「そろそろだな」
「あ、あれ…ですか」
私達が向かう先、まだ遠いですが数時間もすれば着くであろう場所、大きな街が見えています……あれが国境の街……あの街を越えれば聖国領内に入ることになります……
「あそこを越えればいいんですよね……やっと安心できますね」
「いや、まだだな」
「まだ、ですか?」
「あぁ、ここからだと見えないけど聖国に行くには巨大な河川を横断する必要があるんだ……正確な国境とされるのは、その河川の中央でそれぞれの国の国境がある……つまりは、船にのってその国境を抜けるまではやつらが追いかけてくることができるんだ」
「そんな……それに、船って」
「あぁ、当然船が直ぐでるわけでもないからな……その間、どうにか防衛戦を行うことにもなるだろう……と、いっても街中で暴れるとは思わないけどな……このあたりは奴らがなりふり構わずの最悪のパターンの場合だ……」
「だ、大丈夫でしょうか……?」
「あいつらが、他国の街中で暴れるほど馬鹿じゃないことを祈るばかりだ……ただ、街中に入る前には確実に襲撃が起こることになるだろうな」
「隠れながら街に入ることって」
「出来ると思うか?」
「えっと、すごく見晴らしがいいですね……」
「そういうことだ」
ここまで来た以上は私達ももう逃げるなんて出来ませんし、あちらも私達をここで逃すつもりはないでしょう……そうなれば、街にはいる前に確実に彼ら騎士団は私を狙って襲ってくるはずです……
それからしばらく……私達が移動をすると、目の前に何頭いるのでしょう……少なくとも100は確実にいそうな数の馬とそれに跨る騎士の姿……翻る旗は王国のもの……そして、その中央でこちらを睨むのは、例の騎士団長です……
「止まれっ!」
騎士団長が声を上げ、旅人様は大人しく馬車を止めます……
「ずいぶんな大所帯だな」
「貴様らを確実に仕留めるためだ」
「たった2人を始末するのにそれだけの人数をそろえるなんてなぁ……そんなに重要か?この子が別に害になるわけでもないんだ、お前らの国からも出てる、放置しておけばいいだろう」
「それはできん……理由は言うまでもない」
「そうか」
「ふぅ……余裕の表情を崩さないか……恐ろしい男だ」
「どうだろうなぁ?」
騎士団長は無言で手をあげます……すると、騎士たちは次々と動き出し私達の周囲を囲んできました……逃げることのできないように包囲してきたのです。
「旅人様……」
「大丈夫だ」
「はい」
その言葉だけで安心できる……彼がこれまでずっと私を守ってきてくれたんだから……だから、私は不安になんてならない……のはさすがに嘘だけど、でも、信じてるのは本当だから……
「最後の警告だっ!アンネレーゼ姫を置いていけ、そうすればお前は見逃してやろう」
「はっ!女の子1人を大人数で囲んで殺そうなんていう盗賊と変わらん騎士様の言葉なんて聞く気はない」
「その言葉後悔させてやろう……抜剣!」
騎士団長の言葉に一斉に騎士たちが剣を抜きます……100を越える剣が私達に向けられます……
「かかれっ!」
「アンナ」
「はいっ!《障壁:物理》」
ガキィンッ!
私が張った結界に阻まれて大量の騎士の攻撃が止まります……彼らは明らかに驚き狼狽えたのがわかります……まぁ、さすがに、この人数の攻撃を防がれるとは思わなかったのかもしれませんが、止めれたのでセーフですっ!
「アンナ、ナイスだっ!そのまま維持してくれっ」
「は、はいっ」
「全員、打ち込み続けろっ!いつまでも持つものではないっ!」
騎士団長の言葉に騎士たちは何度も剣を打ち込んできます……ですが、うん……全然割られる気がしませんっ!これならこのまま何時間でも全然平気ですっ
「《水渦》」
「「「「「ぎゃあああああああああああああああ」」」」」
私の結界越しに、旅人様が水魔法を発動させます……結界のそばに集まっていた騎士たちは発生した水の渦に呑み込まれていきます……そして、大きく衝撃が走り爆発しました……
「ぐっ!警戒っ!魔法に注意しろっ!魔法使いは攻撃にうつれっ!騎士隊さがれっ!」
魔法使いたちが詠唱を終えたのでしょう……騎士が下がるのを待って攻撃に移ってきます。
「アンナ、次だっ」
「はいっ!いきますっ!《反射》」
放たれた魔法は私が使った結界魔法に当たると、すべてはじき返し、魔法を撃った彼らに帰っていきます……そして、着弾し爆発……彼らが吹っ飛び倒れていきます……クリティカルヒットですっ!
「なんという……くっ……魔法隊下がれっ」
「さて、そろそろ諦めたほうがいいんじゃないか?被害が拡大するだけだぞ?」
「なんなのだ……ありえぬ、呪以外の力を姫が持つなど……やはり理解が出来ぬ……」
「お前が見た通りだ……彼女がこの旅で得た力だよ」
「よもや、後天的な天啓を得るなど……しかもこれほど強力なものなんて……くっ……だが、我らは王のためここで引くわけにはいかぬっ!」
「そうかい……なら、全滅は覚悟しろよ」
「ぐっ……」
騎士団長は明らかに困った様子です……まぁ、本来ならこの規模で攻められてたった2人を倒せないなんてありえませんし……それがことごとく失敗してるとなればあちらも動きづらいでしょう……特に強みなのが、旅人様が一方的に魔法で攻撃できることですね……結界越しの攻撃が強すぎます。
「ほら、まだいくぞっ!《水渦》」
「急げっ、退避しろっ!」
だけど、やっぱり逃げきれずに水に呑まれる騎士たち……これで3分の1ぐらいの騎士が倒れたかもしれません……だいぶ削れたと思います。
「さて、どうする?大人しく引くなら俺たちはこれ以上、追撃はしないぞ?」
「くっ……」
「しっかり考えろ、こっちはまだまだ余裕がある、このまま戦ったところでそちらの被害が拡大するだけだぞ」
「……旅人と名乗る者よっ!我と一騎打ちをしろっ」
「それを俺が受け入れる理由はないが?」
「ならば、我らはここを退くことはありえないっ」
「はぁ……面倒だな」
「旅人様、どうしましょう……」
目の前でこちらをまつ騎士団長、それを見つめる旅人様……そして、少しすると、旅人様は結界から外に出たのでした……大丈夫、かなぁ……