「おおっ!そうだそうだっ!あ~飯食ってからで!後で時間をもらえるかい?」
「えっと、いいですけど?」
「周りに人がいると言いずらいことでなぁ」
「はぁ?」
旅人様に視線を向ければ彼も頷いています……なんでしょう?旅人様はボルダンさんの用事を知ってるんでしょうか?
「まぁ、ほらほら、食っちまおうぜっ」
「そうだな」
「え、はいっ」
ご飯、美味しい……♪まぁ、色んな世界の料理を食べれた日本出身と言っても私の家庭はアレでしたから……外食なんて無理でしたし……調味料も最低限しか使えなかったり、なんなら食べれなかったりも多かったですからね……この世界の食事は調味料が貴重でお塩以外の味付けはほぼなくて、薄い味付けが多いですが、私としてはこれでも美味しいです!
というか、こういったお店以外で外であんなに美味しいお料理を作れる旅人様のことを考えると改めてすごいですっ!この世界だと高級な調味料も持ち歩いてますし……たまに甘いお菓子も出してくれるんですよねぇ……お菓子は普通、高位貴族でもないと食べれない高級品……それを用意出来る旅人様……考えてみたら、星読みの魔女様もお菓子くれましたが……あれも高級品!星読みの魔女さん大奮発してくれたんですねっ!
「ごちそうさまでしたっ」
「そういや、嬢ちゃん不思議な言葉だな?最初もイタダキマス?だったか、なんか言ってたよな」
「え?は、はい……お、おかしいですか?」
「いやぁ、聞き覚えのないものだったからなぁ、たいていはそのまま食うか、神に祈るかぐらいだからなぁ……お前さんみたいなのは初めてきいたよ」
そ、そっか……私が普通に使う食事前後の言葉はこの世界ではないんだ……これまでも普通に使ってたから気にしてませんでした……旅人様からもおかしいって言われませんでしたし……そういえば、旅人様も私に合わせてなのか普通にいただきますもごちそうさまも言ってくれてたし……これは盲点でした…
「これは、えっと……」
どうしよう……転生のことは言えるわけないし……えっと、えっと……ど、どうすれば……あ、頭が回りません、あばばばばば
「はぁ……これは俺の知人から教えられた挨拶なんです」
「ほぅ?そうなのかい?」
「えぇ、”いただきます”は、食材となった生物の命をいただくという感謝を示し、”ごちそうさま”は命というご馳走を食べたことにする感謝……そんな感じですね」
「ほぉーそりゃ、初めて聞いたな……どこの地域の挨拶なんだろうなぁ」
「ここより遥か東方の島国の挨拶らしいですよ?まぁ、俺も詳しくはしらないんですが……もしかしたら、その教えてくれた人が独自に考えた可能性もありますしね」
「なるほどなぁ、それを嬢ちゃんに教えたわけか?」
「えぇ、まぁ、オリジナルの挨拶として面白いでしょ?彼女もすっかり慣れたんですよ」
「なるほどなぁ~」
「えっ、えっと、は、はい、そうなんです……あはは」
ど、どういうことでしょうか?旅人様がフォローしてくれるのはよくあることですし、今回もそのお陰で助かりましたが……で、でも今、彼が言ったのは全部嘘です……そもそも考えてみたら初めて会った時から普通に食事の挨拶をしていましたし……そういえば、思いだしてみたら、私も彼が普通に挨拶するから、この世界でもおなじなんだって思ったわけですし……ど、どういうこと?
「おーい、嬢ちゃん大丈夫か?」
「ふにゃっ!?」
「お、おぉ、ど、どうした?」
「あっ、な、なんでもないですっ!」
「そ、そうか?なんかボーとしてたから気になったんだが……ま、まぁいいか……」
「食事も終わりましたし、俺たちの借りてる部屋で話しませんか?」
「お、そうだな……そうしようかっ」
「わ、わかりました」
それから私達は借りてる部屋にはいります……扉を閉じると、ボルダンさんが何か取り出しました……石?が嵌った台座の用な物です?置物でしょうか?
「ボルダンさん、それはなんですか?」
「んぁ?あーこれは防音の魔道具だよ、お嬢ちゃん」
「防音の?」
「あぁ、これから話す内容を他者に聞かれないための対策さ」
「え?そんなに大事な話なんですか?」
「おぅ、俺にはまぁ、それほどだけど、多分お嬢ちゃん達には必要なんじゃないかなぁ」
私達に必要な情報?一体なんでしょうか……
「まーぶっちゃけ、兄ちゃんは俺の正体に気づいてるよな?」
「えぇ、そうですね……」
「え?ボルダンさんの正体?ですか??」
「おぅ!嬢ちゃんは俺が何者だと思う?」
「え、えっと……の、飲んだくれのおじさんじゃ……あっ、ご、ごめんなさいっ」
「あっはっはっ!かまわねぇ、お嬢ちゃんからみたら変わらねぇだろうからなぁ!実際飲んだくれだしよぉ」
「あぅぅ」
「はぁ……さて、こっからは真面目な話しだ……」
そういうとボルダンさんのさっきまでの表情と違ってすごく真面目な、どこか威圧感のある顔に変わりました……あまりにも真剣なその目に私は緊張してしまいます……
「これから言うことは、当然だが俺から聞いたとは言わぬように頼むぞ」
「えぇ、もちろんです」
「え?」
「アンナ、この人はボルダン・コーラン伯爵……この国の高位貴族であり、政務を執り行う役人の1人だ」
「え……えぇっ!?」
「驚いたかね?」
「お、驚きました……え?え?ほ、本当に伯爵、様、なんですか?」
「いかにも、彼が言ったとおり私は伯爵だ……」
「え、えっと……な、なんで……」
「なぜ伯爵がこんな宿の酒場にいるのかと疑念に思うだろうな……もしかしたら、自分たちを監視していたんじゃないのか?そう思ったかね?」
「あっ、え、えっと……」
「まず、はっきり言っておくが、君たちのことを私は元々知らなかった、出会ったのは完全に偶然だ……君たちのことを”知った”のは最近のことだ」
「ど、どういうことですか?」
「今、この王都にはアルクレイン王国から騎士団が派兵してきている」
「っ!?」
「その反応を見るに、やはりか……君がアンネレーゼ王女なのだな?」
「そ、れは……」
気づかれた……王国の騎士もいる……わ、私はじゃあ、どうなって……
「安心したまえ、奴らはまだ君たちを見つけてはいない」
「え?」
「アンナ、安心しろ……この人は敵ではない」
「旅人、様?」
ボルダンさん……伯爵様は彼の言葉に頷くと、話しを初めたのです……