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第9話

 旅人様が御者台に乗り、馬車を運転します……あれから2頭のお馬さんどっちも私に懐いてくれたので、動物に好かれるというのはまんざら間違いではないかもしれません。


 さて、馬車に乗って向かうは帝国への入口、国境の境にある街、アーモード辺境伯が収める街へと向かうことになりました……ただ、予想外のことが起きたのです…それは……


「うぅ、気持ち悪いぃ……」


「とにかく横になってろ、あと耐えようとせずダメだったら吐けよ?」


「そ、それはぁ……お、女の子として色々終わっちゃうのでぇ……が、まん、します……」


 死体を見て我慢出来なくて吐くのと、馬車の酔いで吐くのではちょっと色々違います……ここでやってしまえば女の子として色々詰む気がします……


「とりあえず、これを飲んでおけ」


「これ、は?」


「酔い止めだ、少しはマシになるだろ」


「あっ、ありがと、ございますっ」


 旅人様からいただいた薬を口に含み水で流し込みます……


「あうぅうう……苦いよぉ(泣」


「良薬口に苦しだ、我慢しろ」


「はぁあい……」


 そのあとも馬車に揺られましたが、薬を飲んだことで多少はよくなったようで、最悪の事態は避けることができました……それに、なるべく揺れないように工夫してくれていうるのもわかります。素敵すぎます、もっと好きになりました♪


 まぁ、今はまともに見せられる状態ではないですが……あっ、ちなみに2頭のお馬さんも私を心配してくれてるようです……あぁ、心配されるのって嬉しい……


(あれ、そういえば……諺ってこの世界でもおなじなんですねぇ~ちょっとびっくり)


 まぁ、そんな考えも悪路に差しかかかると再び苦しみによって私は思考を閉ざしたのでした……



―――マルガット・アーモード辺境伯side―――


「それで、確認はとれたのか?」


「はっ、王都側からも調査が入ったようですが、呪の姫君……アンネレーゼを運んだ兵士の死体は確認できております……状況から見て狼型の魔物に襲われたようで、あたりに肉片が散らばっていたことから、数名は食われたものと断定できます」


「だが、その中にアンネレーゼらしき死体は確認できなかったと?」


「はっ、兵士は全員死亡……狼も死亡しているのが確認できておりますが、檻には誰もおらず、血痕もついていなかったそうです…それと鍵で開けられた形跡があります」


「ふむ……そうなると兵士の中にあの姫を逃がした愚か者がいたか……それともその場に姫を連れ去った何者かがいたかか……」


「現在調査中です……ただ、周辺には姫らしき存在は確認できておりません」


「ふむ……あいわかった、すぐに検問を強化せよっ!」


「検問をですか?」


「そうだ、もし仮に姫が生きていた場合、確実に他国へ向かうだろう……そうなれば帝国に隣接する我が領地を通る可能性が高い」


「確かに……」


「いいか、何としても姫を見つけ出せっ!生きてるものとして探すのだっ!呪われた姫を他国へ逃がしたとなれば、他国で問題が起きれば、その責任は我が国にくるだろう……そうなれば、他国にどれほどの条件を出されるか……よいかっ!なんとしても見つけ出し、確実に殺すのだっ!」


「はっ!」


 兵が出ていき、私は椅子に腰かける……


「ふぅ、まったく……よもや生きている可能性があるとは……あの女はどこまで迷惑をかければ気が済むのだっ」


 とにかく、何としても姫の居場所を突き止め、確実に殺す必要がある……陛下も情けをかけたのかしらんが、直接首を刎ねればよかったものを……


「ただ、問題は……兵士をすべて殺したであろう狼の魔物を全滅させるほどの力をもった何者かが一緒にいる可能性か……あの脆弱な姫君が魔物を殺せるわけがない……そうなればかなりの腕の立つ人間が姫を守ってる可能性があるか……くぅ、厄介な……」


 考えれば考えるほど嫌な予感を感じる……もし、もし仮に姫を助け出したのが他国の人間だったら?姫を使うことでわざと我が国に対して有利な条件をつけようとしているとしたら……


「いかんな……考えすぎても毒か……だが、生きているならばなんとしても見つけ出し、今度こそその首を直接、斬り落としてくれる」



―――アンネレーゼside―――


「見えてきたぞ」


「ふぇ?あっ……あれが、アーモード辺境伯が収める街ですか……そういえば、なんて名前の街なんですか?」


「気になるのか?」


「えっと、まぁ、一応?」


「確か、辺境都市ラライムだったかな?」


「ラライム……なんだか可愛らしい名前ですね?あと果物みたいです」


「まぁ、確かに……なんでそんな名前がついたかはしらないがな」


「そうですねぇ……でもでも、可愛い名前つけるような領主様なら、きっと通してくれますよね?」


「いや……ここの領主、辺境伯はとにかく真面目で融通が効かないことで有名だ……もし、姫が生きてることを知られれば、確実に殺しにくるな」


「ひぅぅ……だ、大丈夫ですよね?」


「なるべく痕跡は消してはきたが……すでにバレてる可能性もある、十分注意して進むぞ」


「は、はいっ」


 それから私達は無事に、ラライムの街に入ることはできました。


「特に問題なく入れましたね?」


「そうだな……」


「この後はこのまま国境にいくんですか?」


「いや、その前に宿をとる」


「え?この街に泊るのは危ないんじゃ?」


「まぁ、確かに危険はあるがな……まずは国境の様子を俺が見てくる……警備が厳重になっているなら、対処法を考えないといけないからな」


「あっ……そ、そうですよね……下調べもせず向かったら……」


 そのあとは、旅人様に連れられ馬車を預け荒れる宿で部屋を借りることになりました……私はフードを深くかぶって顔を見られないようにし、旅人様の指示で彼の腕に抱き着いています……あぁ、あぁ……こ、これほどの密着具合っ!たしかに背負ってもらったりもしてるのを考えれば密着面積は狭いです……ですがっ!私の胸をもうこれでもかと押し付けていますっ!死ぬほど恥ずかしいですっ!顔から火が出そうですっ!でもでも、ごまかすために恋人の振りをするのも大事ですっ!そう、大事ですっ!!!!


「とりあえず、この部屋で待っていてくれ」


「ふぁ?あっ、は、はいっ!」


「大丈夫か?」


「だ、大丈夫でしゅっ!」


 噛んだ……全然大丈夫じゃないと言ってるようなものだ……恥ずかしい……穴があったら隠れたい


「問題なさそうだな」


「!?」


 問題ないことにされたっ!もしかして旅人様の私の評価ってあまりよくないっ!?まって、落ち着けー落ち着け私―!まだ、まだだっ!


「とりあえず、元気そうだな……じゃあ、俺は国境の様子を見てくる……誰が来ても部屋を開けるなよ?」


「わかりましたっ」


「じゃあ、行ってくる」


 そういうと旅人様は、窓から外へ出ていきました……あれ?ここって3階……恐る恐る外を見ると旅人様の姿はどこにもありません……ふぁぁ、しゅごい……はっ、語彙力がっ!?


「と、とりあえず……旅人様が戻るまでどうしようかなぁ……お部屋から出れないし……」


 とりあえず、あまり柔らかくもないベッドに突っ伏します……そういえば、こうやって1人きりになるのってすごく久しぶりな気がする……いや、旅人様から会ってもまだそれほど経ってないのに……うぅ、1人がこんなに心細いなんて……


「はぁ……はやくかえってこないかなぁ~」


 今、出ていったばかりなのに、すでに寂しいなんて……私は弱くなっちゃったのかなーずっと、ずっと1人だったのに……


 ◇


「んっ……んん……ぁ……寝ちゃってたんだ……」


 外はすでに暗く、街中に人の気配はほとんどない……見えるのは星と月の明かりだけ……


「旅人様ぁ……」


「どうした?」


「わひゃぁあああっ!?」


 気づくと窓から入ってくる旅人様の姿が、え?もしかして寝顔を、いやそれはいい、もうすでに見られてる、それより変な寝言でもいってた???彼が帰ってきて嬉しいけど、パニックにもなる私だった。



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