―――コーラン伯爵side―――
「コーラン伯爵、今回は時間を作っていただきありがとうございます」
私の前にいるのは赤髪をした大柄の男……他国……アルクレイン王国からはるばる訪ねてきた騎士団長を務める男だ……
「なに、かまわんさ……それで、今回はどういった要件で?」
「えぇ……実はお恥ずかしい話ですが、我が国から危険分子がこちらに流れてきた可能性があるのです」
「危険分子?」
「えぇ、それを放置してしまえば貴国にとっても非常に厄介なものになるのは間違いありません、我らは被害が及ぶ前にその存在を捕縛、処刑したいとおもっています」
「ずいぶんと物騒だな……捕縛まではわかるがすぐに処刑にうつるほどのことなのかね?」
「えぇ……生きていてはならない存在、ですから」
「ふむ……それにしても、なぜ私を訪ねてきたのだね?ここは王都だ、直接陛下に謁見を求め協力を要請すればよかったであろう?」
「それは、伯爵様ならお分かりでしょう……」
「はぁ、まぁそうだね……アルクレイン王国と我が魔法王国は非常に仲が悪い、道中2国を挟んでいるからこそ戦争は起きていないが、隣り合っていれば戦争を繰り返しているだろうね」
「そうです……正直に言って、私が陛下に謁見を望んだとしても取り次いでいただけないか、仮に取り次いでいただけたとしても、協力の要請は断られるでしょう」
「それがわかっているなら、なぜ私のもとに来たのだね?私も魔法王国の貴族、当然貴殿の国のことを嫌っている貴族の1人だぞ」
「それは……コーラン伯爵様なら、唯一我らの話しを聞いていただけるものと、そう理解してまいりました」
「ほぅ?理由を聞いてもいいかね?」
「はい、あなたは魔法王国に置いて軍務を取り仕切る立場……国を護るという内容でならあなたは我らの言葉を無視できない、そう理解しています」
「ずいぶんと直球だな……まぁ、国に被害が及ぶ問題だというなら、アルクレイン王国からの言葉とて無視はできない……」
「えぇ、ですのでぜひ、我らの話しを聞いて、協力をしてただければと」
「なるほどね……まぁ、いいだろう、わざわざ遠方からこうして来たのだ、このまま無為に追い返してはまた貴殿の国の王から苦情が届くであろうしな」
「それは……申し訳ありません……」
「よい、両国の王が仲が悪いのはいまに始まったことではないからな……して、その危険分子とはどういった存在なのだね?わざわざ近衛師団を派遣してくるまでの相手なのかね?」
「はっ!対象は現在15歳の少女です……」
「弱冠15?まだ成人したばかりの小娘を貴国は危険だと捉えるのか?国に被害を及ぼすほどに?」
「はい……お恥ずかしい話ですが、対象は【誘引の呪】という魔物を引き寄せる邪悪な呪をその身に宿しています……我らはこれを処分したはずでした……ですが、どうやら生きていることがわかったのです」
「ふむ、それもおかしな話だ……なぜ危険だとわかっていて15まで生かしていたのか?天啓の儀式でわかった時点で殺すべきではなかったのかね?」
「それは……対象の生まれに問題がありまして……」
「詳しく聞かせてもらえるかな?あぁ、聞かせられないというなら協力はできない」
「うっ……はい……これについては陛下からも許可を得ています……ですが、これは王国の恥部、口外することは控えていただければと」
「よい、別に言いふらすつもりはない」
「ありがとうございます……まず、対象の名はアンネレーゼ・アルクレイン……」
「その名、アルクレインということは……」
「はい、対象、アンネレーゼは陛下その息女……第3王女という立場でした……」
「なるほど……王族であるが故、身内の恥を晒せなかったか?」
「いえ……アンネレーゼの呪の話しは直ぐに市民にひろがってしまったのです……それも会ってすぐに処刑という話しもあったのですが、王族を簡単に殺したとなれば他国にも、その話が流れるでしょう……そのためどうするかと検討をしている間に5年という月日が立ってしまったのです……」
「はぁ、愚かしいことだな……」
「それは……」
「まぁ、いい……だが、処刑を行ったのだろう?なのになぜ生き延びてると?そもそも死体を確認しなかったのかね?」
「アンネレーゼの処刑は、森に放置し魔物に食わせるというものでした……ですが、アンネレーゼを連れた兵が戻ってこないこともあり調査に赴いたところ、兵の死体と多くの魔狼の死体を確認しました……当初はアンネレーゼは喰われたものと思っていたのですが……」
「道中、それらしい人物を見かけたと?」
「はい……辺境伯様より報告があがりました……しかもアンネレーゼはどうやら協力な護衛をつけているらしく……」
「その護衛をどうにかし、完全に息の根を止めるために君たち近衛師団が派遣されたというわけか」
「はい、そうです」
「ふむ……」
「先ほども申し上げた通り、アンネレーゼは【誘引の呪】という危険な力を持っています……急ぎ処分しなければ、この国にもいつ魔物の群れが押しかけてくるかわかったものではありません」
「なるほどね……ふむ、まずそのアンネレーゼという少女の特徴を教えてもらえるかね?それに護衛の特徴もわかっているのだろう?」
「はい……」
それから彼の話しを聞く、そしてその話しの特徴を聞き私は覚えのある人物がいることに気づいた……
「なるほどね……ふむ、あいにくとその特徴をもった人物は私は知らないが……捜査には協力しよう」
「いいのですかっ」
「あぁ、君たちとしてもこのまま追い返されたとしたら困るだろう」
「えぇ…本当にありがとうございます……」
「私としても、貴殿の国の言葉を無視し追いやったら面倒なことになるのはわかっているからな……こちらとしても、いちいち国同士、王族が仲が悪いからといって戦争の火種を残すわけにはいかないからな……」
「申し訳ありません……我らとしても貴国と敵対する気はないのですが……」
「まぁ、王族と一部の貴族たちが喚いてるだけなのはわかっているがね……はぁ、とにかくこちらでも準備するから、君は戻るといい、ただしわかってると思うが勝手に捜査を行うのはまだ認められない」
「わかっています……では、返事をお待ちしております」
頭を下げ、彼は部屋を出て行った……私は窓から彼が歩いていくのを見る……
「ふぅ……困ったものだな」
コンコン
「はいれ」
「失礼します……」
「どうだね?」
「はい、現時点では彼らの行動に怪しい点はありません……ただ、すでにアルクレイン王国の騎士が入り込んだことを知った貴族や魔法使いたちの中に騒いでるものもいます……」
「そうか……まったく、あの国はいるだけで騒ぎを起こす、本当に困ったものだ……」
「本当に協力されるのですか?」
「仕方あるまい……手を貸さなかったとすれば、あの国の王がまたうるさいからな……そして陛下の耳に入ってまた諍いが起きる……面倒な限りだよ」
「……」
「あぁ、今回のことは私が対応するから、ほかの貴族どもや王族の干渉をさせないようにしてくれ」
「難しいことをおっしゃいますね……ですが、わかりました……すべてこちらで対応する旨を伝えておきます」
「よろしく頼むよ……さて、私は少し出てくるとしようかな」
「またですか」
「なに、私にとって大事なことだからね」
「かしこまりました……」
「そうそう、彼女の協力者に彼らを近づけないように手配を頼む」
「よろしいのですね?」
「あぁ……頼むよ」
「かしこまりました……」