「アメリア様はダウンタウンに部屋をかりてひとりで暮らしているそうです。報告は以上になります」
「そうか、わかった」
報告書を受け取りスペンスを下がらせるはずが動かずにいる彼を不思議に思い声をかけた。
「一言言わせていただいても?」
「ああなんだ」
咳払いをすると、
「あなたは馬鹿ですかっ」
なんとも蔑んだ目を向けられた。
「……失礼しました。業務に戻ります」
なんなんだあいつは。
いや、なんとなくわかっている。
アメリアが邸を出て行ってひと月が経った。
未練がましくスペンスに彼女の動向を知らせるようにしてある。
彼女は今も博物館で勤めているらしい。
時々見に行っているからわかる。
彼女はわたしがいなくても毎日を楽しめる。
そういう女性だ。
こうなるならあんな契約を提示するんじゃなかった。
もし正々堂々と結婚を申し込んでいたら彼女は振り向いてくれただろうか。
時間が戻ってくれるならなんだってするのに。
ありもしないことを思い浮かべてため息を吐く。
邸を出て行くまで彼女が話を聞いてくれることはなかった。
いくら想いを口にしても取り合ってくれるはずもない。
完全に自業自得だ。