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第10話

「コホンッ、そ、それで、国境はどうだったのでしょうか?」


 とりあえず、無理やり平静を保つ……だいたい旅人様は真面目に私のことを考えて動いてくれてるのに、私がしっかりしないでどうするのかっ


「あぁ、やはりかなり警備が強化されてるな……荷物、人物のチェックも厳重に行われてる……前に来た時とは明らかに様子が違う……十中八九、アンナが生きてることがバレたんだろう……いや、生きてる可能性を考えてるか……どちらにせよ、国境を抜けるのはかなり困難になった」


「それは、困りましたね……どうしましょう?えっと、夜なら警備が緩いとかないのでしょうか?」


「いや、逆に夜のほうが警備が厳しいだろうな……夜間に抜けようとするのは、明らかに人目を隠れたい連中だからな……夜のほうが警戒してるだろうな」


「それだと、普通に朝にいくということでしょうか?」


「そうだな……ここの国境は巨大な渓谷に橋をかけてるからな……ここ以外から抜けられるルートはない……渓谷を渡るのは俺単体なら可能だが……アンナがいる状態だと無理だな……」


「そう、ですね……多分、間違いなく力尽きて死んじゃいます……」


「あぁ、だから……強行突破する」


「あっ、結局、そうなるんですね」


「まぁ、できるなら気づかれずに帝国に渡りたいところだがな……あの状態だと、まず無理だろう……運よく、アンナの顔を知らないとか……まてよ……アンナ、アンネレーゼはずっと軟禁生活だったんだよな?」


「はい、そうです5年間ずっと部屋に閉じこめられてました」


「ふむ……そうすると、最近のお前をみたことがある人物はほとんどいないわけか」


「そう、ですね……傍付きだったリリノっていうメイドぐらいですかね?あとは、私を運び出すときにいた兵士、まぁそれほど多くはないですね……なんなら、私の両親すら成長した私の姿をしりませんよ」


「なるほど……ちなみに、アーモード辺境伯に会ったことは?」


「んー昔ならパーティーで会ったことはあったかもしれませんけど、覚えてないですね?」


「そうか、どちらにしろ今のお前を知らないわけだな?」


「はい、そのはずです」


 うん、そのはず……この世界には写真なんてものはないし、私の肖像画が描かれたこともない……だから、外見的特徴ぐらいしか話は流れてこないはず。


「なるほど……なら、いけるかもしれない」


「え?」



 ◇



 朝になり、私達は宿を出ると、馬車にのって国境を目指すことになった……


「うぅ……だ、大丈夫でしょうか?」


「あぁ、多分問題ない……それにダメならどっちにしろ強行突破するだけだ」


「な、なるほど……」


 私は、外套のフードをしっかりかぶり、手で押さえる……しばらく進むと、列が出来ているのが見えてきた。


「わぁ……すごい並んでますね」


「あぁ、検問の強化をした結果、どうしても捌けないんだろうな……まぁ、ゆっくり待つとしよう」


「は、はい……」


 とにかくゆっくり待つことになりました、正直私は緊張で心臓がバクバクと音を立てています……周りに聞こえないか不安になるぐらい……でも、旅人様は普通にしてるし……大丈夫、大丈夫……ひたすら自分を落ち着けようとしていると、なにやら検問所が騒がしくなりました。


「なにかあったんでしょうか?」


「んーこっからだと見えないな……」


 しばらくすると、前の馬車の人が戻ってくるのが見えました。


「すまない、なにがあったんだ?」


「ん?あぁ、辺境伯様がお見えになったんだよ」


「辺境伯って……アーモード辺境伯がわざわざ出向いてきたのか?」


「あぁ、滅多にこないからねぇ……現れて皆驚いたみたいだ」


「なるほど、ありがとう……」


 そういって、旅人様は話をしてくれた彼にお金を渡しました……


「あの、旅人様?お金、よかったのですか?」


「あぁ、情報には対価をしっかりと払う必要があるからな……こっちがわざわざ危険を犯して確認に行くよりも断然安全に情報が入ったわけだ……」


「なるほど……確かに、見に行けばわかることでも私達にはリスクになりますもんね」


 さて、それから1時間ほどして、ついに私達の番になったのです……少し前から見えてはいましたが、なんでしょう……あそこの偉そうな髭おじがアーモード辺境伯様でしょう……服も貴族が着るものですし、周りは兵士なので浮いてます……


 それと、明らかに人数がすごいです……国境を通過する橋の前に兵士が20人はいます……普通こんな数はいませんし……やはり私の存在がバレてるのでしょうか……不安でフードの端をぎゅっと握ります。


「止まれ」


「目的は?」


「冒険者です、帝国までの護衛依頼を引き受けて向かう最中です」


「護衛?そっちの人物か?」


「はい」


「荷物を確認させてもらう」


「えぇ、どうぞ」


 直ぐに兵士が集まってきて、くまなく荷物を調べていきます……普段ではしないほどの徹底ぶり……まぁ、見たことはないですが、とにかく時間をかけて荷物を馬車を調べています……


 調べ終わったのでしょう、兵士が首を横に振ると、私達に話しかけてきた兵士、なにやら頷いています。


「荷物は問題ないな、次に、先ほどからフードをかぶっているが顔を見せてもらおうか?」


 ついに来ました……すごく緊張する……でも、ここでとらなければ怪しまれる……私は覚悟を決めてフードをとりました……


「え、っと……こ、これで、いいですか?」


「ん、あっ、あぁ……」


「兵士さん、いくらなんでも女性の顔をまじまじと見るのは失礼ではないですか?」


「んっ、あっ、す、すまないっ」


 どうやら気づかれていないようです……まぁ、ある程度は予定通り……なにせ、今の私の姿は、何時もの金髪のストレートロングではなく、紫色の髪をハーフツインにしています……旅人様曰く、女性はこれだけで雰囲気が大きく変わるから十分変装になるんだとか……ちなみに、この世界に髪染めなんてないので、私の髪は、旅人様が持ってきていたブドウに似た果物を絞った汁で無理やり染めたものです……


「よ、よし、問題ないっ!行っていいぞっ」


「えぇ、ありがとうございます」


 よかった、無事切り抜けることができました……あとは橋を渡れば帝国です……国境さえ越えてしまえば、王国側は簡単に手出しができません。


「まてっ!」


「ひぅっ」


 急な大声と共に馬車が止まります……声をあげたのはアーモード辺境伯でした……


「そこの女、しっかり顔を見せてもらおうか」


「え?」


 こちらが答える以前に辺境伯は近づいてくると、私の顔をまじまじと見つめます……なかなかのイケオジですが、私は興味がないので、顔を見られてかなり不快です……


「辺境伯様、彼女がなにか?」


「……貴様……髪色こそ違うがっ!間違いないっ!アンネレーゼ姫っ!」


「チッ」


「キャッ」


 旅人様が馬車を急発進させ、橋を進み始める……


「逃がすなっ!追えっ!!」


 後ろから辺境伯の怒号が聞こえ、馬にのった兵士たちが追ってくる……馬車は速度を出しているけど、単騎の馬のほうが速く、どんどん追いついてくる……


「ど、どうしましょうっ!?なんでバレたんでしょうっ」


「辺境伯が存外、記憶が良くて見る目があったってことだなっ!顔を見て気づかれたっ」


「そんな、私あったことないですよ?」


「まぁ、王族はしらんがな、子供である以上、親に似てたんだろっ!」


「そんな……」


「ちっ!回り込まれたか……あと少しなんだがな……」


 視線を向けると、数人の兵士が馬車の前に出て馬上で剣を抜いている……そして、後ろからは、アーモード辺境伯を含めた兵士達追いかけてくる……


「さて……仕方ない……そこをうごくなよ……片づける」


 旅人様はそういうと馬車から降り、剣を抜き放ち、瞬く間に近くにいた兵士を斬り殺してしまいました……そして、向かい来る辺境伯に剣を向けるのでした…



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