さて、旅人様と騎士団長が互いに距離を開け睨み合っています……周りの騎士たちは動けないのか、動かないのかはよくわかりませんが……手を出すつもりはなさそうです……
「一騎打ち……受け入れてくれたことに感謝する」
「命狙ってる相手に感謝するのか?」
「仕方あるまい……正直、ここまで被害を受けるとは思っていなかった……だが、なんの成果もあげられず帰ることはできない……」
「まぁ、国の雇われは大変だな」
「……姫のことは正直、我らも思うことはある……だが、王からの命令は絶対だ……」
「そうかい、だが、俺は全力でアンナを護る……お前らの好きにさせる気はない」
きゃーきゃーきゃー♪ こんな切羽詰まった状況なのはわかるけどぉ!好きな人にあんなこと言われて堕ちない女の子はいなぁああいっ!ふぁああっ!!!
「姫はなにをしているのか……」
「気にするなたまにあることだ」
「そ、そうなのか……まぁ、いい……では、いくぞ」
「あぁ、かかってこいやっ!」
はっ!ちょっとトリップしちゃってました……気付くと、2人が刃をぶつけ合い戦っています……
「ぐっ、はぁああああっ!」
騎士団長の振るう大剣を旅人様がいなして、反撃をしています……あんなでっかい剣を振り回す騎士団長もなかなかやばいですが、それを普通にいなす旅人様の技術もすごいです……互いの動きが速いので正直、目で追うのは大変ですが……
「らぁああっ!」
「ぐっ、くぅ……なんという力……」
騎士団長を押し返す旅人様の力は確かにすごいです……完全に押してますし……これなら勝てそうです!
「ふぇ?」
旅人様が押してるのを見ていたら……視界の端で何かが光った……そして、それが攻撃魔法だと認識したときには、2人の戦う場所にその攻撃が届いていました……
「た、旅人様っ!」
爆音が響き、砂煙が舞う……私は結界を消して駆けだしたいのをぐっと堪えて状況を見ます……カペラも外套から顔を少しのぞかせて気にしているみたい……
「誰だっ!我らの決闘に水を差したのはっ!!!」
先に声が聞こえたのは騎士団長です……その声には明確な怒りが含まれているのがわかりました。
「名乗れっ!誰だっ!!」
「も、申し訳ありませんっ!」
「お前かっ!なぜこんなことをしたっ!決闘に水を指すなど、それがどれほどの侮辱行為かわかっているのだろうなっ!」
「わかっています……それでも、それでも、隊長が負けそうになって我慢が出来ませんでしたっ!」
「だとしてもだっ!この行為は許されないっ!」
「申し訳ありませんっ」
「あー……流石に驚いたな」
「旅人様っ!」
声が聞こえ、砂埃の中から彼が出てきました……怪我らしい怪我をした様子もありません……よかったぁ……
「私が無事だったのだ、君が無事なのはわかっていたが……無傷か」
「そんなっ、完璧なタイミングだったのにっ」
「いや、驚いた、とっさに水魔法で膜を張らなかったらやばかった」
「あの一瞬でその対応をするとはな……本当に恐ろしい男だ」
「それはどうも……さて、さすがに一騎打ちを申し込んできて、そいつの勝手とはいえ、一騎打ちを反故にしたんだ……これ以上お前と戦ってやる理由がないんだが」
「そう、だな……正直こちらとしても、これ以上戦うとしても一騎打ちを信じてはもらえないだろう……この人数で攻めきれないのだから、一騎打ちに持ち込んだというのに……邪魔をされて私も気分が悪い……」
「まぁ、お前の戦いかたは騎士として正道だったとは思う……とりあえず、アンナを狙うのはもう止めてもらいたいが」
「我らはこの場で引くことを約束しよう」
「だ、団長っ!?」
「ですが、それでは王の命令が……」
「黙れっ!このまま戦ったとしてもこちらの被害が大きくなるだけだっ!一度持ち帰り、今回のことを王へと報告する」
「わ、わかりました」
「アンネレーゼ姫」
「な、なんですか?」
「今回は我らは貴殿の騎士に破れた!ここで撤退をすることを約束しようっ!だがっ!王の命が再び降れば我らは再び貴方の命を狙うことになるだろうっ!その時まで、無事生き延びていることを祈ろう」
「わ、私には旅人様がいますっ!絶対安心なんですっ!あと、もう来ないでくださいっ!」
「ふふ、そうか……全隊っ!これより我らは王国へ戻るっ!準備をせよっ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「旅人殿」
「なにか?」
「今回はこういう形になったが、次、もし戦うような時が来たら、次こそリベンジをさせてもらいたい」
「まぁ、次はまともに一騎打ちしてくれるならな?」
「約束しよう」
「まぁ、それよりもアンナを狙わないでいてくれた方が助かるんだが」
「こればかりは、国王様の御意思次第なのだ……」
「宮仕えは大変だな」
「まぁな……とりあえず、今回はこれで失礼する……ここで繋いだ命、無駄にはしないように」
「当然だ、出来るならそっちはそっちで国王にアンナを諦めるように言ってほしいものだがな」
「私の口からは難しい限りだ……だが、アンナ姫の力、その有用性についてはしめそう……」
「それはそれで連れ戻せって言葉になっても困るがな」
「ふふ……では、進むがいいさ、国境を越えるがいい……さらばだ、好敵手よ」
「そうか、まぁ、憎しみあっての別れでないことを喜ぶとしよう、憎悪がると面倒だからな」
「そうだな」
いや、なんでしょう……敵同士なのに互いにわかり合ってるその感じ、ちょっといいです……まぁ、私はいたってノーマルなので、BLには興味ありませんし!
「旅人様、はやくいきましょう」
「あぁ、わかった……」
私達は馬車に乗るとその場を後にします……旅人様は一応警戒してはいたようですが、彼らが追ってくることはありませんでした……
「はぁ……やっと、やっと安心できますね」
「まぁ、な……ただ、次は呪の解呪なり封印の方法を探す必要があるからな……聖国でどう立ち回るかも考えないとな」
「はい……旅人様、ありがとうございます///」
「あぁ」
そのまま馬車は進み、国境の街へとはいりました……あとは船に乗って大河を渡れば、ついに目的地である聖国に入ることになるのです……