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36「大団円」

「……あ、そのっ……」


 口を開いてみるが、ろくな言葉が出てこない。

 喉がカラカラだ。

 どうすれば、どうすれば……必死に考えるが、妙案は浮かばない。





 ――バーーーーンッ!





 開場と、私の心に、一条の光が差した。

 客席入口のドアが開いたのだ。

 現れたのは、


「お姉ちゃん!」


「か、カナリア君!?」


 カナリア君だった。

 彼の背後には、身をかがませた鉄神が佇んでいる。

 あれは2号と同じ労働タイプ。

 多分、3号だな。

 それにしてもなぜ、カナリア君がここに?

 しかも、鉄神を伴って――。


「今、どこ!?」


 カナリア君が叫んだ。

 どこ。

 どこ、と聞かれるまでもなく、見てのとおり私は舞台上にいる。

 彼に、私の姿が見えていないはずがない。

 つまり、その問いの意味は――


「第4幕第5場29節!」


 私は、叫んだ。


「了解!」


 カナリア君が、応えた。


 ――ゴォォォオオオオオッ!


 轟音とともに、舞台が炎に包まれた。

 鉄神3号がプロジェクタで映し出した、エフェクト映像だ。


「地龍シャイターンによる必殺のドラゴン・ブレス!」カナリア君の良く通る声が、開場を貫く。「だが、女神エクセルシアが操る鉄神も負けてはいない! 究極の極大氷魔法【コキュートス】が炸裂する!」


 今度は、舞台が氷に包まれる。


 ――わぁああああああああああああああああっ!


 客席は、あっという間に夢中になった。


 カナリア君……カナリア君、カナリア君っ!!

 まるで、ヒロインのピンチに駆けつける白馬の王子様だった。

 私の胸が、ぎゅっとなった。


 そこからは、万事上手くいった。

 一度は倒したかに思えた地龍が復活。

 鉄神を失った私は、地龍に追われて逃げ惑う。

 絶体絶命に陥ったその時、助けに来たのが護衛騎士クゥンだ。


「さぁ女神様」ライトアップされたクゥン君が、舞台上で私に手を伸ばす。「この手を取ってください」


「はい!」


 私はクゥン君の手を取り、彼に抱き上げられる。

 追いかけてくる地龍と、地龍の攻撃をスイスイと避けるクゥン君。

 ワイヤーも使っていないのに、ワイヤーアクションばりのアクロバティックアクションだ。

 そこにカナリア君が投影するエフェクトが合わさって、もう最強最高のエンターテイメントショーだ!


 っていうかカナリア君、さっきからゾルゲ氏が指定し、私が書いたスクリプトと寸分違わぬ内容のエフェクトと効果音を流してくれているんだけど、いったいぜんたいどうやっているんだろう?

 2号とデータリンクして2号のスクリプトを持ってきたのかな?

 器用な子だ。


 それに、私のスクリプトで2号がオーバーヒートしたってことは、同タイプの3号で同じスクリプトを流した場合、3号もオーバーヒートするはず。

 けれど、3号にそんな様子はない。

 つまりカナリア君は、2号や3号のスペックでもオーバーヒートしないで済むように、私が書いたスクリプトをパフォーマンスチューニング――つまりプログラミング改修したんだ。

 教えてもいないのに、独学でそんなことまでできるようになるとは!





   ◇   ◆   ◇   ◆





 劇は、大成功で終わった。

 カーテンコールで挨拶をしている間、私もクゥン君も、観客から惜しみない拍手と声援を受けた。

 私のことを『女のくせに領主だなんて』となじったり、クゥン君を『獣人風情が』と罵るような声は、ひとつもなかった。


 もちろんそれは、客席の地下で今も怪しい輝きを放っている、洗脳魔法の魔法陣の効果によるものだ。

 けれど、それだけじゃない。

 ゾルゲ氏が、

 役者さんたちが、

 演奏者さんたちが、

 大道具さんや小道具さんやその他裏方さんたちが、

 そしてクゥン君とカナリア君が私にもたらしてくれた勝利なんだ。


 拍手と声援は、いつまで経っても鳴り止まなかった。

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