目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第147話 メイド参戦カテリーデン


 さつまいもの試作を繰り返す事数回。

 芽依の希望する本格的なさつまいもにはまだまだ到達しないが、それは仕方ないと割り切った所で明日は久々のカテリーデン参加である。

 実は、フェンネルの事があり騒がれたら困るとほぼ1ヶ月カテリーデンをおやすみしていた芽依。

 その間の販売は全てメディトークとハストゥーレに任せ切りになっていた。

 最初、フェンネルは1人で留守番をしていると言っていたが、一応犯罪奴隷だからな、とメディトークに釘を刺され、ちょっとしょんぼりしたフェンネル。


 しかしこれも、周りからの不躾な視線をフェンネルに当てない為の心遣いであった。

 実際カテリーデンではフェンネルの話を聞きたがる客はかなり居たようだし、芽依がフェンネルを見張っているから居ない旨を伝えると皆が犯罪奴隷だもんね、と納得した。



 アリステアの判断とはいえ、以前から芽依とフェンネルが仲良くしているのを知っている客たちはフェンネルを心配しつつも狂った妖精を1人で放置する恐怖もあるし、馴れ合いからくる甘さとも取られる。それでは困るのだ。


 芽依は弱いが、周りからは伴侶がきっと庭にいるのだろうと推測されている。

メディトークが何も答えない事を良いように勝手に解釈してくれた客たちに芽依はうっそりと笑った。


 きっと芽依が居ることで、伴侶とフェンネルのいがみ合い……してるなら、それを仲裁しつつフェンネルを監視しているのだろう、と。



 実際のところは2人で仲良く庭の手入れをしつつ、メディトークが置いていく牛乳プリンを美味しくいただいているのだが。

 忙しなく聞かれるメディトーク達とは裏腹に、芽依たちはまったりとした1ヶ月を過ごしていた。




『で、だ。明日から2人ともカテリーデンに行くが、色々聞かれんぞ。対策あんのか?』


「対策って言うかね……ちょっと着てもらいたいヤツがあって。えーっと、ハス君にも頼みたいんだ」


「はい、かしこまりました」


 持っていたふたつの紙袋を漁る芽依は、ブワッと持つスカートを翻すような勢いでそれを出した。


「じゃじゃーん!」


『………………お前、まじか。これ着せてカテリーデン?………………まじか』


「褒めてくれてありがとう。インパクトあるから全部ふっとぶんじゃない?」


『………………褒めてねぇ』


 フェンネルは出されたそれをマジマジと見つめ、ハストゥーレは少し顔を赤らめながら体に合わせている。


「多分ね、サイズは大丈夫だと思うよ。ハス君かわいーね」


「あ、ありがとうございますご主人様……」


『…………礼を言うんだな』


「メディさんにはお揃いのネクタイ。暖かくなってきたから急遽マフラーからネクタイに変更したよ」


『いらねぇ気遣い……』


「楽しみだね!」



 こうして迎えたカテリーデン。

 芽依はにっこにこで受付の前に立つ。


「お久しぶりです。これ参加料です」


 羊の肉をゴロリと置いて、更には野菜を箱でドン!と置いた。

 その参加料に似つかわしくない量にカテリーデンの職員が芽依を見るが、その後ろにいるフェンネルに表情を固まらせた。


「問題とかは起こしません。ただ、あれから初参加ですから、少し騒がしいかもしれないです」


 そう言って、肉と野菜を撫でた芽依に職員は頷く。


「なるほど、了解しました。ブースはこちらになります」


「ありがとう」


 今回は主人である芽依が、しっかりとフェンネルを御していることを知らせる為に対応をした。

 職員は、大人しくしているフェンネルを確認してから頷き案内をしてくれるようだ。

 普段はない職員付き添いの案内に内心ドキドキしつつ、用意されたブースにつく。

 場所は、多分様子を見る為なのだろう。職員が警備って立つ場所から程近い場所であった。


「………………なるほど監視付き」


「ごめんね」


「なんで謝るの。フェンネルさんは私の…………奴隷として堂々としていればいいんだよ」


『堂々とする奴隷なんぞいねぇぞ』


「いいの!もう、メディさん意地悪だなー」


 ハッ!と良い顔で鼻で笑ったメディトークの足をペシペシと叩いてから芽依は机に販売する商品を並べだした。

 その隣でフェンネルも出すのだが、芽依はすぐさまフェンネルの腕を掴んだ。


「まって、フェンネルさん」


「うん?」


「スカートめくっちゃだめ、太もも見えてた」


「男の太もも見ても楽しくないと思うよ?」


「だめだよ世の中には変態が沢山居るんだから!ハス君も、ゆっくり動いてね」


「はい、ご主人様」


『………………こんな所でこの服着せるお前が変態だろう』


「………………販売会では日常風景」


『どんな日常だよ』


 今日、芽依がフェンネルとハストゥーレに着せているのは色違いのメイド服である。

 フェンネルには赤をベースにしたクラシカルなメイド服で、荷物を持ち上げる時に邪魔になるとスカートを捲った瞬間、芽依の指導が入ったのだ。

 ハストゥーレは青をベースにしたメイド服で、デザインは一緒だがこちらは膝丈のスカートである。


 かーわーいーいー!と笑う芽依の頭には猫耳カチューシャをしていて、黒のワンピースを着ていた。

 生成色の大きなつけ襟がとても可愛らしいのだ。

 メディトークは芽依と同じ黒のネクタイで2人でご主人様感を出しているらしい。芽依曰く。


 可愛らしい服を着る奴隷2人と、その動作に注意する主人。

 それは確実に主人の罪だろう。

 必死に無表情を貫いたカテリーデンの職員も、フェンネルとハストゥーレを見てスン……と感情を消し去っていた。


「…………うん、いいじゃない。似合うんだもん。美しいって何着ても似合うよね……」


 フェンネルとハストゥーレを見て頷く芽依にフェンネルは品出ししながらにっこり笑い、同じく品出し中のハストゥーレもはにかんでいた。


『……………………おい、うちの奴隷共は2人ともM属性か』


「違うよ、メイちゃん至上主義なだけ」


「はい、ご主人様のご命令とあれば」


「くっ!尊いっ!!」


『馬鹿しかいねぇ』


 ハッ……と笑ったメディトークもなんだかんだ似合うと思っているのだろう。

 ズレたハストゥーレのカチューシャを直し、商品に引っかかり外れたフェンネルのエプロンの紐を結び直す甲斐甲斐しい姿に芽依の笑いを誘っている。


『………………何笑ってやがる』


「いやいや!…………メディさん含みで可愛い」


 思わず笑った芽依は前を見ると、遠巻きにこちらを見る客達に気付いた。

 行きたいけどどうしよう……といった雰囲気だ。

 芽依はにっこり笑うだけで、品出しを続けた。

 そこにはフェンネルの雪の下野菜も沢山置かれている。


「………………販売商品も増えたし、テーブル足りなくなってきたね」


「そういう場合は2ブース借りて繋げれるんだよ。場所代を2ブース分払わないといけないけど、その分広く使えるよ」


「じゃあ次から2ブースにする?テーブル繋げて使うなら私達分ける必要ないし」


『いいな、次から2ブース借りるか』


「じゃあ、メディさん次からお願い」


『おう』


 置けない……と販売する予定のチーズを持って困惑するハストゥーレ。

 それに気付いたフェンネルがチーズ以外の他の置けない商品を確認する。

 乳製品や果樹園で取れたもの、ワイン等が置けないようだ。


「どうしましょうか?」


「うーん、紙に書いて貼っとく?欲しい人は声掛けてって」


「では、お品書きします」


「紙とペンある?」


「はい、大丈夫です」


「お願いしていいかなぁ」


「かしこまりました、おまかせください」


 2人でしゃがみこみ話をして対策を練る様子を見る客達は顔を見合わせると、突然笑い声が響いた。


「あっはははははははは!!おまっ!!マジかよ!カテリーデンで着せちゃう?」


「ん?ああ、カイト君おはよう、いらっしゃいませ」


「おう、はよう!いやぁ、納品後直ぐに着てくれるのは嬉しいけど、カテリーデンって……あはははははは!!ゲェホ」


「笑いすぎでしょ」


「だってお前!猫耳、どこで手に入れたんだよ」


「…………………………セルジオさんに相談したらくれたよ」


 ニヤリと笑って言ったらメディトークとフェンネルが吹き出した。


「え、セルジオ?本当に?」


『………………まじか』


 本当は、ブランシェットが趣味で飾っている等身大人形に以前つけていたカチューシャであるのだが、反応が面白すぎてあえて黙る芽依。

 ニヤニヤが止まらなかった。








この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?