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第132話 庭の復興といらない事件


 今回の蝗の群れが襲いかかる2月の害獣の被害は、例年には無いたった1日で終了した。

 しかし、その被害は甚大で、芽依のような箱庭を持ち一気に収穫が出来た場合以外、多大なダメージを受けている。


 勿論芽依達の庭も甚大な被害を受け、芽依はため息と共に荒らされた庭を眺めた。


「…………ああ、酷い」


 庭の草木には一切興味を示さなかった蝗達は、ぶどうや野菜といったまだ未熟な野菜すら食い尽くしていた。

 害獣避けが項をなし無事な物もあるが、野菜の3分の1は荒らされたのではないだろうか。


 がっくりとする芽依だが、これからは復興作業である。

 大切な土が無事だったのだけは僥倖だ。


「…………復興作業」


 この復興作業がまた大変なのだ。

 今回は野菜やぶどうの実だけを狙われた為、土を耕す必要は無いが、蝗の害獣がもたらす負の影響は食われた野菜達が腐敗して周りに伝染させていくようだ。

 いち早く処理をしないと他の助かった野菜すら駄目にしてしまう。


「野菜の3分の1とはいえ広い上に食い散らかしてる場所がバラバラだから大変でしかない!!」


 工場などの建物は無事、お肉になるガガディの皆様達も避難していたのでそれも無事。

 やはり、野菜とぶどうが被害甚大である。


 こうして最低限の庭の整備をしつつ、食われた野菜類を排除していくこと数日、じわじわと元気だった野菜やぶどうに侵食されつつ、必死に庭回復に勤しむ時、芽依達の耳に宜しくない情報が入ってきた。






「え、ユキヒラさんとメロディアさんが……?」


「ああ、幸いに命に別状はないが酷く深手を負った。メロディアに至っては力を吸い取られ下位に落とされている」


 それは突然の話だった。

 どこの庭でも今は復興に力を尽くし、カテリーデンでの売り子も少しずつだが増えてきたそんな時、入ってきた不穏な話。


 ある程度庭の復興を終わらせたユキヒラとメロディア達は、久々のカテリーデンに販売に出かけた。

 いつもよりガラガラの会場に、少ない食材。

 そんな悲しい会場に突如として現れた1人の人外者。


 銀色に近い白の髪にうっすらと花のような跡があるその人外者は短銃を持って現れた。

 周りを一切見ることなく、歪んだ笑みを浮かべて会場にきたその人外者は入口にいたカテリーデンの職員を撃ち殺した。


 ザワつくカテリーデンの中、一際響いた銃声に全員の視線が鋭くなる。


「………………なんだ」


「ユキヒラ、私の後ろに下がって」


「……わかった」


 流石に長くこの世界にいるユキヒラ、ただ不思議で美しいだけでない、殺伐とした世界の異変に対応する平常心はあるようだ。


「ドラムストのカテリーデェェン……まずはここからだぁぁ」


 ジャキ……と銃を構えて近くにいる売り子の頭を撃ち抜きながらその人外者は言った。


 このドラムストは多くの人外者が集まり生活を共にしている。

 即ち、力の持つ者がこのドラムストを守護している、あるいはそれに近しい状況にいる人外者が多いと言う事。


「まあ、貴方は一体何をしてくれてるのかしら!今は庭の復興の兆しが見えてきた大事な時期だと言うのにねぇ!!」


 近くにいる人外者が一斉に不審者な人外者に飛びかかったり魔術を展開したりと、一瞬で戦場と化したカテリーデン。

 人間も武器を持ち身を守る人達がいる中、メロディアはユキヒラの腕を掴んで別の出口へと向かった。


「メロディア、いいの?あれ放置で」


「あそこにいる人外者の殆どが私よりも強い人たちばかりだわ!それよりもアリステア様達に連絡した方がいいわ!」


「あれって、移民狩りじゃないの!?特徴と似てるよ……っ」


「違うわ!移民狩りは…………花雪はあんなんじゃない!!」


 グッ……と唇を噛んで悲しそうに言うメロディアはユキヒラを逃がす様に出入口に向かう。

 メロディアと同じ様に逃げようとする人達と、足止めや倒すために向かう人達とがごった返しメロディアとユキヒラの手が離れてしまった。


「ユキヒラ!!………………あぅ!」


 振り向いた瞬間血まみれの人外者が吹き飛ばされメロディアを巻き込み壁に激突した。

 壁に近い場所に居たため、そのまま巻き添いになったのだ。


 痛みに顔を歪ませながらユキヒラを探すと、自分よりも強いはずの人外者達が軒並み膝を着いている事にメロディアは目を見開く。

 撃たれているのか、腕や足、腹部を抑えている人が多いのだが、そこから黒いけむりが立ち上がりメロディアはギリ……と歯ぎしりした。


「…………呪い…………」


 その中にはユキヒラもいて、メロディアはカッ!と体に熱を持つ。


「よくもユキヒラを!!」


 そこから、メロディアの記憶は曖昧だった。

 怒りに我を失ったメロディアはめちゃくちゃに魔術を使い、ユキヒラの呪い進行を抑え敵から距離を保つ事に全力を注いでいた。

 無意識の中で、敵を倒すことより伴侶を守る事に重点を置いたのだ。


「………………なにこれ、どうなってるの?」


 丁度参加の為に会場にきたフェンネルが、血なまぐさい会場の入り口でポツリと呟いた。

 真っ白な髪に花の模様がある歪んが笑みを浮かべた男を見て、フェンネルの目が据わる。


「やぁやぁやぁ!また1人犠牲者が増えたぁぁ」


「これはどういう事?」


「見たらわかるだろぉぉぉ?移民狩りってやつよ」


「移民狩り?君が?」


「おお!まあ、本物じゃねぇけどなぁ!模倣犯ってやつよ!…………殺したいだけだから、あの移民狩りはいい隠れ蓑になってくれんだわ!!」


 移民狩りが始まって500年、花雪を模した模倣犯は後を絶たない。

 上手に花雪を真似て移民の民とその周辺を殺して回る人外者もいれば、無差別に殺すヤツもいる。

 今回は無差別に殺して回っているのだろう。

 花雪のトレードマークとされる白い髪と花の模様にわざわざ擬態して。


「………………とても腹が立つね」


 フェンネルはそんな模倣犯を見て呟くと眉を跳ね上がる。


「なんだぁ、花雪と知り合いかぁ?珍しいなぁ……アイツは広く浅く知られているが、知り合いって知り合いはあんまりいないって聞いていたから…………あいつの模倣犯が増えてるのになぁ……実際のあいつを見たヤツは殆ど居ないもんなぁ?」


「………………そうだね、知り合いは極端に少ないけど知っているよ…………嫌ってほどね!!」


 ぶわりと風が吹き雪がチラつく。

 魔術を展開したフェンネルは、真っ白な髪を揺らして剣を握りしめ真っ直ぐ模倣犯に向かって行った。


「はっ!はっはっはっ!!貴重な重要参考人ってかぁ!じゃあ、今後の為にも死んでもらわないとなぁぁぁ!!」 


 そんな叫ぶ模倣犯を見ながら、衝撃波に吹き飛ばされ、呪いを受けたメロディアの意識は闇に消えた。


 報告を受けてアリステア達がカテリーデンに着いた頃には模倣犯は既に事切れ、じわじわと体が消えかけている所だった。

 慌ててそちらの処理もしつつ、怪我人や呪いを受けた人達の呪い解除にと忙しなく動き出したのだが、そこにフェンネルの姿は無かったという。










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