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41「王家との契約」

 その日の夕方、バルルワ村・女神邸の執務室にて。


「もしもし、こちらエクセルシアです。聴こえますか」


 私はノートパソコンに語りかけた。


『もしもし、こちらはゲルマニウム王国国王・ゲルマニウム16世である。聴こえておるぞ』


 通話アプリに陛下の顔が写った。


「陛下、お話がございます。今、お時間よろしいでしょうか?」


『もちろんだとも。今の我が国において、そなたとの会談以上に重要なことなど、そうそうないのだからな』


「お心遣い、痛み入ります」


『して、用向きは?』


「息子さんを、私に下さい」


 私はどストレートに言った。


『良かろう』


 陛下は驚いた様子もなく、どストレートに答えてくださった。


『して、契約内容はどうする? 王侯貴族の婚姻とは、家と家との契約だからな』


「はい」


『王家としては、カナリアとそなたの間に生まれた長男を王太孫として貰い受けたい』


 王太孫とは、王太子の子供のこと。

 つまり、次の次の国王だ。


「はい、異論ありません。次期バルルワ = フォートロン辺境伯は次男に継がせる考えです」


『それが良いだろう。それまでは、東部国境の守りはそなたに任せる。そなたは次期王妃――国母であると同時に、バルルワ = フォートロン辺境伯も兼任することとなる』


「ご下命、承ります」


『とは言え、カナリアとの不仲説がはびこっても困るから、定期的に王都に遊びに来るように』


「心得ております。10年は先の話でしょうから、その頃には王都・辺境伯領都間のハイウェイも完成していることでしょう」


『はいうぇい、とは?』


「自動車専用幹線道路、高速道路とも言います。魔の森で発掘したような、馬無し馬車を走らせるためのアスファルト製の道です」


『あすふぁると。また新しい言葉が出てきたな。そなたの家とは早々に婚姻を結び、そういった話を具体化させたいな。軍事についても相談したいし』


「とは言え、結婚はまだ早いですよね?」


『無論だ。そなたが言うように、結婚は10年後になるだろう。なので、まずは婚約という形で話を進めたい』


「なるほど」


『来月、王都で婚約式を開きたい。構わんか?』


「承知いたしました」


 私は神妙な面持ちでうなずく。


『ふふっ。そなた、ようやく小娘の顔から領主の顔になったな』


「うぐっ……あ、あはは」


 やはり、見抜かれていたか。

 私が辺境伯としての立場も鑑みず、恋する乙女モードでいたことを。


「ですが、良いのでしょうか。こんな気持ちで結婚を決めてしまっても」


『こんな気持ち、とは?』


「打算、計算、政治。私、カナリア君のことは大好きですが、異性に対する恋愛感情かと言われると、正直……」


『あっはっはっはっ! 良いに決まっているだろう。王侯貴族の婚姻とは家と家との契約だと、先ほど言ったばかりだろう。そなた、東部一体を守護する大貴族の身分で、恋愛結婚などという贅沢なんぞできると思うなよ』


「ひええっ」


『だが、安心せよ。恋も愛も、案外、結婚後について来るものだ』


「そういうものですか?」


『うむ。それに、カナリアは情熱的な男だからな』


「そうなんですか?」


 いつもぽやぽやしてるイメージなんだけど。


『間違いなく、そうだ。何しろ余の息子だからな』


「あ、あははは」


 素敵なイケオジ陛下ですこと。


『カナリアを呼んできてはくれんか』


「かしこまりました」


 執務室を出ると、カナリア君が廊下に立っていた。

 そわそわした様子でこちらを見ている。


「カナリア君、おいで」


 手招きすると、おずおずといった様子でカナリア君が部屋に入ってくる。


『久しいな、カナリア』


「父上」


『辺境伯、ふたりきりにさせてはくれんか。男同士の大事な話なのだ』


「かしこまりました」


 部屋から出ると、今度はヴァルキリエさんが立っていた。


「エクセルシア、よく戦ったね」


「うぅっ……!」


 思わず涙腺が緩んだ。

 ヴァルキリエさんはそんな私を抱きしめてくれて、背中をぽんぽんしてくれた。

 まったく、私のほうが歳上なくらいなのに、情けない。

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