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第129話 備蓄部屋


 シャルドネによって備蓄部屋が作られたのはつい最近だった。

 芽依が常々考えていた箱庭以外の備蓄場所。ドラムストの備蓄を受け持つシャルドネに相談していたそれが、やっと日の目を見た。


 広い敷地に佇む茶色の立派な5棟の建物がそびえている。

 この建物には時間停止が施されていて、ガバリと大きく開く扉を開けると、中には棚や籠などが綺麗に並んでいてそれぞれ収納が出来るように元より作られていた。

 片付けの苦手な芽依の為に、何処に何を置くのか予めシャルドネと話し合い、倉庫に荷物が届いた瞬間決められた場所に収納され管理されるように作られている有難い倉庫なのだ。


 こちらは領主館から庭へ直通する扉からでは無く、芽依の箱庭から直接入り込める特殊な空間だった。


 芽依の所有となるその場所は、芽依の許可が出て初めて入場が許可される場所となる。

 時間の経過が違い、限度はあるが早めたり遅くしたりと自由自在なのだ。


 そんなこの場所に、芽依は昨日から引きこもっていた。

 勿論、庭の世話や食事などを終わらせた残りの時間で、である。

 この場所は、芽依の実験場所にしようと企んでいた。


 シャルドネに聞いたこの隔離された空間は、様々な利用価値があると言う。

 それは備蓄だけではなく様々な事柄に適した場に作り替えられるようなのだ。

 これにより、芽依は此処で新たな新種のじゃがいも精製に向き合う。


 そう、サツマイモである。


 そして、それとは別に芽依だけが庭を弄りその結果を知りたいとアリステアに言われたのだ。

 メディトークがいない芽依だけの恩恵で育てた場合の野菜や果樹園での育成過程や採取の現物状態が見たいから、との事で、芽依はこれを快諾する


「ふっふっふっふっ!!まずは5種類からだ!!」


 既に土を買い庭の整備を終えた芽依は、たくさんのじゃがいもを植えていた。

 あの2年熟成甘い芋作成の為の場所がどうしても欲しかったのだが、こんないいタイミングで手に入るとは芽依も思わずニヤリと笑う。


「なんたる幸運、なんたる奇跡!こんなタイミングで素晴らしい庭をもう1つ手に入るなんて!」


 芽依は血走った眼差しで、大量の種芋を土に埋める。

 シャルドネが言うには、甘い芋を作った男性は既にこの世に居なく制作も1人だった為、詳しい詳細を手に入れるのは至難の業であると。

 だが、この地方の扱われやすい芋の種類と、生前の男性が育てた芋を見たことがある人外者が、見た目から言って、ここら辺じゃないか……と教えてくれたのが、この5種類だったようだ。


 2年熟成も、土の中でなのか収穫してからか、温度管理は?平置きでいいのか?

 わからない事ばかりだ。

 芽依はそれを様々な方法で試し、さつまいもに近い味にするとヤル気に満ちている。


 全ては芋焼酎の為に。


「待ってろよ、芋焼酎ぅぅぅ」


 メディトークにもセルジオにも、あまりにも煩悩に溢れた内容だから1人でやりたいと言えなかった芽依なのでした。


 最初から全てを1人でするのは骨が折れる。

 だが、芽依は庭での経験もある為、箱庭のお手伝いも使いつつ広大な庭を1人で世話し続けた。

 酒への執念が凄まじいのだが、生憎黙々作業は嫌いでは無い。


「………………ふむ、時間の流れを早めると作物も早く出来るね……でも、普通の芋」


 土からゴロゴロ出てくるじゃがいもを見て、数個蒸すと、ただの美味しいふかし芋である。

 バターを落としてじゃがバターにし、ハフハフしながら1人で食べる。


 庭にじゃがいもだけだと寂しいだろうと、他の野菜も植えつつ、果樹園も作った。

 これにはセイシルリードの全面協力の元である。


 芽依にはセイシルリードの扉を1人では開けれず買い付けが出来ない。

 なので、呼び鈴を貰ったのだ。


 リーンリーンリーン


「はい、いらっしゃいませ」


「セイシルリードさんこんにちわ、これどうでしょうか?」


「拝見しますね………………ええ、品質はとても良く甘みや粘り気の強いものになっていまが……フルーツのような強い甘さは無さそうですね」


「そうですか…………あ、これじゃがバターどうぞ」


「これはこれは、有難く頂きますね」


「あと、栗の木買っていいですか?」


「はい勿論」


 セイシルリードは、シャルドネ付き添いで2年熟成のじゃがいもの相談をした。

 存在は知っているが、偶然の産物であったと作り方は分かっていないようだ。

  この再現を内密にしようとしていると伝えると、セイシルリードは笑みを深くした。


「ぜひ、お手伝いさせてください」


 こうしてサツマイモ計画は始動し、協力者もしっかり抑えた芽依。

 確認で呼び出す事数回だが、やはり簡単に当たりは出ない。

 呼び出し回数も多い為、申し訳ないが、そこは微笑むセイシルリード。

 実は、スイートポテトが気になっているようだ。


「収穫してから温度の変化を付けて時間を早めてみては如何ですか?温度管理は魔術符が有りますのでそちらを使ってみて」


「魔術符…………」


「はい、如何でしょう?」


「全部、やってみますね」


「はい、手配しましたらお渡ししますね。まずは栗の木をどうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 苗木を渡され1度箱庭にしまうと、栗の木(苗木)×30と表記される。

 それを見てからセイシルリードを見た。


「いつもありがとうございます」


「こちらこそ、いつもご贔屓に」


 2人で笑いあい、頭を下げてからセイシルリードは戻って行った。

 芽依は備蓄場所の庭に栗の木を植え、充実してきた果樹園を眺める。

 庭よりもプリプリと実がなりだしている果樹を見上げて、遠くにある苺を眺めて。


「………………うん、楽しいな」


 まだ庭には無い果物もこちらでは少しずつ成長中。

 苺が熟れたらいちご大福を作りたいけど、まだ色々足りないなぁ……とやりたい事リストを頭の中に思い描いた。


「早くサツマイモを完成させて、メディさんたちにもここを見せたいなぁ」


 くふくふと笑い、サツマイモを思い出しながら今日も庭の手入れに勤しむ芽依。

 美味しいサツマイモが食べたい、出来たら数種類は作りたい……と煩悩のままに涎を垂らしながらじゃがいもだらけになった庭の収穫物をせっせと箱庭をしまい、こちらは大特価で自動販売機に売り出した。


 品質の良い甘いじゃがいもは瞬く間に流行り凄いスピードで売れている事に気付かない芽依は、無くなっては売り出しを繰り返し、あの路地裏ではじゃがいもブームが起きている事に気付いていなかった。





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