―――グランツ・ドルメールside―――
「隊長!失礼しますっ」
「どうした?」
「はっ!明朝、一台の馬車が門から王都を離れたとの報告があがりました」
「そうか……ふぅ……考えたくはなかったが、ボルダン伯爵はこちらの協力を断ったわけだ」
「やはり……」
「まず間違いなくそうだろう……全隊に報告っ!急ぎ逃走した馬車を追うっ!」
「はっ!」
さて、アンネレーゼ王女……ここまでよくぞ生き延びたものだ……だが、陛下からの勅命……ここで確実にその首をとらせてもらう。
連れてきた我が第3騎士団の騎士達が慌ただしく準備をする……あちらは馬車、こちらの先遣隊の早馬をつかえば、すぐにでも追いつけるだろう……
「目的地は予想できたか?」
「はい……門を出た方向から考えて、国境を目指しているのだと思われます」
「こちらの方角だと、聖国の方向か……」
「はい、あの国では下手に武力を行使することはできません……」
「そうだな、聖国で暴れるようなことになれば教会が敵に回る……そうなると、国境までに討伐する必要があるか……」
「そうなります」
「わかった……小隊を編成し、聖国の国境の街へ向かわせろ……仮にもし逃げられた場合を考えて包囲網を敷く、後方より向かってきている隊も国境に向かわせるように通達せよ」
「かしこまりました」
「我らはそのまま追跡を行うっ!発見次第交戦にはいるぞっ!目標自体は脅威にならぬが、凄腕の護衛がついているという話だっ、重々注意せよっ」
「はっ!」
部下を見送り、私は自身の剣を抜く……国王陛下より賜った宝剣……これに誓って必ずや我が国から逃げ出した王女を討って見せよう……
「ただ、皮肉なものだな……この5年……呪を受けてから一度たりとも魔物の襲撃は起きなかったというのに……森へ捨てに向かったとたんに呪の影響らしきものが出るとは……もしかしたら……いや、今更だな……我が役目は元第3王女の首をとること……我が王のために」
―――アンネレーゼside―――
私達は王都を出てから数時間、馬車で走って移動をしています……お馬さんも疲れてしまうので休み休みにはなってしまいますが、今のところは順調に聖国に向けて進んでいます。
「追っ手は、来なさそう、ですか?」
「そうだな……ただ、あちらは脚の速い馬もいるだろうからな……すぐに追ってくるだろうな、あちらも俺たちが聖国に向かうことにあたりをつけてるだろうしな」
「じゃ、じゃあ……ど、どうしましょうか?」
「どうすることもできん、とにかく追いつかれる前に国境を越えるのが優先だな」
「えっと、そのまま追ってくる可能性は?」
「いや、それはないだろう」
「そうなんですか?」
「あぁ、聖国に他国の戦力をいれることはできない……下手に入れば教会が敵に回るからな、もし騎士たちをいれるとしても国王から直接、教皇に連絡をして手続きをする必要があるからな」
「そう、ですか……じゃあ、国境さえ越えれば安全ということですね」
「一応はな……ただ、聖国は呪に対してもうるさいところがあるからな……そっち経由で絡まれる可能性もあるだろう」
「そんな……」
「だが、今はとにかく聖国に入ることを優先するしかないからな……さて、そろそろ行くか」
「は、はいっ……お馬さんたち、ごめんね、また頑張って?」
私はお馬さんを撫でると馬車に乗り込みます……旅人様は御者台に乗ると馬車を動かし始めました。
◇
それからまたしばらく走っていると……旅人様が後方を気にし始め、馬車の速度をあげました……
「ど、どうしたんですか?」
「追っ手だ……」
「えっ」
「頭を下げて体勢を低くしていろ……」
「は、はいっ」
旅人様に言われたように私はすぐに馬車に隠れます……近づかれたら気づかれちゃいますが、遠目からなら見えないはず……です。
「早馬みたいだな……2頭こっちに向かってきてる……ほぼ確信してるだろうな」
「ど、どうしましょう……」
「本隊はまだみたいだし、近づかれた時点で処分する」
「わ、わかりましたっ」
それから、どんどんと馬の足音が近づいてくるのがわかります……私は緊張して心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかとすごく不安になってしまいます……
「そこの馬車っ!止まれっ!」
早馬にのった騎士がこちらに停車を求めてきますが、旅人様はそれを気にした様子もなく、ペースを落しません……
「止まれっ!止まらぬか!ならば、斬るぞっ!」
「おいおい、名乗りもせずにいきなり斬りかかると?やはり野盗の類か?」
「なっ!ふざけるなっ!我らは栄えあるアルクレイン王国の第3騎士団であるぞっ!」
「へぇ?騎士団のねぇ……なのに襲ってくるなんても問題じゃないかな?」
「うるさいっ!大人しく止まれっ!」
「はぁ……悪いが……お断りだっ」
「っ!?」
な、なんでしょう……騎士の声が聞こえなくなり、すぐに馬の嘶きと何かが落ちる音がして、すぐにその音から離れていきます……
「貴様ぁあああああああああああ!」
「お前も死ね」
「ギャッ」
そして、次も短い悲鳴と何かが落ちる音がしました……
「た、旅人様?」
「あぁ、2人とも処分した……とりあえず、このまま離れるぞ」
「は、はいっ」
そこからは少しペースを落して騎士2人を殺した場所から離れました……当然ここまで疾走したお馬さんたちは疲弊してしまい、途中で休憩を取ることになりました。
「大丈夫でしょうか……?」
「まぁ、こればかりはな……あの死体があるポイントを避けていてくれればしばらくは時間を稼げるだろうが……ただ、相手の正確な規模はわからないが、しばらくは時間は稼げるとは思うが」
「そう、ですか……」
「とりあえず、馬の回復を待ってからだな……」
「あの、大きく迂回して向かうとかはできないんでしょうか?」
「それも可能ではあるだろうがな……たぶん、すでに国境沿いに兵を派遣してるはずだ……時間を駆ければ本隊が追いついてくるだろうからな……」
「それは、確かに……」
「とにかく、最短距離で向かうことになる……とりあえず、軽く食事をとっておこう……さすがに時間をかけてられないから携帯食だが」
「はい、大丈夫ですっ」
携帯食……実は久しぶりです……やっぱりあまり美味しくないです……あと硬い……でも、今はそんなことを言ってられないですし、どうにか食事を終えました……
「馬も、大丈夫そうだな……ただ、さすがにさっきみたいな速度を出すのは難しいだろうな」
「そうですね……結構無理させちゃいましたし」
「そうだな……まぁ、とにかく急ぐぞ」
「はいっ」
それから私達は、聖国へ向けて再び移動を開始しました……