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第116話 初売り


「………………いやぁ、驚いた」


『そうだな、丸投げを前提に良くドラムストに来たもんだ』


「大丈夫、だったのですか?」


「うん、ハス君心配掛けてごめんね」


「いえ、私はご主人様が大丈夫ならいいのです」


「何この健気な天使……」


『…………手をワキワキすんな』


 カテリーデンに福袋を持って現れた芽依達。

 パーシヴァルも来るとは言っていたが、どうやらアリステアたち3人に説教されているらしく今の時間なら会う確率は低いと予定通り参戦する事にした。


 1人お留守番だったハストゥーレは2人の帰りに花が咲いたように笑って


「おかえりなさいませ、ご主人様」


 と、リアルメイドのような事を言われ芽依はばたんと倒れた。

 慌てて走りよるハストゥーレの服を掴み


「…………スカート、履いてって言ったら怒る?」


「いえ、ご命令とあれば喜んで」


『…………そこは断っても良いんだぞ』


 とハストゥーレは笑ってくれるから、芽依は服屋の常連客を捕まえメイド服を作って貰うと心に誓った。


 最近のハストゥーレに対する芽依の変態じみた行為にどこら辺で止めるべきか迷い出すメディトークだが、肝心のハストゥーレが嬉しそうにしている為困惑気味である。


「まぁまぁ!今度は何をするつもりだい!?」


 目ざとく芽依達を見つけた常連客は、大きさの違う3種類の袋を見る。

 テーブルいっぱいに並べた福袋を興味津々に見つめていた。


「これは福袋です。ヨーグルトなんかのデザート系に、肉、野菜と分けた袋なんですよ。中は見てのお楽しみでたくさーん入っています。それでぇ、このおねだーん!」


「んまぁぁぁぁ!安いわぁぁ!!」


 まさかのテレビショッピングのノリで伝えたら、客もノリがいい。

 大袈裟に反応して周りの客の目を引いた。


「さいっこうです」


「まかせて!」


 パチコーンとウインクする常連客は本当にフレンドリーで面白い。

 ちなみに、我先にと3種類全て買いノベルティにと用意したメディトーク特性の手羽先の甘辛煮をゲットして小躍りしていた。


「ああそうだ、ハス君お留守番してくれてたからメディさん特性ローストビーフ頼んでるからね。ソースがまた美味しいの」


「…………嬉しいです」


「くっ…………胸が苦しい……」


「ご!ご主人様!ご病気ですか!?大丈夫ですか!?」


『不治の病だ』


「不治…………!?そんな……!」


「大丈夫、ただの不整脈」


 慌てるハストゥーレがとにかく可愛くて仕方ない芽依。

 勿論ずっと年上なハストゥーレである。

 こんな可愛い人手放すなんてギルベルト領主様は馬鹿だなぁ……返さないけど……と独りごちる。


 福袋はお節のようにこの世界の人にはかなり驚かれた。

 しかし、芽依の世界から来た移民の民は目を輝かせて福袋を見た。


 好まれる服や日用品などの福袋はないが、お正月の雰囲気を味わえると、人気だ。

 しかも食料である。あって困るものでは無い。

 それぞれ50個ずつ用意していたのだが、それも飛ぶように売れていく。


「うわぁ、今度はなにー?」


「あ、フェンネルさんあけましておめでとう」


「うんおめでとう、今年もよろしくね…………それで、これは何かな?」


「福袋でーす!肉、野菜、デザートで分けて色々福に入っているんだよ。それでこの値段!」


「えっ安っ!!」


「内緒だけど高級食材もあるよ」


「全部買うね!1個ずつ!」


「まいどあり!」


 袋3つを渡してご機嫌の芽依は、ふと買い物客の女性2人がハストゥーレの腕に触れているのを見た。


「やば、本当に白だ」


「初めて見たー、しかも綺麗」


「いいなぁ、欲しいけど買える金額でないし……羨ましい」


「結構白目当てでここに来る人いるよね」


 クスクス笑う2人をハストゥーレは無表情で見ていたが、芽依はズンズンと歩いてきてハストゥーレの腕を掴み引っ張る。


「ごめんなさーい、お触り禁止なんですー」


「あ……いいじゃないですかー減るもんじゃないのに。あ、白のご主人様ってどこにいるんですか?私1日貸出して欲しいんですよね」


 ハストゥーレを離され不機嫌な様子の2人に芽依は作り笑顔で対応する。

 ハストゥーレの手を握ったまま首を横に傾げた。


「減りますー……1日貸し出し?」


「あれ、知らないですか?ご主人様と契約して1日貸出とか出来るんですよーお金掛かるけど」


「………………そうなの?」


「はい」


 ハストゥーレに聞くと頷かれるがその表情はピクリとも動かなくハストゥーレはあまりいい気持ちでは無いようだ。

 ふむ、と頷きさらにキュッと強く手を握ると、小さくご主人様……?と話しかけられた。


「…………じゃあ、お断りしますねー」


「は?だからご主人様に……」


「お断りしますー、ご主人様なので」


「え!?貴方が白のご主人様!?うそ……あれ、もしかして移民の民?服着てるだけじゃなくて?」 


 まさかの見た目年齢がそんなに変わらない女性が主人だなんて、と目を見開く2人に、フェンネルが割り込んできた。


「カテリーデンに来てこの子を知らない人まだ居たんだねー」


「あれ、私有名?」


「うん、かなり」


「そっかー。じゃあ冷やかしはおかえり下さい。うちのハス君に迷惑かけないでね!」


 ニッコニコで芽依は言うと、ハストゥーレ目当てで来ていた他の客もちょっと居心地悪そうにして顔を見合せている。


 キッパリ断った自分の主人に思わずふわりと笑うと周りがあまり笑わないハストゥーレの美しさにザワザワと騒ぎ出した。


「………………ご主人様」


「ん?どうしたの?」


「あとで1つだけ……お願いをしても……よろしいでしょうか?」


「!!フェンネルさん!ハス君が自分からお願いって!なんだろう!どんなお願いかな!?」


「…………あの、あとで……ちょっとだけで良いので……手をギュッと握らせてください……」


「っ!!…………手だろうがなんだろうがご自由にどうぞ!!」


 床に倒れ込み四つん這いで叫ぶ芽依を、少し席を外していたメディトークが呆れ顔で無言で見つめていた。






「……………………お姉さん」


「あ!二………………いや、少年。あけましておめでとう、いらっしゃい」


「うんおめでとう……ぶどうが欲しいな?」


「うん……あのね少年」


「なに?」


「………………こっちきて?」


「……うん」


 売り子側に呼ばれたニアはチョコチョコと中に入って来て、手招いている芽依の横に来ると箱庭から袋を出してしゃがみこみ中身を見せた。

 同じく座って覗き込むニアは無表情な中でも目をキラキラとさせて芽依を見る。


「ニア君用、スペシャルぶどうづくしだよ」


 潰れないように箱に丁寧にいれてあるぶどうが福袋になっていて、かなりの量が入っている。


「これ、僕に?」


「うん、どうかな」


「…………嬉しい」


 ギュッと抱きしめて笑ったニアに、芽依は思わず鼻を確認した。

 ………………大丈夫、出血してない。


 そんな2人をハストゥーレが眉を下げて見ていて芽依は、ん?と首を傾げると客が来ていない事を確認してからトトト……と近付いて来た。


「…………ご主人様」


「はいはい、なぁに?」


「あの……捨てないで下さい……」


「なぜそんな思考回路になりましたか!」


 もじもじと自分の手を握りチラッと芽依を見る可愛らしいハストゥーレの腕をガシッと、掴み聞く。

 ちなみに、背が高いため肩に手が届かなかった事により腕を選択した。


「……その……彼の方がいいのかな……と」


 ハストゥーレの視線の先はニアで、ぶどうを持ちながらキョトンとしていた。











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