俺があいつと結婚するはずだった。
それが知らない内に結婚していた。
男の顔には見覚えがあった。
久々に顔を合わせた時は柄にもなくこれは運命なのではないかと思った。
二度目に顔を合わせた彼女は着飾っていた。
声をかけて連れ出そうとした。
そこに立ち塞がったのがあの男だった。
確か以前顔を見たことがある。
王室の護衛をしている中にいたはずだ。
それにしてもなんとも独占欲の強そうな男だったな。
「お前、本当に結婚したのか」
「ええ、まあ」
あんなことがあったのに何事もなかったように現れて館内を見て回るアメリアの後をついて回る。
「いつ」
「少し前」
「あの男のことが好きなのか?」
「だったら結婚しないでしょ。私の話はいいからあんたも仕事をしなさいよ」
「お前をからかってる方が楽しい」
「あんた、そんなに暇なの? それとも私が好きなの?」
「お前なんか好きじゃねえよ」
「はいはい。じゃあ暇なのね」
「暇ついでに出かけないか?」
「嫌よ、面倒くさい」
「ふぅん、じゃあ話しちゃおっかなぁ」
「なにを」
「あんたと俺がキスしたこと」
「はぁ? そんなこといつしたのよ」
と振り返ったアメリアの唇に唇を押し付ける。
「今」
「あんたねぇ。人をからかうのもいい加減にしなさいよ!」
「うるさい」
ふつふつと怒りをあらわにした彼女を引き寄せて口を塞いでいくと息苦しそうに上げた声に彼女が今までしたことがないことがわかり唇に指を差し込んで口を開かせて舌を潜り込ませた。
「逃げんなあほ」
身体をびくつかせて引いた頭を引き寄せて舌を絡ませる。
鼻に通るこもった抗議の声を無視して彼女の口内を堪能して唇を離すと上気した顔を向けられて背筋をなにかが駆け上がる。
「……なにすんのよ」
力が抜けて体にもたれかかりながらも息も絶え絶えに顔を真っ赤に潤んだ瞳で睨みつけてくる姿は気分がいい。
「お前旦那とわけありだろ」
びくりと肩を揺らした。
「へぇ」
ほんとうにわけありとは。
「これはこれは。あの王室に勤める人間がそんなことを」
べつになにが、とは言っていないのに後ろ暗いことでもあるのかアメリアは焦りだしていた。
「あ、あんたには関係ないでしょ」
「でも俺口を滑らせちゃうかもしれないしなぁ」
「……なにが目的よ」
「べつに? 俺はただあんたとデートできたらそれでいい」
「できるわけないでしょ。私は夫がいるの」
「夫、ね。べつに好きでもないんだろ」
かまをかけるとアメリアはそこで黙っていた。まじかよ。こいつ好きでもない男に操を立ててんのか。
「お前、あいつに弱みでも握られてんのか?」
「へ?」
「なんでもない。送っていく」
以前通った道を頭に思い描きその通りに進んでいく。侍従とか言ってたのも嘘なんだろう。みたところアメリアの旦那はアメリアを好きでもないわけではなさそうだったけど。こいつは本当になにに巻き込まれてるんだ。以前指定された場所で馬車を止め馬車の扉を開けていく。
警戒して座席の奥で身体を固くしたアメリアに手を差し出した。
「こんなところじゃしねえよ。俺ははやく帰りたいんだほらはやく手をかせ」
彼女の手を握り馬車からおろしていく。
「アメリア」
「……なによ」
一定の距離を開いたアメリアを馬車の壁に追い込んで「デート、忘れんなよ」「いやよ、なんで私が」唇を舐めると顔を真っ赤にして黙った。
ああ、可愛い。