ氏の縄を解いた。

 ゾルゲ氏が不思議そうな顔をする。


「バルルワ温泉郷の劇場、並びに領都フォートロンの劇場です。温泉郷のほうの劇場は、これから作るんですけどね」


「…………はい?」


「温泉掘りも、広い意味では鉱山勤務」


「くくくっ」ヴァルキリエさんが笑いをこらえている。「また、我らが主の屁理屈が始まったようだぞ」


「穴や壁を掘るって意味じゃ一緒でしょう? そして、掘ることだけが鉱山奴隷の仕事じゃない。『掘り』に付随する仕事――例えば温泉建設業に携わる人々の慰労なんかも仕事に含まれます」


「慰労?」


「そう。素敵な歌劇で人々を楽しませ、ストレス解消させるお仕事です」


「すとれす……?」


 しまった。

 この世界には、ストレスの概念はないんだったか。


「まぁ、娯楽ですよ娯楽。つらいことやしんどいことが多い人生でも、楽しみがあれば『明日もがんばろう』ってなるでしょう?」


「私に、アナタ様のための歌劇を書けとお命じになるのですか?」


「私のためではありません。獣人たちのため、そして領民全員のための歌劇を。獣人を称え、領民全員が仲良くなれるような、平和的な歌劇を!」

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