「俺はなにをすればいい」
足音が遠のいてからスペンスは視線を机を挟んで向かいに座る男へと戻した。
「あんたには俺の命だけではなく妻と子供も助けてもらった。あんたの恩に報いたい」
「そうですね。では、あなたを差し向けたのは誰なのか話してもらえますか?」
「キャメロン。奴を殺すように近づいてきたのはキャメロン・コナーだ」
「キャメロン・コナーと申しますとカルロス様の敵対する内のひとりですね」
「ああ」
「それがどうしてあなたに?」
「……金が必要で」
「経緯を伺っても?」
「……ギャンブルで、負けて」
「それで人ひとり殺すことになったと?」
「ああ」
彼の返答に思わずため息がついて出た。
「仕方ねえだろ。こっちには妻と子供がいるんだ」
ずいぶんと不遜な態度を見るに気づいた頃には引き返せなくなってしまったのだろう。
「妻子がいるならなおさらやりようなんていくらでもあったでしょう」
「俺だって」
「俺だって、なんです? 弁明できる言葉がおありに?」
続くはずだった言葉を遮れば口の開閉を繰り返してから押し黙った。
「あなたは最初から誰かに止めてほしかったのでしょう?あんなところで銃を撃つだなんてあなたの経歴から考えるならばらしくないことです。もっと手早く暗殺する方法などいくらでもあったはずです。あなたは、最悪、殺されることも望んでいたのではありませんか?」
「……それで妻と子供が助かるなら」
「あなたはどこまで馬鹿なんですか。出産したばかりの体で赤子の世話や日々の暮らしを送ることがどんなに大変なことか、支え合うあなたがいなかったらどうするんです。この先どう暮らしていけと? 少しは奥様のお気持ちを考えたことはおありですか」
「それは……」
本当に、どうして私の周りにはこうも後先を考えない人ばかりなんでしょう。
「今のは、どういうこと」
「シャーリー。お前いつから」
「あなた一体なにに巻き込まれているの?」
「そ、それは……」
こちらに助けを求められてもどうしようもない。
にっこりと男の視線を受け止めるだけで助けようとは微塵も思わなかった。
「今私はあなたに訊ねているのよ、ルイ」
ソファーから立ち上がり、扉横で視線を逸らした彼女の元へと向かった。
「私は、彼女をお願いしたはずですが」
「えっと……」
「あなた銃は使えますよね?」
「ええ」
しばらく話し合いは終わりそうにないことを横目で確認してから「来てください」彼女を連れてその場を離れた。