「あなた、私をなんでも屋かなにかと思っているでしょう」
花屋の隅のカウンターには花が並べられていた。薔薇の花だ。茎には刺が生えておりその刺をひとつひとつペンチで取りながらアレハンドロはあきれたように浅くため息をついて「ね、アレハンドロ。お願い」「あなたのお願いはこれで何度目だったかしらねぇ」子供に諭すように遠回りに拒否を示していた。
しかしながらその数秒ののち、虚空を見つめた瞳がなにか思いついたように光ったように見えた。
それはあまり私にとって良くないような気がした。
「あなたが私のお願いを叶えてくれるならいいわ」
「……お願い?」
「銃の密輸があって、潰してきてほしいのよ」
「そんなの私じゃなくてもいいじゃない」
「そうね、でもあなたがいたからお願いしているのよ」
「断ったら?」
「あなたとの取引は解消ね」
「酷い!」
「当たり前よ。こっちだって銃で食べていくんですからね。密輸なんてされてちゃ商売が成り立たないわ。必然的にあなたも食べていけなくなるのよ。それでもいいの?」
「それは……」
「じゃあやってくれるわね、アメリア」
べつに私じゃなくてもいいのに。いつもだったらチケットだって用意してくれるのに。
「ねぇ、アメリア。ただで得られるものなんてないことはあなたがよくわかっているでしょう。もしあなたが密輸組織を壊滅してきてくれたならあなたが隠れられるだけの用意をしてあげるわ」
「……本当に?」
「ええ」
「約束よ?」
「ええ」
「わかった。引き受けるわ」
「取引成立ね」
薔薇の花束を器用に束ねてからアレハンドロはファイルを取り出してカウンターに広げた。
「標的はカルロス」
「カルロスって八番目にお金持ちのあのカルロス?」
「ええそう。そのカルロス」
「なんでこんな大物が銃の密輸なんかを」
「さあ。スリルでも求めたんじゃない。犯罪者の思考なんてわからないわよ。でも彼の密輸した銃で犠牲者がでてるの。見過ごせないわ」
写真の中に写る男はどこかの渋い役者のような厚みを醸し出していて、いかにもアレハンドロの好みの男だった。
「摘発したいらしいけど証拠が出ないらしくて私にまわってきたってわけ」
「ふぅん」
「近々盛大な寄附金集めのパーティーを開くらしいからあなたにはそこに潜入してほしいの」
「潜入ってどうやって」
「それはあなたが心配する必要のない話よ」
アレハンドロのことだ、誰かしらの弱みを握って黙らしたのだろうことが容易に想像できた。
「そうそう、アメリアあなた、ダンスは踊れたわよね?」