「貴様……この私に剣を向ける意味をわかっているのだろうな?」
「もちろんわかってますよ」
「わかっているというのに剣を降ろさぬのだな」
「まぁ、敵対してますからね……俺は襲てくるとわかってる相手に気を抜く気はない」
「愚かなことだ……今すぐそこの娘を引き渡すならば命は見逃してやる」
「いやぁ、そういって見逃された試しがないからね……とりあえず、おとなしく見逃してくれれば、無駄に兵を減らすこともないぞ」
「愚かな……この状況でずいぶんと余裕だな……だが、無駄なことだ……かかれっ!」
旅人様と辺境伯が話てる中、じりじりと距離を詰めてきていた兵士たちが、この狭い橋の上で旅人様に一斉に仕掛けてきた……
「ふっ」
一番近い兵士の身体を旅人様の剣が容易く切り裂く……というか、兵士たちは鉄鎧をしてるのに、鎧ごと切り裂くなんて……どんな剣なんでしょう?それとも旅人様がすごいだけ?わからないけど、とにかく迫ってきている兵士がまったく相手になっていません……
「さて、どうする?兵を無駄に消費するだけだぞ」
うわぁ、すごい……あっという間に兵士が倒されて、橋の上が血まみれにぃいいいいっ!ひぃいいいい
「あ、アーモード辺境伯様っ!」
「……」
「あれ?聞こえてない?え、えっと……こ、これ以上無駄な血を流したらダメですっ!お願いです、私はただ国から出て呪を解除したいだけなんですっ!だから、お願いします、見逃してくださいっ!」
「くだらん……呪の解除だと?出来るかもわからぬもののために他国にも被害をもたらそうというのかっ!貴様がこの国の者だと知られれば我が国が他国から責められることとなるのだぞっ!お前はこの国に、いや、この世にいてはならぬ存在っ!大人しくその首を差し出せっ!」
「そん、な……なんで、なんでよっ!ただ、ただ生きたいって、幸せになりたいって当たり前のことを思うのもダメなのっ!ふざけないでよっ!全部、全部、あんたたちが勝手に決めたんじゃないっ!勝手に閉じこめて呪を解く方法も探さないで!邪魔だからって捨ててっ!あんたたちの考えなんて私には関係ないんだぁああああ!!!」
「ふん……お前の考えなぞ国のためにならんのだ」
あぁ、やっぱりこの国の人間はクズだ……私の事なんて考えない、自分たちの都合ばかり押し付けてきて……
「さて、辺境伯……子供の願いひとつ叶えようともしないアホな親に伝えておけ……いずれ後悔するってな」
「なんだと?」
「安心しろ……お前は生かしておいてやるよ……メッセンジャーは必要だろ?」
「ほぅ、先ほどと雰囲気が変わったな……それが貴様の本性か?」
「そんなことはどうでもいいさ……ただ、俺はお前たちみたいな自分勝手なだけのクズが嫌いでね。正直ここで皆殺しにしてもいいんだが……まぁ、しっかりと伝えるべき存在は残して見せしめとする」
「愚かな……私をそこらの兵とおなじと考えているのならば甘いわ」
辺境伯が馬を降りると剣を抜く……そして構える……なんだろう、兵士たちとは明らかに違う、すごく強者感があるというか……ダメだ、私の語彙力じゃ、表現できない……
「甘いのはどっちか教えてやるよ」
旅人様も剣を構える……両者しばらく睨み合い……そして、先に動いたのは辺境伯だった。ただ……
「み、見えない……なにあれぇ、速すぎるよぉ……うぅ、バトル漫画の高速戦闘とかしてるのってこんな感じなの?どっちも速くて見えない……」
残念、いやもしかしたら他の人は見えるかもしれない……私が虚弱すぎるだけかもしれない……わからないけど、とりあえずすごい達人同士の戦いみたいなのが繰り広げられてるのだけはわかる…
「ぐっ!バカなっ……貴様何者だっ」
「そこのお姫様の護衛の冒険者」
「ふざけるなっ!王国剣術を免許皆伝たる私を圧倒するなど……」
「圧倒って……まぁ、剣術(中)程度だろ?相手になるわけないだろ」
「なに?まさか……くっ!あり得ぬ、それほどの腕と天啓を持ちながらなぜ冒険者などしているっ!それほどの力があるならば、国から声がかかるであろうっ!」
「しらん、少なくとも俺はお前たちみたいなクズの下につく気はないから……とりあえず、そこのお姫様をさっさと帝国に連れて行きたいんでね……終わらせる」
「ふざけるなぁああああああああ!!!」
おお、なんだろう?辺境伯がさっきまでと違う構えをしました……もしかして必殺技ってやつでしょうか?
「王国剣術、奥義……」
ふぇ!消えたっ!?辺境伯のすがたが一瞬で消えました……
「ぐぁあああああああああああ!!!」
ふあっ!?消えたとおもったら旅人様がなにかしたのでしょうか?辺境伯が血を流して転がっています……というか、剣をもってた腕がない!え、う、腕は?
「ふぇ……きゃぁああああああああああああああ!!!」
私のそばに何かが飛んできて転がりました……それ……人の腕を視界に納めてしまった私はパニックですっ。悲鳴をあげるしかできません。
「ぐっ……殺せ……奥義すらもこうも簡単に破られるとは……」
「いや、殺さないって……とりあえず、国王にでも伝えとけ、お前たちの対応のせいで国を出るんだってな」
「ふざけるなっ!その娘を連れ出すなっ!呪が他国出発動したらっ」
「しるか、お前らの責任なのはかわらないだろ……とりあえず、さっさと止血しないと死ぬぞ?まぁ、どっちでもいいがな、じゃあな」
「あっ、た、旅人様」
「ほら、さっさと行くぞ」
「はっ、はい」
私は最後に辺境伯に視線を向けると、彼は斬られた腕を抑えながら、こちらをただ睨みつけていました……
そのあとは、結局兵士たちも誰も追ってくることはなく……橋を渡りきった私達は、ついにアルゼレアン帝国に入ったのでした。
―――アーモード辺境伯side―――
「辺境伯様っ!直ぐに治療をっ」
「ぐっ……やつらは国境を越えたか……」
「は、はい……申し訳ありません……」
「仕方あるまい……あの男は規格外だ……もしかしたらどこかの国の回し者の可能性もある……」
「辺境伯様、ご無理をなさらず……」
「ぐぅ……兵は、どれほど死んだ」
「は、はい……どうやら死亡者はいないようです……怪我は負っていますが致命傷にはなっていません」
「あの男の実力を考えれば、手加減されたか……とにかく負傷兵を連れ、急ぎ戻るぞ……くっ、私も、そろそろ……あとは、頼む」
「辺境伯様っ!」
◇
「うっ……私は、ここは……」
「おや、目覚めましたか……ご無事でなによりです」
「お主か……来ていたのだな……私はどのぐらい眠っていた?」
「3日ほどですね」
「3日か……ふぅ、仕事が溜まってしまうな」
「利き腕をなくしたというのに余裕ですね」
「余裕なものか……やつらを追うのか?」
「えぇ、陛下からもご指示がありました……まぁ、まさかあなたがやられているとは思いませんでしたが」
「ふん……追うなら十分注意するのだな……あの呪の姫を守っている男は危険だ」
「話は聞いていますが……あなたが負けた以上は実力者なのは間違いないでしょうが」
「うむ……打ち合ってわかったが、あの者の力……天啓を考えれば(強)いや、もしかしたら(高)の天啓を持っている可能性がある」
「それは……危険ですね……世界でもわずかしか存在しない実力者……それがあの姫を守っているとなると、簡単にはいかないですね」
「ふん……だが、どうする……やつらは既に国境を越えた……」
「えぇ、今は帝国側に早馬を向かわせています……現状、帝国と争うわけにはいきませんからね」
「ふぅ……とにかく十分注意して実行してくれ……出来ることならばあの男と争わずに、姫だけを消せればいいのだがな」
「ははは……こちらとしては騎士ですからね、暗殺はちょっと……」
「まぁ、いい……とにかく十分に警戒してことにあたれ……絶対に油断をするな」
「えぇ、あなたの言葉はしっかりと胸に刻みますよ」
呪を解くか……出来もしないことを……どちらにせよ、私にはもうどうすることもできない……あとは任せるしかないが、なにもなければ良いのだが……