私と旅人様は無事、国境を抜け帝国領内へと入ることができました……それから、私達は一番近くの国境沿いの街へと到着しました。
「はぁ……やっと街につきましたね」
「だな……とりあえずは、その頭どうにかしないとな」
「あうぅ……そうですね……うぅ、変なにおいします……」
結局果物の果汁で無理やり染めた髪からは、変な匂いがしている……もともとは国境を越えるための変装だったから抜けたらすぐに、水で洗い流すはずだった……でも、結局戦いになって、そのままの勢いで街まで移動した結果……すっかり悪臭放つようになってしまったのです。
「うぅ、早く洗い流したいです……」
「まぁ、もう少し我慢してくれ、宿をとってそこで洗い流そう」
「はぃぃ……」
旅人様が門番と話をしてすぐに、街の中にはいることができました……ただ、兵士さんに嫌な顔をされました……泣きたい……
「うぅ……早く、早く宿にぃ」
「わかった、わかった……とりあえず、周りを気にしすぎだ」
「うぅ、でも皆、私の匂いに嫌になってるんじゃぁ……」
「気にしすぎだ……よほど近くを通らなければ匂いに気づかないから」
「うぅ、そうなんですがぁ……女の子としては、髪から悪臭はもういろいろ終わりなんですよぉ」
「そ、そうか……あぁ、あれが門兵から教えてもらった宿だな」
「うぅ、早く~早く~」
「わかったわかった」
それから、旅人様が宿にチェックインしてくれました……私は急いで部屋に向かうと、そこで旅人様が用意してくれたお水と桶を使って、髪から果汁を洗い流します……
「うぅ……べとべとするよぉ……」
「はぁ……これをつかえ」
「え?」
旅人様が私に渡してくれたもの……それは、石鹸!!!
「石鹸!石鹸ですっ!いいんですかっ!?」
「あぁ、いいからさっさと洗い流せ」
「はいっ!」
うぅ、感動です……石鹸があるのはアンネレーゼとしての記憶でも知ってはいましたが、とっても貴重な品でこんな小さな石鹸1つで50万とかするらしいです……めちゃくちゃ怖いです……元々貧乏少女だった身としては、50万の石鹸と聞くと怖くて手が止まります……で、ですが、このまま髪を汚いままにもしたくない…
「つ、つかいますっ!」
「おぅ?なんなら、洗ってやろうか?」
「ふにゃぁああ!!」
「ど、どうした?」
「い、いいんですかっ!」
旅人様が洗ってくれるっ!私の髪をっ!やばい、想像したら興奮してきたっ!
「えっと、嫌ならいいんだが」
「嫌じゃないですっ!お、お願いしますっ!」
それから、旅人様は慣れた手つきで私の髪を洗ってくれます……ふぁぁ、幸せ♪ あれ?でも慣れた手つき……た、旅人様は私以外の女性の髪を洗ったことがあるの?うぅ、それは、それで複雑……で、でも、洗ってもらうの気持ちいい~~
「ほら、流すぞ」
「はっ、はい!」
ふぁぁ~~~すごいよぉ、髪が綺麗になったぁ……最近はまともに髪とか洗えなかったからなぁ……久しぶりでサッパリしたぁ
「アンナ、髪を拭くからうごくなよ」
「え?あ、ありがとございましゅっ///」
きゃー!更に髪まで拭いてくれてるよぉ……あぁ、幸せ、好きな人にしてもらえるなんて♪それからしばらく拭いてもらって、あらかた水分をとってくれました……この世界には当然ドライヤーなんてないので、あとは自然乾燥です……
「ありがとうございました!さっぱりしましたっ」
「あぁ、気にしなくていい……とりあえず、風邪を引かないようにだけ気をつけろ」
「あっ、そうですよね……お薬高いですし……」
「まぁ、それもあるが……わざわざ苦しむ必要もないだろ?」
「はうっ///」
「どうかしたか?」
「な、なんでもないでしゅ……」
ふぅふぅ、萌え殺される……とりあえずベッドに腰掛けて気持ちを整理します……旅人様は何の気なしにやってくるので、防御が間に合いません……大丈夫だよね……赤くなってないよね?顔をムニムニと揉んでみます……まぁ、鏡もないので見えないから赤くなってるかわらないけど……
「さて、じゃあ、俺は情報を集めてくる」
「え、あっ、はいっ」
そうです……これから先の道程も考えなきゃいけないんでした……旅人様のお話では、ここから目的地までは帝国をずっと越えて、国境を抜け、公国に入り、更に公国を抜けた先に目的地である魔法王国があります……
「まだまだ、先は長いなぁ……ふぁ……あぅぅ、眠い……少し、ねよ……」
―――旅人side―――
俺は宿を出ると、まずは冒険者ギルドに赴いた……ギルドは全国にあり、あらゆる情報が集まる場所でもある……まぁ、面倒な連中も多いのが問題だが。
「いらっしゃいませ!今日はどういったご用件でしょうか?」
「あぁ、すまない……いくつか聞きたいことがあるんだが」
とりあえず、ギルドの受付嬢に聞いたところ、この国では呪の姫に関する話は出回っていない……あっても、噂程度であり現状はそれほど警戒することはないだろう……ただ、数日もすれば王国側から情報が流れてくる可能性もある……出来るなら早くこの街を出て移動をしたい。
「おいおい、兄ちゃん!いつまで彼女を独占してんだぁっ!?」
さて、せっかく情報を聞いてるというのに、明らかに酔っぱらい、昼間から飲んでるクズが近づいてきた。まぁ、見た目からして冒険者であろうが、大したことはなさそうだ……
「受付嬢ちゃんの独占はんたーいぎぃいいいいいいいいいいっ!?」
「とりあえず、この森が公国と繋がってると?」
「え、えっと……そ、そうです」
「なるほど……ただ、結構な危険地帯でもあるわけか」
「えっと、そうですね……危険な魔物がいますので、気を付けておくださいね……」チラッ
「あぁ、ありがとう」
「ぐぇっ!?」
さっき吹き飛ばした男の顔を踏みつけてそのままギルドを後にした……
「……アクセサリーか……あの子も、そういやこういったのが好きだったな」
桜のような花をモチーフにしたブローチ……はるか遠い昔の記憶……まぁ、あの子にはもう会うことはできないんだ……感傷に浸ってても仕方ない……
「兄ちゃん、良ければどうだい?」
「いや……そうだな……わかった、ひとつ貰おう」
「毎度あり」
宿に戻り扉を開ける……ベッドでは、今の護衛対象がのんきに寝ている……
「はぁ、のんきなもんだな……まぁ、疲れてるだろうし、いいか……それにしても……いや、そんなわけないか……」
「んにゃ……んにゅぅ……」
「はぁ……寝るならしっかり毛布をかけとけ……」
「んにゅ……おう、どん……たべた……い……」
「……はぁ、やっぱ転生者、だよな……この世界にうどんはないし……うどんは、まぁいずれな……」
「ふにゃ?あれ……ん~~~?」
「おきたか」
「……たびびとしゃま?」
「あぁ、旅人だ」
「………はっ!お、おおおおっ、おはようございましゅっ!あっ、わ、私、ね、寝ちゃってっ」
「気にするな、ここまで神経を使ってたしな……休むといいさ」
「ありがとうございます///」
この子はなんだかんだで放っておけないし……まぁ、この子がどういう結末を迎えるか見守ろう……