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35「鉄神オーバーヒートで大ピンチ」

【Side エクセルシア】



「ふぉおおおお~~~~ッ!?」


 私は劇に夢中になっていた。

 壮大な音楽、

 役者さんたちの迫真の演技、

 本物の地龍のウロコをあしらった、大道具さん渾身作の地龍!


 最初は、鉄神 VS 地龍のフェーズ。

 ここは、女神エクセルシア in 鉄神と地龍の一対一に改変されている。

 ワイヤーによって鉄神がぴょんぴょん飛び跳ねる演出の、なんとダイナミックなことか!


 続いて、将軍ヴェルキリエが領軍 VS 地龍のフェーズ。

 ヴァルキリエさんを演じるヅカ顔の役者さんは凛々しく、領軍のエキストラさんたちはカッコいい。


 さらに、バルルワ村の村人たちが立ち上がっての獣人 VS 地龍のフェーズ。

 獣人たちのシャウト攻撃は大音声で、かつ2号によるエフェクト映像が載っているので観客席の度肝を抜いた。


 最後に、女神エクセルシアが巨大な穴を掘り、地龍を穴に落とすフェーズ。

 ここは、エフェクトと効果音が一番光るシーンだ。

 何しろ極大風魔法【第二地獄暴風ミーノース】とか極大炎魔法【第七地獄火炎プレゲトン】とか極大氷魔法【第九氷地獄コキュートス】とかいう超ヤバイ級魔法が連発されるシーンだからね。


 ――ビュォォォオオオオオッ! ドカベキガキベゴッ!!

 ――ゴォォォオオオオオオッ! ドッカーーーーンッ!!

 ――シュワァアアアアアアッ! カキィーーーーンッ!!


 鉄神から次々と放たれる、極大魔法の数々。


 ――うぉぉおおおおおお!?


 観客、大興奮。

 よーしよしよしっ、これで劇は間違いなく大成功で――





 ……次の瞬間、舞台が真っ白な光に包まれた。





 何も見えなくなるほどの、強烈な光。


「えっ、何これ!?」


 明らかに、台本にはない演出だ。

 私が組んだスクリプトがミスってたのか?

 それとも、このタイミングで鉄神2号が故障!?


 さらに次の瞬間、舞台が真っ暗になった。

 懐中電灯の明かりを頼りに2号に駆け寄ってみると、


 ――プシュー……プスプスプス……


「ええええっ、オーバーヒートしてるぅぅうう!?」


 悪いことは、さらに続く。


「いたたたたたっ」

「痛っ……どうしよう、これじゃ演技が続けられない」


 どうも、2号の誤作動による強烈な光、からの真っ暗闇のコンボで役者たちが転倒し、足をひねるなどの怪我を負ってしまったらしい。

 幸い、命に関わるような大怪我を負った人はいないようだが……。


「動けないものは、名乗り出てくれ!」


 テンパる私の隣で、ゾルゲ氏がテキパキと指示を出しはじめた。


「この流れを止めるわけにはいかない。速やかに代役を立てる」


「エクセルシア役、足首をくじきました。走れそうにありません」


「クゥン役ですが、同様です。すみません……」


 エクセルシア役とクゥン役の役者さんが手を上げた。


「って、主役の2人じゃん!?」


「「す、すみません!」」


 私のツッコミに、役者さんたちが頭を下げる。


「あぁいえ、咎める意図はなくっ。そもそも2号の暴走が原因ですし……こちらこそすみません」


 でも、どうしよう!?

 せっかくここまで準備して、大成功しそうだったのに。

 こんな中途半端なところで終わってしまっては、観客に掛けている『獣人カッコいい! 獣人TUEEEEEEE! 獣人SUGEEEEE!』という洗脳魔法が不発に終わってしまう。

 計画は失敗し、差別問題と反乱問題が未解決のまま終わってしまうだろう。

 どうしよう、どうすれば……。


 ――パンッ


 と、ゾルゲ氏が手を叩いた。


「そういうのは、後にしましょう」


 ゾルゲ氏は、私と役者さんの会話(謝罪とかうんぬん)について言ったのだろう。

 ちんたら会話している場合ではない、と。

 けれど私には、『慌てるな。目の前のことに集中しろ』と言われたように感じられた。


「大丈夫ですよ、領主様。劇は絶対に成功させます。私には秘策がありますからな。――照明班」


 自信満々のゾルゲ氏が照明班に指示を出し、舞台に照明が戻る。

 ゾルゲ氏がカツカツと演技がかった様子で足を踏み鳴らし、舞台へと出ていった。


「ご観劇中の皆様!」ゾルゲ氏が堂々とした様子で声を張り上げる。「ここで、特大サプライズがございます! ななななんと、女神エクセルシア役と護衛騎士クゥン役として、御本人が飛び入り参加!」


 ――おぉおおおおおおっ!


 大盛り上がりの客席。


「「…………え?」」


 私とクゥン君がハモった。


「「えぇえええええええええええええええええええええっ!?」」


 秘策って、それ!?

 単なる無茶振りだよね!?


「ほら、早く。劇を止めるわけにはいきません」


 ゾルゲ氏に舞台袖から引きずり出され、私たちは困惑する。


「あれが、女神様?」

「なんか役者よりも貧相だなぁ」

「っていうかあれ、領主様じゃん」

「あぁ、例の女領主か」

「女に領主なんて務まるのかねぇ」


 観客のひそひそ話が驚くほど良く響き、私の耳にまで届いた。届いてしまった。

 観客たちの心ない呟きが、私の胸をえぐる。

 いや、『心ない』なんて言うほどのものではない。

 観客からすれば何気ない、害意も悪意もないフラットな発言なのだろう。

 だからこそ、私の胸に深く突き刺さるのだ。


 …………怖い…………。

 思わず、助けを求めるように隣を見てしまった。

 が、クゥン君もいっぱいいっぱいのようだった。

 それは、そうだろう。

 依然として、獣人に対する敵愾心は強い。


「獣人……?」

「獣人だ」

「見ろよ、あの耳」

「女領主に獣人の組み合わせとか、なぁ?」

「なんか、お嬢様とペットみたいだな」

「言えてる」


 観客たちの刺すような視線が、クゥン君に降り注いでいる。

 そうだよ、何考えてるんだ、私。

 私を守って、じゃない。

 私が、クゥン君を守るんだよ!


 クゥン君を悪く言うな! ――は、違うな。

 そんなことを言っても興冷めするばかりで、良いことなんて1ミリもない。

 なら、どうする?

 この場を上手いこと盛り上げつつ、切り抜ける方法は――。


「……あ、そのっ……」


 口を開いてみるが、ろくな言葉が出てこない。

 喉がカラカラだ。

 どうすれば、どうすれば……必死に考えるが、妙案は浮かばない。

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