500年前からある移民狩りの模倣犯。
それは、1人2人では無かった。
移民狩りの犯人だと思われている花雪は、数回の犯行時、微かに見られた目撃情報によって指名手配のように全国に情報が回ったのだが、それも確定ではない。
しかし、模倣犯達はこぞって花雪の白い髪にピンクの大きな花模様を擬態して犯罪を犯していた。
今回のカテリーデンを襲った人外者も擬態が消えた時、そこに居たのは事切れた風の精霊の末端であった。
アリステアは風の精霊を調べようとしたが、自分自身にも呪いを掛けていたようで、触れる瞬間セルジオに止められた。
どうやらメロディア達に掛けられた呪い、力を吸い取り弱体化させる呪いを自分に触れる人間を対象に掛けていたようだ。
ズルリ……と体が崩れていくのをアリステアは呪いの為見ているだけしか出来ない。
セルジオが直ぐに調べるが、魔術の繋ぎで誰かと繋がっている様子も無いため1人での犯行のようだ。
だが、色々と不振な点があるのかセルジオの表情は硬い。
「……………………移民狩りの模倣犯……なぜドラムストに来たのだ」
「まずはドラムストのカテリーデンからだ、と言っていたみたいですね」
「魔術の繋ぎはないが、模倣犯の割には自己主張が激しいな。むしろ自分を知らしめる様な立ち振る舞いだ」
ふむ、としゃがみ消えていく風の精霊を見送った後、だが……と呟く。
「風の精霊はあまり他と手を組みたがらない。その性質をさっきのヤツも強く持っているなら1人での犯行も考えられるが……」
「違和感がありますか?」
「そうだな……何ともしっくり来ない」
アリステア、セルジオ、シャルドネが3人並び、その後ろに騎士が立つ。
セルジオは考え込み、顔を上げた。
「今日、売り子客どちらも合わせて移民の民は多く居たのか?」
「売り子にユキヒラとミカ、その他客に何人か確認は取れていますが害獣後ですのであまり来てはいないようです。ミカとアウローラは模倣犯が来る前に帰っていますね」
ボロボロになった会場にはもう誰も居ない。
死傷者の手当て等で忙しなく動く会場職員や騎士たちもようやく落ち着いた所だ。
アリステア達もぐるりと1度周りを見たあと、カテリーデンを離れた。
領主館で渡された書類には死傷者の数や、領主館に関係がある人物の現状といった報告の紙が無数に用意されていて、それを確認している所だった。
呪いを受け弱体化したメロディア達は揃って位を下げたが、それも一過性の物で時間が経てば元に戻るらしくアリステアは安心してため息を吐き出した。
「……………………模倣犯、か」
昔から現れていた模倣犯は、その移民狩りという性質を狙っての事が多い。
移民を喰う人外者は力の増幅の為に模倣犯となる人外者も多くいるからこそ後を絶たないのだ。
勿論に人間がそれを知ることは無いのだが。
「…………今回はこの1件で収まったが、一応警報を出しておこうか」
「そうですね、その方がいいかと」
1度模倣犯が出たら、まるで何かに憑かれた様に類似する模倣犯が現れる事があるのだ。
だからこそ、1度模倣犯が現れたら警告するのだ。
そうして、呼ばれた芽依はアリステアから模倣犯が現れた事、今後も類似する事件が起きる可能性があること。
そして、ユキヒラとメロディアの話を聞かされた。
目を見開き最初に確認したのは2人の安否で、命に別状は無いことにホッと息を吐き出す。
「と言うことで、ドラムストは暫く警戒態勢に入る。庭等の確立された守護の中では大丈夫だろうが、外出時はくれぐれも気を付けるのだぞ」
「………………わかりました」
芽依とメディトーク、そしてハストゥーレが直接言われた事で困惑気味に返事を返すと、メディトークとハストゥーレは険しい顔をしていた。
この2人も長く生きている、移民狩りの跡地を少なからず見たことがあるのだ。
そんな場所に決して主人を連れて行ってはならないとハストゥーレは手を握りしめる。
「………………模倣犯、そんなのあるんだね」
「快楽殺人だったり、あとは移民狩りを盾にして人外者が喰う為にやってたりなぁ……まぁ、色々だ」
庭にある椅子に座って寒空の下ティーパーティー。
暖かなパイ等を囲み3人でまったりと休んでいる話の内容は物騒なものだった。
やっと庭が落ち着いてきたというのに、巷ではまさかの移民狩りの模倣犯が出たというでは無いか。
芽依は数日後にはカテリーデンでの販売の再開、更には雪の季節限定のお祭りがある地域があるらしいので、それに行く予定だったのだが当然お祭りは中止となり芽依はがっかりした。
「…………お祭り行きたかったな」
『仕方ねぇだろ、来年だってあるんだ今年は諦めろ』
「そうだね、仕方ない」
ふぅ、と熱いミルクティに息を吹きかけて飲む芽依の隣に全く同じミルクティに必死に息を吹きかけているハストゥーレ。
猫舌な彼は、可愛くご主人様と同じのを飲みますと宣言してミルクティを入れたのだが、最近そんなハストゥーレがツボにハマる芽依は胸元の服を強く握った。
「………………かわ」
『……メイ、お前少し落ち着け』
「だって!だってメディさん!この可愛さったら!齧り付きたい!メディさんに!」
『………………あ?俺?』
「知ってる?メディさんって硬い足を噛み締めると旨みの強い珍味なんだよ」
『知らねぇよ!喰うんじゃねぇ!!』
「………………酔った時だけね」
『酔っても喰うなよ……』
最近酔いが回りすぎた時、芽依はもう諦めて欲望のままに齧り付き、翌日謝ると変な決意をした。
そんな芽依の
癖をメディトークはもう呆れ気味である。
「それにしても移民狩りって犯人捕まらないの?強い人いっぱい居るのに」
「……犯人だと思われている花雪という妖精は少し特殊なようです」
『足跡を花に変えるヤツでな、足跡を掴みにくいんだ。いつも事件が終わった後1日以上たった後に発見されて、偶然花雪の出す特殊な花が落ちている現場が多数あったから花雪じゃねぇかって言われてんだ』
「以前目撃情報もありましたが、それも曖昧なのです」
「………………花雪……」
『気を付けろよ、アイツに変わる美しい妖精は居ないと言われるくらい花雪の外見は綺麗なんだ。移民の民が花雪を見て魂が吸い取られたって比喩したヤツがいるくらいにな』
「………………吸い取られる」
「それくらい、綺麗らしいです。私は見たことはありませんが」
「………………そっかぁ」
芽依は、不思議な親近感を感じていた。
美しい妖精……それは沢山の人外者に会いみんな綺麗と思った。
そんな中でも特に綺麗な妖精。
「………………綺麗な妖精、かぁ」
芽依はパイを1口食べると、砂糖でコーティングされたパイがサクッと歯触りの良く音を立てた。
甘さがじんわりと口の中に広がり無言で飲み込んだ。