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第130話 害獣対策


 雪が深く庭の中にもかなりの雪が積もっている2月に入り、芽依達は朝から晩まである事に走り回っていた。

 それは、害獣対策である。


 この雪深くなる時期、毎年恒例とも言える害獣被害が庭に襲いかかって来るらしいのだ。

 メディトーク曰くその内容は毎年代わり千差万別であるが、どれも作物を食い散らかす害獣ばかりである。

 昆虫タイプの姿をしている事が大半で、被害が大きい時は6割から8割程荒らされたり、大災害が起きる時もある危険な時期なのだという。


 その為、備蓄は勿論大事だが、庭を所持する人達は皆等しく害獣対策に走り回る。

 1月下旬から2月にかけて準備する事が多いのは、2月中頃から下旬にかけて害獣が発生する確率が高いからだ。

 薬液タイプの薬を噴射する対策が一般的なのだが、薬の効き目は長くない為、早めに撒けば効果が切れる。見分けるタイミングが大事なのだ。

 時には時期をずらして2回目を撒く人もいて、薬液は皆多めに購入している。


 厄介なのは、結界魔術を念入りに敷いても害獣はワラワラと庭に侵入し我が物顔で食い荒らしていくからタチが悪い。


 害獣対策は薬液だけではなく、その作物の種類によって無限に増えるため庭が広ければ広い程準備は大変なのだ。


「あとどれくらい残ってるかな?」


「まだあちら半分が終わっておりません」


「まだ明日も掛かりそうだねぇ」


 薬液の入ったボトルを握りしめて呟くと、ふわりと集まってきた雪虫が芽依の周りを飛ぶ。


「…………ん?フェンネルさん?」


 数匹集まり動くのは、フェンネル訪問前のご挨拶だ。

 これから来るようで、芽依は首を傾げる。

 今はどこの庭も害獣避けに必死な時期、庭持ちがフラフラ出来る時期では無いのだ。

 当然のように、この時期のカテリーデンの売り子が減るくらいには忙しい。


『どうした?…………あ?雪虫?』


「たぶんフェンネルさんだよね」


 指先に止まるフェンネルの雪虫を見ながら言うと、ハストゥーレは直ぐにお茶の準備を開始した。

 有能なメイドさんになりそうである。


 バシャバシャとボトルに残っている薬液を掛け庭の保護を続けていると、フワッと一瞬冷たい空気が流れた。

 2月の寒い時期、温室のように温度調整を始めた芽依の庭は全てでは無いが暖かい場所もある。

 今はその暖かな場所にいて、だからふわりと感じた冷気に顔を上げたのだ。


「フェンネルさん?」


「助けてー!!」


 後ろからガバッ!と抱きしめられ前につんのめった芽依をメディトークが支え、直ぐに戻って来たハストゥーレがフェンネルを容赦なく引き剥がした。


「わっ!……ハス君酷いぃぃ」


「ご主人様に許可なく触れたらいけません」


「触るのもだめ!?……あ、普通は駄目だった」


 今までの常識が芽依を前にして剥がされ始めたフェンネルは、その意識の変わりように驚き無垢な子供のように目を丸くした。

 移民の民とは人外者の嫁である。

 簡単に触れ合ってはいけない存在なのだ、普通は。


「フェンネルさんいらっしゃい、どうしたの?」


「あ!薬液を買うのが遅くなってどこも売り切れで困ってるんだ、良かったら融通してくれないかなぁ?お願い!」


 芽依とメディトークに拝むフェンネルは必死で、芽依はまだ害獣被害を見た事は無いが、忙しなく庭を行き来している他の人を見るからに、かなり大掛かりな災害なのだろうと思っている。

 そんな対策が出来ず、フェンネルは半泣きだ。


「あーっと、メディさん余分に買ったやつまだあったよね?」


『あるぞ、ちょっと待ってろ』


「神様メディ様ぁぁぁ!」


「おー、荒ぶってる」


「薬液無かったら庭壊滅しちゃう……!!」


 首を振ってカタカタするフェンネルを見て、芽依は自分の庭を見る。


「…………庭……壊滅…………それはまずい」


『おう、これで足りるか?』


「ありがとう!!」


 業務用の大きなタンクに入った薬液を2つドスン!と置いた。

 それに歓喜したフェンネルは頬を染めて喜んだ。

 うむ、可愛らしいにつきる。

 急いでいるのだろう、フェンネルは薬液を消してしまい、直ぐに準備しに行く!ありがとう!とメディトークの足に一瞬しがみついてから消えていった。


『…………しがみつくな』


「ふはっ!」


 害獣対策にはその他、野菜など特に食われやすい物に害獣避けネットを張ったり、果樹園などの高い物にも果樹用ネットを1つずつ付けていく。

 また、現れる害獣によって個別対策もあるらしいのだが、こればかりは現れないと分からないのでお手上げ状態である。


 これらの対策は魔術で出来るのだが、庭が広いとその分消費魔術の回数も多い。

 力の強い人間や人外者は困ることは無いが、力の弱い人間の庭はこの害獣避け対策がかなりの苦労をようするのだ。


 芽依の庭はかなり広く種類も多種多様にある。

 その種類毎に害獣対策は違っていて手間暇がかかるのだが、ここには素晴らしき万能人が2人居るのだ。

 いや、1人と一匹。

 芽依が出来なくても、2人でひょいひょいと魔術を展開していくのを見て芽依は呟く。


「………………人員が足りない、ブラック駄目、絶対」




 箱庭と繋がるメディトーク達がいる庭は害獣対策が必要。

 だが、備蓄倉庫がある場所は空間が違う為対策は必要なし。

 そもそも備蓄場所である為庭関連の害獣は現れないのだ。

 害獣対策を嫌がり断絶された空間で庭を育てる人も居るが、空間が断絶されている事で通常の豊穣と収穫の恩恵は届かず収穫量や品質が劣り、結果的にこういった場所での庭は出来ないと思われてきた。

 害獣対策の必要としない庭、それが誰でも使えるならこんなにいい事はないのだが、そんなに甘くない庭管理。

 実験で行う芽依の第2の庭は芽依が豊穣と収穫の恩恵を持つ為の特殊中の特殊である。


 翌日も使い庭の害獣対策をした芽依達は、抜けはないかを細かくチェックし、薬効成分が無くならないか確認しながら来る害獣へと対策を行ってきたのだった。







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