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第146話 さつまいもの試作はやめられない


 どんなに芋だと言って作り方を変えても品種が違えばそれはさつまいもでは無く、甘いじゃがいもでしかないとメディトークに言われ、そりゃそうだとなった芽依。

 じゃがいもの作る過程を様々変えてみても、品種の違うじゃがいもなだけでさつまいもにはならない。

 さつまいものあのネットリとした甘さや独特の風味はじゃがいもでは出せず、また、食べた事のないメディトークやフェンネルには味の想像が出来なかった。


「…………そもそもじゃがいもで作ろうとするのが無謀か、シャルドネさんに協力してもらったこの庭も無駄になっちゃうのかなぁ……」


 広く作られた畑には野菜が実っていて、定期報告の為にもアリステアには採れたて野菜等を出荷している。

 度々食卓に上がるようになった芽依の野菜達は、メディトーク達の働きもあり品種改良されて最初より味に旨味が出ている。


 そして最近気付いたあの輝く大根様。

 あれは、芽依が自ら収穫したもので、輝くその大根には雪の属性がある。

 なぜ……なぜ大根……何故に雪……と意味のわからない状況だが、この場所で色々試して見た結果、まるで武器の様に扱えるようだ。


「………………大根ってなんだっけ」


 遠い目をしながらハハ……と笑った芽依だったが、後々様々なキャパオーバーな出来事が判明するのだが、今はまだ分からない芽依であった。


「………………しかたないから、この余ったじゃがいもの皆様をどうにかしよう」


 5種類のじゃがいもの溢れかえった倉庫を見て、そっと閉めようとしたのだが、芽依はピタリと止まる。

 そしてすぐに箱庭を出し、自室に戻ってから庭へと走り出した。


「そうだ、雪山かりれないかな……フェンネルさんの雪山にここのじゃがいも入れてみたらどうだろう……痛むかな」


 そう呟きながら庭に向かった芽依を歓迎したのは満面の笑みを見せるようになったハストゥーレである。

 4月に入りぐっ……と暖かくなってきた。

 庭には雪が積もることも減って、以前よりも野菜達の収穫量がまた増えてきた気がする。


「ご主人様、これを見てください。まだ1つなのですが実りました」


「なになに?…………おぉ!林檎だ!」


「許可をいただけましたらこちらでアップルパイを作っても宜しいでしょうか?……ご主人様、アップルパイお好きですか?」


「………………うん、好き」


「良かった、頑張って美味しいの作ります」


 最初の頃の戸惑い言葉を発しなかった時より大分慣れてきたハストゥーレは最近自分から何かをしたいと自己主張をし始めた。

 芽依の許可を確認しに来るのだが、その基準が全て芽依が好きかどうかで決めるのだ。

 そんな健気で可愛らしいハストゥーレは、やはり新しい庭の住人であるフェンネルに少なからず影響を受けている。


 1度目が合えば視線を逸らせない美貌で微笑むフェンネルは、芽依に言われ雪に囲まれた庭の手入れを楽しそうにしている。

 最近は、芽依が髪を結ってくれるのでわざと解いて待っているのだと微笑んで教えてくれた。

 そんな彼の雪の下というブランドになっている野菜に興味津々のご主人様、芽依にハストゥーレは少し焦っていた。


 ニアの存在にも焦るハストゥーレ。

 今度はフェンネルと忙しい子であるが、特に同じ奴隷、しかも以前は仲の良い友人である為余計に焦りがあるようだ。

 だからこそ美味しい料理を作って芽依の関心を引きたい可愛らしさに身悶えしそうになっている。

 スイーツを選ぶのは料理を作るメディトークがいるからだと言いはしないが分かりやすいハストゥーレに可愛いなぁ……と芽依はホッコリしている。


「あ、メイちゃん」


「フェンネルさん」


 パタパタと汚れた服のまま手を振るフェンネルの側まで行くと、真っ白な髪が土で汚れていた。


「フェンネルさん!髪はちゃんと結ばないと駄目だよ。また汚れちゃってる」


「うん、ごめんね」


「反省する気ゼロ!」


 汚れた髪を綺麗に拭き取り編み込んで結ぶと、フェンネルの顔がしっかりと出る。

 グラデーションの花が一緒に編み込まれて白の中にピンクの線が浮かび上がっている。


「ねえフェンネルさん、ちょっと相談なんだけど」


「なぁに?」


 頼られたと嬉しそうにワクワクしているフェンネルに芽依はクラリとしながらも何とか話をする。

 花雪に戻ったフェンネルの美貌による殺傷能力は高い。

 粉雪フェンネルも綺麗だったが、花雪フェンネルはもう………………神様の1柱でもおかしくないと思う。


「フェンネルさんの雪山を借りれないかな……」


「ん……?あれは全てメイちゃんのだよ?」


「使っていい?」


「もちろん」


 笑って頷いたフェンネルに、芽依はホッとしながら5つのじゃがいもを見せた。


「………………このじゃがいもは?」


「さつまいもを作りたくて色々試作してたんだけど、やっぱりじゃがいもからさつまいもに似せるのは難しいなぁって痛感したよ。でも雪の下の野菜は甘いから……やっぱりもう少し頑張りたいな。フェンネルさんにも手伝って貰いたくて……美味しいお酒の為だけどね」


 へへ……と笑って言った芽依にまたフェンネルは恍惚とした表情を見せる。


「…………うん、勿論いいよ……僕ごと全部メイちゃんのなんだから、許可なんていらないのに」


「………………いや、そうだけど……一応……えーと、フェン?ちょっとちょっと……?」


「…………なぁに?」


「なんでそんな近づいてくる?近い近い!」


「…………メイちゃんが好きだなって」


「え?ありがとう?」


「うん、どういたしまして。じゃがいも預かるね」


「あ、うん」


 ニコッと笑って雪山に向かうフェンネル。

 これから雪の下にうめてくれるのだろうと見送ると、ハストゥーレが隣に来て遠慮気味に芽依の袖を軽く握った。


「ん?ハス君?」


「ご主人様……あの……私も、ご主人様が……す、好きです!」


「…………くっ」


 サッと鼻を確認した後、芽依はギュッと抱きしめた。

 ハストゥーレの方が勿論大きい為、ヒョロリとしているが意外としっかりしている胸に顔を押し当て、腰に回した腕に力を入れる。


「私も好きだよ!!」


「……嬉しいです」



 可愛さに万歳。 








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