棺にはひとつ、またひとつと白い花が置かれていくと別れを告げるように家族に言葉をかける者もいた。
ひとりが声をかけた時、かけられた女性はトーク帽を被り黒いベールで覆われていた顔が固まっているように見える。ここからでも男がなんと口にしたのかアメリアはわかっていた。
それから崩れ落ちた彼女に手を貸してふたりがこちらへと向かってきたタイミングで馬車の死角に身を潜めた。
彼女の名前はシャーロット。
先日生まれたばかりの赤子のベティを抱えて気丈に振る舞ってはいるが今し方夫を埋葬した未亡人だ。
「それで、夫はどこにいるんです?」
開口一番シャーロットは真っ直ぐと見据えてそう言い放った。
「あの人がそんな簡単に死ぬはずはありません」
その瞳には確信めいた強い意志が感じられた。
「話が早くて助かります。実は……」
馬車をいくつか乗り換えて街中を抜けて森を抜けると開けた草原に挟まれたその向こうにはうっすらと雪化粧をした険しい山々がどっしりと鎮座していて声が上がる。
ピントを手前にずらせば目的地である山小屋が見えてきた。
丸太で作られた二階建ての大きな建物だったが馬車が到着するとスペンスはここでお待ちください。と言い置いてから山小屋に入ってくるのと入れ違いに肩を負傷していた大柄な男が姿を見せて馬車に駆け寄ってきた。
「……シャーリー」
名前を呼ばれた彼女の目元がわずかに揺れていた。
「すまない」
ルイ、あなたが無事で良かったわ。と言ったシャーロットの声が震えてそれを受け止めるように抱き寄せたルイと熱い抱擁を交わすふたりをすり抜けてスペンスの後を追うように建物に入れば暖炉の火で室内は暖かく満たされていた。
「今お茶を用意します。かけてお待ちください」
春と言っても山を登れば肌寒さが感じてひきよせられるように暖炉前のソファーに腰かけた。
手持ち無沙汰になって室内を見回っていると窓の向こうでシャーロットとルイが唇を重ね合わせているのが見えて慌てて顔を背けた。
「アメリア様?」
スペンスが視線の先を追うと「ああ」とだけ反応して茶器を用意していく。
「あなたもしてたじゃないですか」
それがなにを指しているかわかって顔が熱を持って口がまわった。
「あ、あれはクラウス様が無理矢理」
「私は、ジャレット様のことを話していたんですが。へぇ。そうですか。旦那様ともされたんですか。それはそれは」
スペンスの言葉に墓穴を掘ったことに気がついて黙るしか他に選択肢はなかった。
それから少ししてシャーロットとルイがソファーに腰を下ろしたところで再びスペンスが口を開いた。
「シャーロット様ルイ様ベティ様お三方にはしばらくの間こちらに滞在していただきます。アメリア様、申し訳ありませんがシャーロット様ベティ様をお部屋に案内していただけませんか? 長時間の馬車移動でしたから少し休まれた方がい意でしょう」
私たちには聞かせたくない話ってところかしらとは思ったが了承してふたりを二階へと案内することにした。