私達が宿屋で伯爵さまからの連絡を待つと階下がなにやら騒がしいです……普段もお酒を飲みに来る人達も多く騒がしいのは普通なのですが……明らかにいつもと様子が違っていました……
「旅人様……どうしたんでしょうか……?」
「俺は様子を見てくるから、待っててくれ」
「わかりました……」
旅人様は部屋から出ていくと、少しして戻ってきました……
「どうでしたか?」
「どうやら王国の騎士が来たみたいだな……それで女将と言い合いになってたみたいだ」
「い、言い合い?な、なんで……」
「まぁ、単純に聞こえた感じだと、俺らを探しにきた騎士の態度が悪くて女将がキレて、周りの客達も同調したみたいだな……」
「え……えぇ?」
「まぁ、約束通り俺たちのことは黙っててくれたようだし、騎士の態度が悪かったんだから気にすることはないだろう……末端も腐ってるとは面白いものだな」
「えっと……そう、ですね……」
「とりあえず、騎士は追い返してもらえたし、一旦安心してもいいだろう」
「そうですね……えっと、今後は……」
「まぁ、伯爵からの連絡待ちだな……星読みの魔女が大人しく情報をくれればいいが……とにかくそれまでは動けないし、俺もある程度情報が流れてるからな、伯爵に期待して待つしかないな」
「わかりました……」
それから数日……ボルダンさんの遣いの女性が私達を訪ねてきたのです……
「お会いするのは2回目ですね……コーラン伯爵閣下の秘書を務めております……よろしくお願いします」
「お、おねがいしますっ」
「わざわざすまない、コーラン伯はなんと?」
「はい、まず……星読みの魔女様からは情報をいただくことができましたのでお伝えします」
「頼む」
「では……呪を封じる方法はアシェルカ聖国にあり……以上です」
「それだけ、ですか?」
「はい」
こ、これだけのことで私達はあれだけお手伝いさせられたんですね……ちょ、ちょっと色々思うところはありますが、つぎの目的地が決まったと思えばいいんでしょうか……
「聖国……」
「旅人様?どうかしましたか?」
「いや、なんでもない……まぁ、この際だし仕方ないか……」
「?」
「次ですが、閣下からですが」
「あぁ、なんだ?」
「やはり、国民すべてに王国騎士に情報を流すことを禁じることは出来ませんので、王国騎士達もある程度情報を得てあたりをつけ始めているようです……閣下としても、お二人には急ぎ王都を離れたほうがいいと」
「そうか……そうだな……わかった、情報感謝する……俺たちは準備を整え王都を離れることにする…コーラン伯にはよろしく伝えてくれ」
「はい、お二人もお気をつけてください」
「あ、ありがとうございますっ」
「では、失礼いたします」
そして、秘書さんがかえって行ったあと、私と旅人様は急いで旅支度を始めることになりました……
「……はぁ……」
「大丈夫か?」
「は、はい……えっと、結局逃げるのは変わらないだなぁっておもって」
「王国が追いかけてきたからな……こればかりは仕方ない」
「そう、ですね……あの、ごめんなさい」
「なにがだ?」
「だって、私のせいで旅人様にもすごく迷惑かけてて……」
「気にする必要はない、俺は俺の意思でお前に付いてるんだから」
「/// ありがとう、ございます///」
彼の眼が声が真剣にそう言ってるのをわかる……それだけで私の心臓はドクドクと速く動く……真剣な表情でそんなこと言われるなんて……は、恥ずかしくて、嬉しくて///
「まぁ、とりあえずさっさと準備するぞ」
「は、はいっ///」
必死ににやけるのを我慢しながら、準備を終えた私は、明日の朝一で王都を離れることになりました…
「あの、旅人様」
「なんだ?」
「えっと、次は聖国にいくんですよね?」
「あぁ、そうなる……まぁ、神聖魔法を使う者たちが集まり技術を極めるために活動してる国だ……確かにあそこなら呪に対する方法があるだろうが……」
「なにか問題があるのでしょうか?」
「そうだな……あの国は……宗教国家だ……魔法国家とは仲が悪いな……聖国は唯一神を信仰する総本山だからな……」
「あ、あぁ……なるほど……」
「あの国はなんにしても信仰第一主義でな……唯一神を信仰してない対象にはとにかく苛烈なのが問題だ……ちなみに、アンナはどうだ?」
「えっと、私はその、こんな呪もあるので……か、神様は信仰してないです……」
正直転生なんてことが起きたし、もしかしたら神様がいるかもしれない、異世界だし居てもおかしくないかもしれないけど……多神教、複数の宗教が当たり前だった上、別に信仰心なんてないし、宗教に嫌なイメージを持つ人も多い日本人としては宗教国家なんかは正直、苦手意識のほうが多いかもしれない……
「まぁ、ここ魔法王国以外では唯一神教が主流だからな……あの国は色々他国にも幅を利かせてる、正直面倒な国だ」
「そう、なんですね……王国も面倒ですけど、聖国も面倒なんですね」
「あぁ…そういうこともあって正直近づきたくない国だったが、解呪なる封印の方法があるなら行くしかないだろうな」
「はい……うぅ、申し訳ないです」
「だから、気にしなくていい……とりあえず、今日はもう寝るぞ、明日は朝一早くに出るからな」
「わかりました」
私達はそのまま休むことになりました……明日はきっと大変になるだろう……見つからずに逃げられればいいですが……もし見つかるようなことになったら、旅人様にまた不安をかけてしまいます……
(どうにか……無事に、逃げ切れますように……)
「きゅぃぃ」
「カペラぁ……あったかい、ありがとう、お休み」
「きゅぅ」
私はカペラを抱きしめてゆっくり眠ることができました……
そして、朝になり、まだ外が薄暗い中……私と旅人様は宿を後にしました……預けていた馬車に乗り、伯爵さまが手配してくれていたので、この時間から外に出ることが出来ました……それからは、馬車を走らせどんどん王都を離れて行きます……出来れば、星読みの魔女様にも挨拶をしたかったなぁ……それほど長い間いたわけじゃないけど、親切にしてくれた人達としっかりお別れしたかったです。